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2-8

 不運な一行の埋葬を終え、さらに領都を目指して移動すること一日と少々。

 かなり不穏な出来事との遭遇であったので、マインなどはさらに酷い何かに出くわしたりするのではないだろうかと警戒していたのだが、その警戒は無駄に終わり、特に何事もないままにマイン達は馬車の一件から二日後の昼過ぎに領都へ到着した。


「わー……」


 リドルが感嘆の声を上げつつ見上げたのは、領都を囲む防壁だ。

 高さはリドルの背丈の数倍はある。

 厚みも相当なもので、建築するのに相当な費用がかかったのだろうなと想像させる石造りのそれは、領都の民や財を守るために建てられたもので、領都に入るためにはこの防壁に何ヶ所か設けられている門を通る必要があった。


「大きくて立派……」


「ご主人様。今の台詞をもう一度。今度は少し媚びるような口調で」


「リドルに何をやらせる気だ」


 妙なことをねだったアイの脳天に、マインの拳骨が落ちる。

 声もなくその場にしゃがみこんだアイを見下ろす形となったリドルは少し考えてからマインを上目遣いに見た。


「大きくてぇ立派ぁ」


「お前もやるんじゃない」


 扉をノックするような手つきで、リドルの額を小突いて黙らせたマインは、しゃがみ込んでいるアイの脳天にもう一発の拳骨をお見舞いする。


「何故二発!?」


「不服か?」


 相当痛かったのか、涙目で見上げてくるアイに、マインは無表情のまま握った拳を見せつける。

 きりきりと筋肉が引き絞られていく音が聞こえてきそうなくらいに力が込められた拳を見て、アイは無言のままに立ち上がるとそっとリドルの背後に隠れた。


「全く。暇になるとろくなことをしない奴だな」


 憤慨した様子で睨みつけてくるマインに、お前が言うなという台詞が喉元までこみあげてきたアイなのだが、強い自制心を持ってこれを腹へと飲み下す。


「暇なのは事実だよね」


 少々うんざりした口調でリドルが言う。

 領都へ入れる場所が限られていて、しかもそこで入都の手続きを行っているとなれば、入都する人数や時間帯によっては渋滞が発生してしまい、ちょうどマイン達はその渋滞中の列に並んでいる最中であった。


「治安のためとは分かってはいるんだがなぁ」


 領都とは領主が済んでいる都だ。

 その都の中に怪しい人物や品物を入れるわけにはいかず、自然と門でのチェックは厳しいものになる。

 厳しくチェックするためには当然時間がかかり、結果として順番待ちの行列は長くなっていくという悪い流れなのだが、これを解決する方法は難しい。

 チェックを簡易化したり、出入り口の数を増やしたりすれば、怪しげな人物や品物が都の中へと入ってしまう可能性が増すからだ。


「大人しく待つしかないか」


「日が暮れるまでに入れるといいですね」


「マイン、入れないとどうなるの?」


 順番待ちの列は長い。

 アイの祈りもむなしく、都に入れない者も出てくるのではないかとリドルは考えた。


「締め出される。明日また来いってことだな。その場合は野宿するか、防壁の外で営まれてる宿で一拍するしかない」


 領都のほとんどは防壁の内側にあるのだが、全てが防壁の内側に収まっているわけではない。

 防壁の内側に住むことができず、外の居住している者やそういった者や入都手続きができなかった者のために、商いをする者などがいるのである。


「それって危なくないの?」


「非常に危険だよ。戦争や魔物の襲撃があった場合にまっさきに見捨てられるわけだしな」


 領都が防壁の外に住む者達について、何の取り締まりも行わない理由に有事の際の生贄としての役割を課しているからだという噂がある。

 真偽のほどは不明だが、実際に何かあればその役割を果たすことになるのは間違いない。


「聞きたくなかったかもしれない」


「救いはないが、別に強制されているわけでもないからなぁ」


 そんな会話をしながらマイン達はひたすら待つ。

 リドルは聞かされた話から、自分達も今日は防壁の外で泊まらなければならないのではないかと危ぶんでいたのだが、マインの方は特に心配した様子もなく、のんびりとした雰囲気で列の先の方を見据えている。


「何か余裕だねマイン」


「焦れば進むものでもないしな。それに今の進み具合ならどうにか間に合いそうだぞ」


 それとなく列の進み具合をアイに確認していたマインである。

 アイは列に並ぶ人数と、一人当たりにかかる大体の時間。

 そして門が入都手続きを終了する日没までの時間を計算し、大きなトラブルさえ起きなければ自分達には問題なく順番が回ってくると判断し、これをマインに伝えている。

 そうとは知らないリドルは、大丈夫だと言われてもそわそわした感じで列の先を見ていたのだが、しばらくすると急にマインの肩を叩いた。


「どうした?」


 領都へ来るのは随分と久しぶりであるマインは、周囲の風景や並んでいる人々の姿を眺めて楽しんでいたのだが、リドルに肩を叩かれてその視線が向いている列の先の方へと目をやった。


「何かあったみたいだけれど」


 トラブルがなければ十分間に合うだろうと考えていた矢先のトラブルの気配に、マインは渋い顔になるがトラブルとは巻き込まれる側の事情など全く考えてくれることなくやってくるものだろうと溜息を吐く。


「アイ、見えるか?」


「はいマスター。武装した一党と役人とが押し問答をしているようです」


 武装している一党と聞いて、野盗か何かの類だろうかと考えたマインだが、野盗が役人と押し問答などするわけがない。

 門には領都の兵士もいるので、正面から入れろと突っ込んでくる程、野盗といえども考えなしなわけがなかった。


「冒険者の一党のようですね。確かこちらの領都は防壁のすぐ外に迷宮の入り口があったと記憶しております」


「問答は長引きそうか?」


 現場まではそこそこ離れており、何かもめているような音やら気配はするものの、詳細についてはほぼ分からないままだ。


「長引きそうですね。どうも冒険者の一党側に死にかけているのがいるようです」


 内容としては酷く物騒で切羽詰まった話だ。

 それをさして興味もなさそうに淡々とするアイに対し、マインとリドルは思わず互いの顔を見合わせたのであった。

昨日のこと。

「今日は節分だから豆買って来たよ」

「うん」

「はい、豆大福」


まけるかーっ!(ノ ゜Д゜)ノ == ┻━━┻


というわけで。

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