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2-12

 宿の空き部屋は役人の女性が言っていた通りにかなり余裕のある状態で、マイン達は特に困ることなく一人一部屋ずつを確保する。

 宿j血合いは領都の大通りを軽く散策し、目についた適当な宿にマインが決めた。


「酷い宿なら変えればいいし、一泊するだけだから問題ないだろう」


「ゴハンが美味しいところがいいなぁ」


 リドルから出た要望に、マインは少しだけ迷ったのだがすぐに答えを出す。


「宿の飯が不味かったら、どこか美味い食堂でも探そう。なんならアイに料理を頼んでみてもいい」


「私でしょうか? えぇまぁ専門外ではありますが、一通りは作れます。お望みとあればお応え致しましょう」


 アイの答えが微妙に自信なさげなのにはきちんとした訳がある。

 アイは他のメイドを指揮、統括するのが主目的である所謂上位個体であり、メイドとしての実務は全般的にやれはするものの、それを専門にしているメイドと比べると幾分技術が劣るのだ。

 つまり、かなりオールマイティなメイドではあるものの、スペシャリストなメイドではないのである。

 そんなアイからしてみれば、何十年かぶりにマインに料理をふるまうというのは、マインの好みなどがもしかしたら変わってしまっているかもしれず、そんな状況下で行う手探り状態の作業であり、自信をもって任せてくださいとは言い切れなかったのだ。


「マスター。できれば応援を呼ぶ許可を」


「メイドを一人連れて歩いているだけでもかなり奇妙な代物を見る目で見られてるっていうのに、増やしてどうする」


「ですが、私一人ではマスターへの十分なお世話が……」


「俺、そんな手間かかる人間か?」


 アイ一人では手に負えないレベルだとみなされているということに、マインはかなりショックを受けたように尋ね、これにアイは慌てて首を横に振った。


「違います。疑わしいのは私の能力の方で、マスターのせいでは……もっともマスターに手間がかかることは否定できませんが、今回は本当に私の方の問題でして」


 何かにつけてふらりといなくなり、年単位で行方不明になるような主人など、手間がかかって仕方がないだろうことはアイとしては強く主張したいところではあるのだが、今回の件はそれとは無関係であり、アイとしてはきっちりと否定しておかなければならないところであった。


「料理に関しましては、長くお傍におりませんでしたので、好みなど変わられているのではないかと」


「俺もリドルも好き嫌いはないぞ?」


 マイン達が育った村は裕福ではなく、下手をすれば食べる物に困ることもあるような環境であった。

 当然、食べられるだけ幸せであると思うようになるまでそれ程時間はかからず、マインもリドルも好き嫌いなどない。


「まぁアイに頼むのは領都の飯が不味かったらのことだ。その時は応援の召喚も考慮しよう」


 マインとしては口に入れるのも嫌になるくらいに不味い物でない限り、大体の食べ物は美味しく頂いてしまえる自信があった。

 それ故にアイが自信なさそうにしていても気にならなかったのだが、リドルのことを考えると料理を専門にしていたメイドを何人か呼び寄せることも考えなければならないのかなと思ってしまう。


「リドルにはちょっとはいい物を食べさせてやりたいんだよな」


 マインの村の子供らはマインから言わせると、幾分栄養不足の感じがあった。

 それはリドルも同様で、リドルは手足や体の線が細く、肉付きの方も決していいとはとても言えない。

 折角容姿が整っているのだから、村を出た今ならばたっぷりと栄養を取ってもらい、年相応のプロポーションを得てもらうべきだろう。

 そんな風にマインは考えていた。

 そのためならば、多少人目には奇異に映るかもしれないが、アイが応援を呼ぶことも止む無しと考えている。


「そんな感じだからリドル。食事に関しては遠慮なく感想を言ってもらっていいからな」


「どんな感じか分からないけれども分かった」


 リドルは力強く頷いたのであるが、食事に関する話はその後で、あっさりと決着がついた。

 最初に決めた宿で出された夕食。

 食べ比べなどをする事もなく、リドルはその味にあっさりと満足したのだ。


「満足してくれたのならば、それに越したことはない」


 一泊すれば引き払う宿であるし、冒険者ギルドにリドルを登録してしまえば、金銭を稼ぐ手段には困らなくなる。

 何より、美味しい食事を食べたいのであれば、支払う金はなるべく多く支払った方がいい。

 そう考えてマインは入った宿で普通よりもかなりいい部屋を頼んだ。

 普通ならば銀貨数枚で一泊二食付きであるところを、やや思い切って一人一泊二食付きで金貨三枚の部屋を頼んだのである。

 最上級というわけではないものの、普通の部屋の数倍の値段であるその部屋で、宿に併設されている食堂でではなく、部屋の方へとわざわざ運び込まれた食事に、リドルは一発で参ってしまった。


「マスター……もしかして、大分苦労されました?」


 一人で摂る食事はあまりにも味気ないからと、マインの部屋に集まっての夕食。

 その咳でアイは小声でマインに尋ねた。

 何のことだろうかと自分の分の料理に手をつけながら、考え込むマインにアイは言う。


「このくらいの料理であんなに嬉しそうに……」


 どうやらリドルの食べている様子から、アイはマイン達の今までの食糧事情が相当悪かったということを察したらしい。

 下品という程ではないのだが、もりもりと料理を平らげていくリドルの食べっぷりにアイは自分の分の料理もどうぞとばかりにリドルに勧めたりしている。


「そんな苦労はしていないが?」


「しかし……」


「リドルは物珍しさもあるだろうし、育ち盛りだしな。足りていたとは思わないが、耐え難いほど飢えるということもなかったから、恵まれていた方だ」


 酷い所になると木の根や皮、雑草を煮てからかじるような村もあるとマインは聞かされていた。

 それに比べれば足りないながらにそう言った物に手を出すところまで追い込まれていなかった分だけ、あの村はまだ恵まれていた方だろうとマインは思う。

 ただ、とマインはそっと自分の皿にまで手を伸ばそうとしていたリドルを見る。

 いかに育ち盛りであるとはいっても、食べ過ぎはよくないのではないだろうか。

 マインとしてはリドルに健康的になってもらいたいだけで、肥満体を作りたいわけでは決してない。

 とは言ってもたまにならばまぁいいかと、慌てて手を引っ込めたリドルの前へどうぞと自分の皿を押しやるマインなのであった。

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知ってたら苦労しないわー


そんな感じで。

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