2-1
その日、魔術師マインは暇であった。
場所は何の変哲もない街道の上。
見回す限り周囲は平野で、踏み固められた道もまた平坦な一本道。
ただひたすらに前へと進むために、足を交互に前へ踏み出す必要はあるものの、そんな行動は特に何も考えずとも可能だ。
さらに道はただひたすらに一本道でしかなく、道沿いに進んでいる以上は迷うようなこともない。
「マイン、何考えてるんだろ?」
「ご主人様。マスターがあのようなお顔をされている時は、何もお考えになっていない時です」
肩越しに振り返れば、並んで歩く二人の女性の姿がある。
片方はまだ幼さが顔や雰囲気に残る少女だ。
くすんだ赤い髪を頭の高い市で無造作に麻ひもで結わえてポニーテールにし、少しだけ日に焼けた健康そうな肌に大きめの目。
深紅と表現しても構わないであろう瞳を持つ、整った顔立ちをしたその少女は、革の胴鎧の下にスカートをはき、革の手甲にブーツといった格好で、腰に長剣を装備した姿だ。
少々物々しい格好ではあるが、街道上を行く者の姿としてはそれほど異質というわけでもない。
その機会がどれほどの頻度かは別として、武器が必要となるような状況が起きても不思議ではないからだ。
異質なのは、もう一人の女性の方である。
灰色の髪をショートボブに切り揃え、瞳はこちらも紅い。
抜けるように白い肌の上に身に着けているのは、黒と白のツートンカラーを基調としたエプロンドレス。
所謂メイド服姿なのだ。
こちらはあまりにも街道上で見るには異質な姿であった。
通常、メイドは王族や貴族。
もしくは裕福な商人などが雇っている女性の使用人だが、これをわざわざ街の外で歩かせるような真似をする者はいない。
どうしても外を移動させる必要があるのならば、メイド達を運ぶ馬車を用意するか、もしくは平伏を着せてから歩かせるもので、メイド姿のまま歩かせるという光景は普通見ないものである。
着替えろと言ったんだけどなと思いつつ、マインはまた前を見た。
街道はまだまだ先へと続いていて、目的地は見えない。
徒歩でなく、馬車を使うべきだったかなとか考えるマインはすぐにその考えを却下した。
何せ今のマインはほぼ文無しなのだ。
正確には、多少の金銭は持っているものの、余裕をもって使える程にはもっていない状態なのである。
馬車など仕立てようものならば、あっさりとその少ない手持ちも尽きてしまうことだろう。
何故そこまで金がないのかと問われれば、これまでマイン達が住んでいた村の復興のためにと、有り金のほとんどをそこに置いて来てしまったからだ。
マイン達が住んでいた村は所謂辺境と呼ばれる地域にあった農村で、これまでは大したトラブルもなく、少々貧しくはあったが平穏な日々というものを送っていた。
事情が変わったのはつい最近のこと。
ゴブリンによる襲撃を受け、これを皮きりに色々とあり、最終的にはオークの群れの襲撃を受けて村は大きな被害を受けた。
本来は村人にも多数の死傷者が出るような出来事だったのだが、幸運にも人死にはほとんど出ず、それでも村は燃やされてしまい、どうしたものかと途方に暮れていた村人達へ、いくつかの条件と引き換えにマインが助けの手を差し伸べたというわけである。
その時に飲ませた条件というのほあ、騎士王物語という、とある孤児の少年が冒険者を経て英雄となり、建国して王になるという娯楽小説に感化されたリドルが村を出るためのもので、農民を辞めたリドルの身分は現状、平民の中の自由民と呼ばれるものになっていた。
「ねぇマイン。私は自由民になったって聞いたけれど、マインも?」
「いちおうな。ただ俺は魔術師としての資格を持っているから、そっちが優先される」
魔術師には魔術師ギルドという互助組織があり、この組織が世界でかなり強い力を持っているため、魔術師であるというだけでその身分が保証される。
これは魔術師の先達が様々な研究結果を世に送り出して、大きな恩恵をもたらしてきた結果であり、現在の魔術師達はその恩恵に与っているという感じだ。
「アイさんは?」
「アイは……」
どうなのだろうとマインは首を傾げる。
アイは見た目はただのメイドなのだが、その正体は魔術師の間で延々と語り継がれている伝説的な魔術師の手による人工生命体ホムンクルスなのだ。
つまり、厳密には人ではない。
ちなみにその伝説的な魔術師というのが何を隠そうマインのことなのだが、マインには何かというと不意に姿をくらませるといった癖があり、アイの近況についてはほとんど何も知らないような状態であった。
「私も自由民に区別されます」
二人分の疑問を受けてアイが答える。
「ただ私の所属しております派遣協会はそれなりに力のある組織ですので、協会所属のメイド、というだけで身分の保証がされますね」
「それって魔術ギルドに匹敵する規模ということか?」
「がんばりましたので」
マインがアイ達から目を離していたのは十年くらいの時間だ。
それ以前には派遣協会などという組織は存在していなかったはずなので、その十年間でアイ達は世界規模の組織を作り上げ、これを世界に認知させたということになる。
「とんでもないな」
魔術師ギルドが今の規模にまで成長するのにかかった時間は、教会の何十倍かになる。
「下地も資産もありましたので」
「敵も多そうだな」
「私設軍もあります」
「傭兵でも雇ってるの?」
傭兵とは金で雇われる臨時の戦力だ。
その質はピンキリで、行儀のいい傭兵というものはあまり存在していない。
金さえ支払っていればそこそこ信用できる戦力ではあるのだが、忠誠心等は皆無であり、逃げ出す時は雇用主を裏切るような真似をする者までいるという。
それに頼ったのかと尋ねるリドルに、アイは首を横に振った。
「戦闘メイド部隊というものがあります」
「戦闘……メイド?」
「興味がおありでしたらご主人様も体験入隊してみますか? 居間なら三泊四日の訓練で戦闘メイド服の支給がありますよ」
「遠慮しておこうかな……」
熱っぽく語るアイにリドルが力なく笑いつつこれを拒否すると、アイは残念そうに溜息を吐いたのだった。
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