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「まぁそんな訳で、金がない」
真顔で言うにはあまりにも情けない話を、他にどう言えと言うのだと思いながら言い放ったマインの肩を、リドルがぽんと叩いた。
慰めているつもりなのだろうかとリドルの顔を見れば、何故かリドルは自信たっぷりな表情でマインへこう告げる。
「大丈夫。こういう時はきっと街道の上で何かに襲われているお金持ちと遭遇するものだから」
「娯楽小説の受け売りは止めた方がいいぞ」
マインもリドルが感化された騎士王物語のような娯楽小説は、暇潰しになるかもしれないからと何冊かは読んでいる。
騎士王物語の場合、農村を出た主人公一行はすぐにマインの様にこれからの資金繰りに悩むこともなく王都への道を歩き続け、何故か途中で野盗に襲われている馬車に遭遇するのだ。
そして主人公達の活躍により、野盗から救い出された馬車の中にはその国の公爵令嬢と王女とが乗り合わせていて、主人公はその二人の少女から好意を寄せられる、といった展開になっている。
これにより、主人公は資金面とコネという二つの問題を一気にクリアするわけなのだが、マインから言わせれば、ナンセンスにもほどがある展開であった。
「騎士王物語みたいな展開を期待しているのなら、ありえないからな? なんで貴族令嬢と王族が、ロクな護衛も連れてない馬車に乗りあいしてるんだって話だ」
「そういう事情があったんじゃない?」
「仮に何らかの事情があってそういう成り行きになったのだとしても、護衛が野盗に負けるとかありなえいから。国が王女につける護衛だぞ? 野盗風情に負けてたら、そんな国は存続できないだろ」
騎士王物語の場合は、王女と公爵令嬢は国家転覆を目論む宰相の計略によって、周囲に知られないように城を出てきたことになっており、その宰相の計略を阻むというのが主人公達の役割になるといった展開になっている。
しかし、そうは言っても王女と公爵令嬢とが誰にも知られないように、馬車を仕立てて城を抜け出せるような警備体制をとっている国などあるわけがない。
あくまでも創作上の設定だからこそ読者がそれとなく納得してくれるような流れになるだけで、これを現実に期待するのはあまりにも無理があった。
「そもそもその流れが起きるとなると、助け出すのは王子と公爵子息ということになるし、それを恋仲になるのはリドルになるんだからな?」
「助けなきゃいいんじゃないかな?」
マインはふと道端に生えていた見覚えのある植物を、しゃがみ込んで採取する。
根っこの部分は必要ではなく、葉だけ採取しておけばそのうちまた新しい葉を出すくらいに生命力の強い植物であり、ついでにと周囲の土も集めようとしたマインはそこでようやくリドルが何かしらおかしなことを口にしたのに気が付いて眉間に皺を寄せた。
「リドル、今なんて言った?」
「助けなきゃいいんじゃないかなって。野盗が獲物をきちんと仕留めたのを見届けてから野盗を仕留めればいいんでしょ?」
土は特に粘土質というわけでもないのだが、錬金術を使うとこれを粘度にすることができ、さらにそこに錬金術を使うことで素焼きの壺を作り出すことができる。
錬金術は素材に手間暇かけて目的の物を作り出す方法と、必要とされる材料に術をかけて、そうなるべき結果へ短時間に到達させる方法との二種類がある。
魔術師の誰もが修めている技術というわけではないのだが、マインはきっちりこの術を実践できるレベルで身につけていた。
素焼の壺は液体を入れるのには適していない容器なのだが、現状ではきちんとした容れ物を作る設備も材料もないのだから、妥協しなければならないだろうなと思いつつ、マインは採取したばかりの植物を手の中で握りつぶしながら術を発動させる。
かなり乱暴な方法ではあるのだが、品質や数の足りていない材料を注ぎ込む魔力でもって無理やり目的の物へと変化させていく技術。
一般的な錬金術師が目にしたら、目をひん剥くような無茶苦茶な反応によって素焼きの瓶の中に何らかの液体が生じ、マインはそれを植物のツルと葉で口に封をしながら、リドルをまじまじと見て言った。
「ドン引きだよリドル」
助けると面倒になるならばどうすればいいと言うのか。
答えは簡単で助けなければいい。
しかし、助けなければ金に困っているという部分を解決できない。
であるならば、王子だか公爵令嬢だかは知らないが、汚れ仕事の部分だけ野盗にやってもらい、事が済んでからしっかり野盗を退治すれば面倒ごとを回避できる上に丸儲けなのではないか、と考えたリドルにマインは冷たい視線を向ける。
もちろんリドルの言い分にはいい所があるということをマインは承知していた。
普通に持っていれば犯罪になる貴族や王族の持ち物も、一旦野盗達の手に渡ればこれを取り返してきた者に所有権が移ることになっている。
だからと言って一旦野盗達が回収するのを待ってから、後でゆっくり野盗達を始末するという作戦に乗る気にはなれない。
ただそれは、ロクに護衛も付けていない馬車に乗った高貴な身分の誰かが、野盗の類に襲われている現場、というものに遭遇しない限りは使わない手段であり、マインの見立てではそんな状況に貴族令嬢などが置かれる可能性はほぼありえない話である。
使うことのない設定下における選択に対し、目くじらを立ててみても仕方がないかと、この件については忘れようと考えたマインへ、それまで会話に参加せずに周囲を見回していたアイがぽつりと言った。
「街道の先で、馬車が止まっていますね」
「なんだと?」
言われて道の先へと目を凝らしたマインなのだが、魔術によって強化も何もされていない状態でのマインの目では、アイが発見した馬車といういうものが見えなかった。
「状況は?」
「不明。ただ馬車が止まっているだけです」
襲撃中に遭遇したというわけではなさそうであるが、街道の上に馬車が何の意味もなく止まっているということも普通はない。
いずれにしても目的地が今進んでいる街道の先にあるのだから、街道をそれるという訳にもいかず、半ば強制的にその場所へは行かざるを得なかった。
「アイ、引き続き警戒。リドルはいつでも剣を抜けるようにしておけ」
「予め抜いてたら駄目?」
「生き残りや先客がいた場合、抜き身ぶら下げてやってきた乱入者と最大レベルで警戒されたいのであれば止めない」
「なるほど。先方の警戒を招かないために、私とアイさんは武器より愛嬌を磨けと」
そんなことは言っていないよなとマインがアイを見れば、何故かアイはこれまでにマインが見たこともないような満面の笑顔を披露しており、それを見たリドルが自分もそんな笑顔を作ろうとしてなのか頬やら首筋やらを引きつらせ始めたので、何も言うことなく二人にさっさと歩けとばかりに道の先を指さすのであった。
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書き手であるボクに鞭を入れる意味でも。
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