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 オーク達を始末して、燃え上がる村の建物を崩して延焼を防ぎ、踏んだり叩いたり近くの水場から水を運んで火を消したりと、マインはそこから夜が明けるまで休むことなく動き続ける。

 とにかく火事の範囲が広がっては拙い。

 下手に燃え広がって、国やらどこぞの組織やらの注意を引いてしまうということは、マインからすれば極力避けなければならないことであった。

 村が一つ駄目になる、ということは特に珍しいことではない。

 魔物なり野盗なりの被害で、存続できなくなる村の数など、どこか適当な一国を選んで情報を収集してみたとしても、あっさりと両手両足の指の数より多くなってもおかしくない程度の話だ。

 しかしそれに付随して、平野が焼けたの森が焼失したのという情報が加われば、珍しくもない情報が少し調べてみようかと思うレベルに格上げされる。

 魔術師マインを探す者というのは少なくない。

 本人的には自分など探してどうするつもりなんだと問い質したいところではあるんだが、面倒なことにしかならないような気がするので、自分がここにいたということがバレるのはよくないことだと考えていた。


「ねぇマイン」


 一晩明けて、意識もはっきりし、妙な暴走も解けたリドルが村だった場所の中で力なく言った。

 オークと戦っていた時のことはぼんやりとしか覚えておらず、村が火の海に沈んだということは夜が明けてから知ったリドルなのだg、相当ショックなのだろうなとマインは考える。

 何せ、人生のほとんどを過ごしてきた場所がなくなってしまったのだ。

 さらにそこに住んでいた村人達の安否は不明のままなのである。

 泣きわめいたりしないだけ、自制ができていると見るべきだろうとマインは思う。

 ちなみにマインからしてみると、長い人生の中で十年ちょっとを過ごしたこの地は多少の思い入れはあるものの、なくなってしまえば次はどこに流れようかなと考える程度のことでしかない。

 人の身ではあるものの、エルフに匹敵するような長い年月を生きてくれば、途中で戦争やら災害やらで土地を追われたり、失ったりするようなことは何度も経験してきているのである。


「うちに火を点けられなくなっちゃった」


 リドルの受けたショックもきっと年月が解決してくれるはずで、少し辛い時間はあるかもしれないが、等と考えていたマインは、リドルが続けた言葉に肩をコケさせて、そのまま体勢を崩して慌てたアイに支えられて倒れることだけはどうにか回避する。


「その願望、まだ諦めてなかったのか」


 それは騎士王物語で主人公が村を後にして旅立つシーン。

 決して後戻りはしないという決意と共に、主人公は住み慣れた自分の家に火を点けて、燃え上がる炎を背に仲間達と旅立つのであえるが、リドルが冒険者のようなことをやり始めようとしたきっかけであり、今回の件の出発地点でもある。


「もう燃やす家がなくなっちゃった」


「お前、結構怖いこと言ってるからな? 聞いているのが俺じゃなかったら確実にドン引きしているところだぞここ。そもそも村のみんなのこととか考えないのか?」


 自分の願望ばかりを前に出し、育ての親や村人達のことを考えていないのだとすれば、あまりにも薄情である。

 リドルに対する見方を少し訂正する必要があるのだろうかと考えるマインへ、リドルは何を言っているのだろうと純粋に不思議がる表情を向ける。


「マインが慌ててないのに?」


「ん?」


「村のみんなやお父さん、お母さんに何かあると考えてるなら、マインがもっと慌ててる」


 さてそれはどうだろうかとマインは考える。

 村に対する思い入れはそれほどない。

 そのつもりでいるマインではあるのだが、実際に村が完全に壊滅していたのならば、自分はどういった反応をここで見せていたのだろうか。

 全く何も感じなかったのだとすれば、自分にリドルを薄情だと評する資格はない。

 もし村人や育ての親がどうなったのかについて、心動かされるようなことがあるのだとすれば、なるほど今の自分の態度は問題ないから慌てていない、と取れる。


「どうなの?」


「参った。よく見てる」


 これは一本取られましたねとばかりに意地悪く笑うアイを睨みつけてから、マインはリドル達を連れて自宅があった場所へと移動する。

 上物であるマインの家は、すっかり焼けて炭と灰になり、原形を留めていない。

 そのおそらく建物があったのだろうと思われる場所で、マインは地面を蹴りつける。

 蹴られて飛び散った土の下から現れたのは、取手のついたのっぺりとした鉄板だった。


「アイ、これ開けてくれ」


「マスター、メイドに力仕事を命じないでください」


「持てるだろ、これ」


 マインが指さした鉄板は、まぁまぁ厚くて重さがあるように見え、扉の様に開くとしてもかなりの腕力を必要とするように見えた。

 それをアイは不服そうにしながらも、取手に手をかけると気合の声の一つもなく、ひょいとばかりに持ち上げてしまう。

 アイが鉄板を持ち上げた場所には、穴が口を開いていた。

 明らかに人の手によるものだと分かるキレイな四角形の穴には、下へと続く階段が備えられている。


「マイン、それは?」


「リドルは前に一度降りたことがあるだろう? もう忘れてしまったのか」


「私が? えーと……あっ」


 少しだけ前の記憶を思い起こすように、眉間に皺を寄せたリドルだったのだが、すぐに穴の正体を思い出した。


「私の装備を整えた場所! マインの研究室だ」


「その通り」


 マインの家の地下にあったそれは、地中深くに作られているので火を避けることができる上に広さもそれなりで、村人達を収容しきることができるはずであった。


「でもこれ、知ってる人いたの?」


「入れたことはないが、父さん達にはあることだけは伝えていた」


 マイン達のこの村における育ての親は、リドルは知らないがマインが作ったホムンクルスである。

 その彼らにマインは緊急時の避難先として研究室の存在を伝えていた。

 何かあったらできるだけ村人を誘導して、そこに逃げ込むようにと指示をしてあったので、結果はどうあれ可能な限りの人数で逃げ込んでいるはずである。


「全く無傷というわけにはいかないだろうがな」


 悲観的というわけではないのだが、全滅するよりは絶対にマシな結果が待っているだろう。

 そんな風に考えながら、マインはリドルを促して下へと続く階段に足を踏み入れたのであった。

一日一更新、がんばれがんばれ。


書き手であるボクに鞭を入れる意味でも。

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