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「一旦列から離れるぞ。敷物があるなら敷いて、彼女を寝かせてやれ」
他のメンバーの背中で運ばれている軽装の女は応急的に巻かれた包帯の上からでもそうと分かるくらいに重傷である。
これを治療しようとすれば血やら何やらが晒されることになり、そういった物に慣れていない一般人がそれらを見てしまえば気分を悪くするかもしれない。
それを防ぐために距離を開けるようにと指示したマインに、冒険者達は大人しく従う。
地面の上へ厚手の織物が敷かれ、その上にケガ人がそっと寝かされた。
それを見届けてからマインはリドルと共に、ケガ人の傍らにしゃがみ込むとローブの中から小さな刃物を取り出して血で固まってしまっている包帯を手早く切り裂いて外していく。
「おい、大丈夫なのか」
「大丈夫なわけがあるか。これだけの傷にこんな汚い包帯を巻いたんだぞ」
マインが切って外した包帯は血が沁み込んでしまっていて、ほとんど元の状態が分からない代物であったが、所々に茶色の汚れた布地が見え、とても清潔だったとは言い難い物が使われていたことを示していた。
「傷は……これベア系統か?」
包帯を外し、ぼろぼろな革鎧も外してやると軽装の女の傷の状態が露になる。
傷はケガ人の左肩からやや斜めに五筋。
結構な深さと長さとで走っており、傷周辺の肌は紫色に変色していた。
「ポイズンベアか」
マインが口にした魔物の名前に、リーダーの男が頷く。
詰めと牙に強力な致死毒を持った大型の熊の魔物で、固い毛と皮に守られた体には生半可な武器では傷すら与えることができず、一党を組んで挑んだとしても一党ごと餌にされかねない、という危険で強力な魔物だ。
「解毒してないのかこれ?」
傷口の変色はポイズンベアの持つ致死毒の影響である。
毒の種類の合わせた解毒薬が用意されていればいいのだが、毒にはいくつもの種類があり、それらに完全にあわせた薬を用意するということは難しい。
それでもある程度オールラウンドに毒の影響を弱める薬というものがあり、これを冒険者達は普通解毒薬と呼んでいるのだが、それを持っていないのかと尋ねるマインにリーダーの男が首を横に振った。
「ねぇよ。あれ、高いだろ」
男の返答にマインは小さく鼻を鳴らす。
確かにその解毒薬というものは少しばかり値の張る代物である。
しかし、それは当然だと言えた。
何せ毒の種類を問わずに被害者を、死なずに済む程度まで治療できるのだ。
その効果と引き換えであるならば、多少の金銭は支払って当然だろうとマインは思う。
だが、そうも行かないのもまた冒険者という稼業である。
羽振りのいい時であるならばそういった品物も用意できるのであろうが、そうでない時にはやはり切り詰められてしまう。
「あんたらも解毒薬より傷薬のクチか。長生きできないと思うぞ」
「う、うるせぇよ」
マインが言ったのは金のない冒険者の心情を現した言葉である。
受けるかどうか分からない毒に対する準備をするよりも、確実に受けるであろう傷に対する備えをした方がいいという考え方なのだが、マインとしてはこれには全く同意できなかった。
「解毒薬を買う余裕がないとしても、治療費はきっちり支払ってもらうからな」
「分かってる」
現金を回収できないようなことにならないようにと念を押すマインにリーダーの男は慌ててこくこくと頷いた。
その動作を確認してからマインは、懐から質素な素焼きの小瓶を取り出す。
下手に扱えばすぐに我てしまいそうなそれに、リドルはどこかで見覚えがあった。
どこで見た物だったかなと記憶を手繰るリドルはすぐに、それがつい先日マインが街道で、その辺に生えていた草と適当に集めた泥とで作った代物だったということを思い出す。
「マイン、それって……」
「体力回復薬。傷も治るが今は生命力的なものの回復が目的」
「本当に?」
今一つ信じ切れずにリドルが問う。
何せリドルはマインが使おうとしている薬が実際に作られるところを見ているのだが、その辺に生えていた草と泥からそれはできているのだ。
とてもではないが瀕死の人間を助けられる品物だとは思えない。
マインのことをよく知っているつもりのリドルには、マインが効きもしない薬を誰かに売りつけるような人ではないと思ってはいるが、やはり心配になってしまう。
「その辺の薬師が作ったものよりはずっと上等な物だぞ」
不安がるリドルとは対照的に、マインは何の心配もせずに瓶の封を切ると寝かされている女性の口へ、中身を注ぎ込んだ。
「おぉ……」
見守る冒険者達の中から感嘆の声が上がる程に、効果は劇的であった。
出血と毒とでかなりよくない色をしていた女性の顔に、さっと血の気が戻ったのだ。
ただその表情は薬を飲ませる前よりも、何故かさらに苦悶に歪んでいるように見えた。
「マイン?」
「効果は保証するんだが……味の方までは責任持てないからな」
材料から考えれば、味の方は推して知るべしと言ったところで、服用させられた者の反応を見る限りでは下手をすると毒の苦しみよりもさらに酷いのではないかという悶えようである。
「死ぬよりマシだろう?」
「本当に?」
「リドル。世の中には死んだ方がマシなことなどざらに転がっているが、そこまで酷い物はさすがに売らないぞ」
心外だという表情を見せつつマインは女性の手当を続ける。
服薬により死に至るまでの時間に余裕ができた上に、毒を与えた魔物が分かっているので、後は対応している解毒薬を与えれば事は済む。
深い傷も一緒に治してしまえとばかりにマインはローブから別の小瓶を取り出すと、中身を女性の傷口へと振りかける。
さらりとした透明の液体が女性の傷口にかかると、周囲の肌から紫色色が引いていき、傷口を白い泡が覆い隠した。
「これで死ぬことはない。毒は抜いたが傷が深い。安静にして七日から十日ってところだな」
「本当か!」
「あぁ。容態が変わったら冒険者ギルドか魔術師ギルド経由で俺を呼べ。俺はマインと言う。しばらくは領都にいるつもりだ」
マインがそう言うと、ようやく助かったという実感がわいてきたのか冒険者達はそれぞれが安心した表情を見せたのであった。
なろう界隈でバズるためにはどうすればいいのか。
恋愛を書け?
そんなご無体なー
そんな感じで。
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