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2-6

 状況はなんとなく把握したものの、さてこれをリドルにどう伝えたものかとマインは悩む。

 状況としては雇い主とおそらく冒険者と思しき雇われた者達との間で生じた諍いの結果だ。

 報酬をケチっていたのかまともではない輩を雇ってしまったらしく、雇い主側が元々持っていた戦力と戦いになり、偶然にも双方全滅ということになったようである。

 この推測をそのままリドルに伝えてもいいのであれば、マインも迷うようなことはない。

 ただリドルは騎士王物語で騎士へ続いている冒険者という職業にもそれなりに憧れを抱いているようであり、正直にこの情報を伝えることはリドルの夢を壊してしまうようなことになるのではないかとマインは恐れた。

 子供の夢を壊すくらいならば、何かしら耳に心地よい嘘でも吐こうかと考え出すマインだったが、そのマインが結論付ける前にアイが近寄ってきて馬車周りの惨状を目にする。


「これ、派手にやりましたね……」


「アイ、言葉を……」


「仲間割れですよね。めったに起きないことだと聞いておりましたが」


 なるほど仲間割れねとマインはぽんと一つ手を打つ。

 詳細に想像してしまったが故に、どう伝えたものやらと悩んでしまったマインなのだが、原因やら何やらをふんわりと誤魔化すのに仲間割れという説明はとても適しているように思われたのだ。


「仲間割れなのこれ?」


「えぇ、原因は分かりませんがおそらく、報酬をケチられたとか、雇われ側の態度が悪かったとかその辺りのことではないかと」


 どちらが悪くてそうなったのかという辺りもぼかしてアイは言う。


「もっともそうであったとしても、仲間割れが起きること自体良いことではありませんし、お互いに刃傷沙汰に発展させて、挙句全滅とは笑え……いえ、笑えないことです」


 真面目な顔で説明するアイに、リドルも真剣な表情で聞き入りながら何度も頷いている。

 その様子を見て、マインは領都に到着する前にこの現場を見れたことは、リドルにとってはとても良いことだったのではないかと考えた。

 一概に言うことはできないが、マイン達の村にはいわゆる悪人というものが存在していなかったのである。

 多少意地の悪いのはいても、積極的に誰かを陥れようとまで考える者はいなかったのだ。

 そんな村だったからこそマインも隠遁先に選んだのであるが、村以外の世界を知るマインとは違い、リドルは村の中だけで育っていて外の世界を知らない。

 知識として教えるにしても限界というものがあり、実際経験して覚えることができるのであれば、これに勝る方法はないのではないかと思われた。


「誰でもなれる冒険者だからな。いい奴もいるが、悪い奴も同じくらいいる」


 そのいいと悪いとが如実に表れるのが護衛依頼だとマインはリドルへ言った。

 護衛を依頼するということは、そうまでして運びたい品物があるだとか、護衛してもらわないと移動することができないくらいに弱い人物が依頼主であるとか、とにかくつけこむ隙が多い。

 しかもつけこんだ先の旨味が大きい場合が多く、安い報酬で雇った護衛に身ぐるみはがされるどころか、依頼人本人までどこかへ売り飛ばされてしまったという話がそこそこの割合で転がっていたりする。

 そんなことが頻発していると冒険者ギルドの信用が落ち、誰も依頼しに来なくなるのではないかと考えるのが普通だが、ギルドはこういった問題に関しては依頼人と冒険者との間の問題であって、ギルドは無関係だという態度を貫いている。

 もちろん、規定の依頼料に手数料を上乗せして、ギルド経由で信頼できる冒険者を紹介してもらうシステムもあり、そういう手間暇をかけなかった者については知った事ではないという感じだ。


「まぁ同業者といえども無条件には信じるなよということだな」


「分かった。マインはいいよね?」


 リドルの切り替えしにマインは一瞬、言葉に詰まった。

 隠し事をしている自分のことを、どの面下げて信用していいなどと言えるのか。

 そう考えてしまった一瞬の沈黙に、リドルが不安そうな表情をしかけたとき、アイがすっと会話に割り込んできた。


「ご主人様。その質問にマスターが戸惑われるのは至極当然のことです」


「何故?」


「異性に対し、無条件に信用していいかと問うことは、すなわち貴方を特別視していますよという意思表示をしたと受け取られます」


 何を言い出すつもりかと焦るマインなのだが、見せてしまった隙につけこまれた現状、話の主導権をアイから取り戻す手段が思いつかない。


「辺境の村にお住まいで、これまで浮いた話の一つもなかったマスターが、ご主人様のような美少女に特別視してしますと告げられれば、ドキがムネムネして挙動不審に陥り、強制サイレンス状態になるのも無理は……」


「黙れ阿呆」


 これをしゃべり続けさせては駄目に違いないとマインは言葉と同時に拳骨をアイの脳天へと落とし、衝撃と痛みをもってこれを黙らせる。

 叩かれたところを両手で押さえて、声もなくその場にしゃがみ込むアイには目もくれず、驚いた顔をしているリドルへマインは言った。


「信用するなと言わない限り、俺のことは信用してくれていい。ただし、全ては自己責任だ。いいな?」


「マイン、顔赤い」


「赤くもなる。こいつは何を言い出しやがるんだか……」


 マインは木石の類ではない。

 当然、異性が云々などという話をされれば顔とて赤くなる。

 ある程度心構えができていれば、素知らぬ顔もできたのだが、不意を打たれてはそうもいかない。


「とりあえず分かった。では信用できるマインに質問が一つ」


「なんだ?」


「この現状でこの場合、ここではどうするのが正解なのかな?」


 問われてマインは周囲を見回す。

 地面に転がる十数体の死体と荷物が入っているらしい馬車が一台。

 放置しておくには少々物騒で派手過ぎる。

 かといって、下手に手を出すというのもなんとなく躊躇われる状況であった。


「これは、どうしたもんかな」


 こういう場合の対処方法にはどのようなものがあったか。

 普段は使わないような知識について、マインはそれを思い出すべく頭をひねるのであった。

ブクマ、評価、感想などお待ちしております。

バズることを夢見る物書きに愛の手を。

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