2-15
これの投稿前に誤字報告一件。
毎度ありがとうございます。
「ねぇマイン。私はどう書いたらいい?」
どことなく不安で釈然としないままに、アイの職業を記入するマインに今度は困ったようなリドルが問いかけてくる。
リドルの現在の状態を考えるのであれば、職の欄には農民と記入するのが一番正しいように思えた。
しかしその記入欄がある紙は冒険者ギルドへの登録申請用紙なのである。
農民という職に関してどうこう言うつもりのないマインではあるのだが、冒険者を名乗る職業にしては、かなり雰囲気にそぐわない気がしてしまう。
かといって、リドルに何らかの職を名乗るだけの技術があるかと問われると、身内としての甘い評価をしてみたとしても、かなり厳しい。
「とりあえず、戦士って書いておこうか」
戦うことができるのであれば、誰でも戦士を名乗って嘘にはならない。
リドルの場合、既にゴブリンやらコボルトやらを物理的な攻撃で倒してきているのだから、戦士を名乗っても問題ないはずだとマインは考える。
さらに戦士にはギルドがない。
その辺の農村のおばさんでもクワを振り回そうものならば、旦那さんの目には立派な戦士に映るだろう。
そんな自己申告程度で名乗れるような代物にギルドなど作っていたのでは、どれだけ広い受け皿を作ってみたところであっさりと溢れかえってしまう。
それが理由かどうかマインも知らないが、とにかく関係する組織がないので勝手に戦士を名乗ってみたところで、どこからも苦情が出ないのだ。
「戦士かぁ……剣士じゃだめ?」
「騎士王物語か」
件の娯楽小説の主人公は、冒険者になる時に剣士を名乗る。
小説の主人公として格好をつけるためなのだろうとマインは考えるが、これが現実となるといきなりそれを名乗るのはかなり難しい。
「うん、だめかな?」
「だめとまでは言わないが、剣士を名乗ると流派とか師は誰なのかと聞かれるぞ?」
世の中にはいくつかの流派が存在し、そこに所属して剣技を習うとそれを教える師匠がつくのが普通で、これに一人前として認められれば流派の看板を背負うことになるのだ。
もっとも、そういった流派に所属していない剣士が我流を名乗るということがないわけではないのだが、その場合は大概、失笑される程度の腕前であるか、あるいは天から授かったような才能を持っているかのいずれかで、圧倒的に前者が多い。
「マイン、剣技は教えてくれなかったもんね」
勉強はマインから教わっていたリドルが少し恨めし気に言うと、マインは苦笑を返した。
「魔術師だぞ俺は。剣技など教えられるわけがないだろ」
「そうだけどさぁ」
マインの言葉に不満そうにしつつも納得するリドルなのだが、実のところマインは一人前と言われる程度には剣術を習得していたりする。
長い時間を生きて来た賜物なのだが、言えばリドルに教えてくれとせがまれるのが分かっているので言わないことにしている。
一般的に魔術師は体を動かすことを苦手としているので、マインの言葉をリドルが疑うようなことはなかった。
「アイはどうなの?」
「私でしょうか? いちおうメイド護身術の内、メイド剣術については習得しておりますが、お教え致しましょうか?」
「うーん?」
「その場合、必ずメイド服を着用して頂くことになりますが」
「うん、止めとく」
アイが出した条件にリドルは即答した。
アイの言う護身術とはメイドとして主人を護るために編み出されたもので、誕生の経緯から考えればメイド服を着ろというアイの要求はおかしなものではないのだが、それを受け入れられるかどうかは別問題だ。
「とりあえず戦士に魔術師にメイドの一党……何か無駄に衆目を集めそうだが、大丈夫かこれ?」
冒険者の一党に見えるんだろうかと疑問に思いつつ、マインは一党結成の申請用紙の一部を指で叩いた。
「残る問題はこれだ」
「問題って……一党の名前?」
リドルはマインが指で叩いていた申請用紙の空欄を見た。
「一党のリーダーはリドルで登録するつもりだから、リドルに考えてもらうか」
「え? 私?」
「他に誰がやるんだよ?」
マイン達が村を出ることを決めたのは、リドルの行動によるところがほとんどである。
ならば一党を組むときに、リーダー役を担当するのはリドルをおいて他にいないとマインは考えていたのだが、リドルからするとその選択は予想外だったらしい。
「てっきりマインがやってくれるものだと」
「やってもいいが、俺がやるとひたすら堅実な依頼だけを地道にこなすぞ?」
マインがそう言うとリドルは嫌そうな顔をする。
リドルの目標は英雄になりたい、というものであった。
その源は騎士王物語という娯楽小説になるのだが、その中で登場している主人公はおよそ堅実だとは思えない難しい依頼をいきなり引き受けたりしてかなりの無茶をするのだ。
リドルもそこまで無茶なことは考えていなかったが、大なり小なり似たようなことをするよう考えていたはずで、マインの言う堅実な依頼ばかりを実行するというのは、リドルからしてみればあまり望ましくない展開になる。
しかし、自分の望む展開に持って行くためにリーダーを引き受けるか、と考えるとマインやアイを引きつれて、リドル自身にリーダーが務まるとは全く思えず、困ってしまったリドルは自分が困っているのだと言うことを最大限に態度に出してマインを見た。
「俺にやって欲しいというわけか」
「うん」
「それでいて、ある程度は娯楽小説的な展開も希望すると」
「あんまり無茶は言わないから。お願い」
お願いとリドルに頼まれれば、マインとしてはにべもなく断ることもできず、額を手で押さえて天を仰ぐ。
「リドルの希望に関しては、善処するというレベルでいいな?」
「分かった」
「俺の指示にちゃんと従うな?」
「善処する」
「善処か……まぁいい。分かった、俺が引き受けよう。その上でこの一党の名前なんだが」
「マインと愉快な仲間達?」
「却下だ。どこから持ってきたそのセンス」
「マスターと下僕達」
「アイ、お前にゃ聞いてない」
「マインがいいなら、私は下僕でも……」
「リドル、却下だ。そこは抵抗しろ」
リドルとアイの案を次々に却下するマインなのだが、だからといって何か他にいい案が思い浮かんでいるというわけでもない。
おかしな名前に決まってしまう前に、何かしら当たり障りのない名前を考えなければと自分の頭をフル回転させるマインなのであった。
200pの壁って厚いわ。
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