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「ところで私達、どこに向かってるの?」
リドルの質問に、マインとアイがほぼ同時に肩をコケさせる。
特に急ぐ用事もないので、村を出てから二日ほど、ゆっくりと歩きながら移動してきたマイン達ではあるのだが、マインもアイも目的地がどこなのかは全員が知っているものだとばかり思っていた。
わざわざ明言せずとも、向かう方向で分かるだろうと勝手に思いこんでいたのだが、考えてみればマインとアイは周辺の地理を把握しているものの、リドルはそうではない。
そこに考えが至らず、きちんとした説明を行わなかったことを反省するマインなのだが、どこに向かっているのかも分からないままに二日間も黙ってついてきたリドルにも問題があるのではないかと思う。
「領都に向かっている」
王が住まう都だから王都と呼ばれるのであれば、領主が住んでいる都だから領都と呼ばれる。
つまりそこら一帯を領地として管理している貴族が住んでいる都だ。
領主が住んでいる、ということは大体の場合、その領地内では最も大きい規模の都市で、最も栄えている場所ということになる。
「領都かぁ。行ったことないんだよねぇ。マインはあるの?」
何気ないリドルからの質問に、マインはどう答えたものかと内心悩んだ。
あるかないかだけで考えるのであれば、マインが領都へ行ったことはある。
問題は、それがいつだったのかということだ。
最も新しい情報を思い出すのであれば、それはおそらく二十年程前。
マインがアイ達を困らせる癖を発症して、逃避先を探していた時のことということになる。
人の身でありながら、齢数百を数えるマインは二十年前は現在とは違う姿をしていたのだ。
それがこの地を逃避先に決め、あらかじめ潜ませていた夫婦設定のホムンクルス達に育ててもらうために、一度赤子の状態へと戻り、そこからすくすくと二十年かけて育ったのが現在のマインということになる。
つまり、正直に二十年前に来たことがあると言ってしまうと、マインの正体を知らないリドルのことを混乱させてしまうのだ。
それはいいことだとはマインには思えない。
「以前、俺が王都の学院に通う前に、ちょっとだけ寄ったことがあるくらいかな」
そういう設定になっているのが、実際には大嘘である。
確かに王都には王立の魔術学院が存在しており、毎年優秀な魔術師を輩出してはいるのだが、そこで使われている教本や教育カリキュラムというものを作成したのは、ほとんどがマインなのだ。
それはつまり、答えを全て知っているわけであり、答えの分かっている教育を今更受けなおしたところで何の意味もない。
そもそもマインは姿形を変えようが、魔術師ギルドに正式に認可され加入している魔術師であって、今更学校を出て資格を取りなおす必要は欠片もないのだ。
その辺りの事情はリドルの知らないことであり、マインも説明する必要を感じていない部分なのである。
「つまり数年前ということで、俺の知っている領都というものは古い情報になる」
「その点の補完は、私にお任せください」
アイが会話に割り込む。
「我々は常にご主人様に必要な情報を提供するため、最新の情報を収集し続けております」
本当に、メイドというものは一体何なのであろうかと、リドルはアイを見るたびにそんな思いに囚われる。
リドルがこれまで持っていたメイドというものに関する知識と、アイとは全く異なる存在であるとしか思えないのだ。
そもそも全世界的に、メイドを各地に派遣するための組織、メイド派遣協会なるものがあることなど、リドルはアイから聞かされるまで全く知らなかった。
そこまで考えたリドルは、ふと思い出したことを聞いてみる。
「そう言えば、アイさんってまだついてくる気なの?」
「お邪魔でしょうか?」
「そういう訳じゃないけれど、お試し期間っていつまで続くの?」
メイド派遣協会生る組織に所属しているメイドであるらしいアイがマイン達について来るのは、新しい主人を探しているアイがどれほど役に立つのかを知ってもらうためのお試し期間だから、ということになっている。
お試し、と言うことはいずれ期限が来るはずで、それはいつになるのか。
「その件なのですが」
アイがちらりとマインの様子を伺う。
その気配に気づいたマインが浅く小さく頷くのを見てから、アイは深々とリドルに対して一礼した。
「実はマスターより、本採用の契約を頂いております」
「そうなの?」
マインかアイか、どちらに向けたのものかやや曖昧な問いかけにアイが応じる。
「はい。やはりマスターは男性。ご主人様は女性となればマスターでは気の回らない所も多々出てくるであろうと」
「村の外に出たことのないリドルには、同性の先達も必要だろうと考えた。不服だろうか?」
アイからの説明に続けたマインの質問に、リドルはぷるぷると首を横に振った。
確かにマインには相談しづらいこともアイにならば同性の気安さで相談できそうであり、しかもアイは間違いなくリドルより経験も知識も豊富だ。
そのアイにサポートしてもらえるのであれば助かるだろうし、自分への心遣いとしてマインが手配してくれたのであれば、リドルとしては喜びこそすれ不服に思うことなどなかった。
「嬉しいしありがたいけど、大丈夫なの? その……費用とか」
メイドを雇うことができるのは、とにかく裕福な者だ。
その他にも地位やら何やらあるのかもしれないが、とにかく裕福でなくてはメイドを雇うことはできない。
その点から考えると、今のマインは村の復興に私財をあらかた吐き出してしまった状態で、とても裕福だとは思えない状態にある。
「少々無理したことは否定しない」
そういった事情はリドルも承知していると知っているからこそ、マインも隠し立てするつもりはなかった。
「それでも必要なことだと判断した」
「そっか。ありがとうねマイン」
「気にするな、と言うよりは、どういたしまして、か」
笑顔でお礼を述べるリドルにマインが少しおどけた感じで返す。
そんな二人のやりとりを、アイはこれって自分だけ蚊帳の外っぽくないかと不満そうな顔で見ているのだった。
安〇先生……日間ランキングに載ってみたいです。
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