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マイン達が村へ到着した時、既に村は燃えていた。
村と外とを隔てていた柵も、村を形作っていた家々も。
畑も村のあちこちに植えられていた木々も何もかも。
紅蓮の炎の中に飲まれ、空に黒い煙を高々と立ち上らせている。
その炎の中を動くいくつもの人影があった。
「マスター、あれは……」
「オーク共か」
オークは人よりもやや大きめの人型の魔物である。
顔は豚によく似た顔をしており、体つきは肥満体。
ゴブリンと同じく、繁殖が自分の種族内で完結していない。
つまりは他所から別の種族の女性をさらって来ないことには繁殖することができないという歪んだ種族である。
いちおう、群れを作って生産的な活動にも従事してはいるのだが、大食漢であることとやたらと繁殖力が強いせいで、頻繁に他種族を襲う。
分厚い皮と脂肪に加えてゴブリンなどよりもしっかりと武装していることが多いので、単体であってもかなりの脅威度を誇るこの魔物は、コボルトやゴブリンを半ば奴隷のように使役することで時たまとんでもない広範囲に被害を及ぼしたりすることがある。
「オークの襲撃ですか……運の悪い」
「確かに運の悪い話だが、こいつら何か妙だぞ」
オークがする武装とは、自分達で作った粗雑な革鎧や棍棒。
もしくは人やその他の亜人などから奪い取った武具を使用することが多い。
それ故に統一された規格などあるわけもなく、群れていたとしてもちぐはぐな格好でいることが多いのだが、マイン達が発見したオーク達は皆が似たような革鎧を身に着け、武装もきっちり長剣と盾というどことなく統一された感じがあった。
「こいつら一体?」
「マスター! ご主人様が」
何か引っかかりを覚えるオーク達の武装に、マインが思案を巡らせようとするより先にアイの呼びかけがマインの思考を現実に引き戻す。
アイが指さす方向を見れば、マイン達より先に村に到着していたリドルが、顔に怒りの表情を貼り付けてとんでもない勢いで村にいるオーク達に襲い掛かる姿があった。
「アイ! リドルを援護しろ!」
「えぇっと……マスターはどうしましょう?」
「放り投げろ」
未だにアイに抱きかかえられて運ばれていたマインである。
当然そのままではリドルの援護などできるわけもなく、困ったように尋ねるアイへマインがそう言うと、アイはぽいとばかりにマインを放り投げるとオークの一団と交戦中のリドル目掛けて猛然と走り出した。
「<レビテーション>」
言葉通りに放り投げられたマインは、慌てることなく魔術を行使。
その魔術が効果を表すと、放物線を描いて空中を飛んでいたマインの体がぴたりとその空中で止まり、マインはそこで体勢を立て直す。
空中に浮遊することで視界の高くなったマインからは村が一望できた。
しかしその全てが燃えるか、燃え落ちて炭になるかのいずれかの状態であり、その中でリドル達とオーク達が戦っている姿が見える。
アイの方は危なげない戦い方をしていた。
いったいどこから取り出しているのか分からない大量のナイフが宙を飛び、オーク達はアイに近づくことすらできないままに体中にナイフを生やして地面に倒れていく。
たまに少しは考えているオークがいて、手にした武器をアイ目掛けて投げつけたりもしているのだが、そういった攻撃はアイによってかなり余裕をもって回避され、お返しとばかりに無数のナイフが宙を飛ぶ。
分厚い皮と脂肪を持つオークに刀身の短いナイフでは通用しないのではないかとも思われたのだが、一本一本のもたらすダメージは小さくとも、無数に投げつけることによってオークを死に至らしめる威力を持つようになっていた。
一方、リドルの方はと言えば、こちらはマインが想像していなかった戦い方を繰り広げている。
あろうことかリドルはオーク達に対して、真正面から切り結んでいたのだ。
ただ、その光景は非常に異常だった。
オークの持つ棍棒と、リドルの持つ剣とか打ち合わされると質量としては確実に勝っているはずの棍棒が勢いに負けて弾かれ、がら空きになった胴体を返す刃の一閃が切り裂いて血と内臓を大地にぶちまけていく。
腹に真一文字に開いた傷を抱きかかえるようにして前のめりに倒れるオーク。
その後頭部へ止めを入れるように踵を踏み込み、リドルは別なオークに体当たり。
体重も圧倒的にオークの方が上のはずだというのに、衝撃に負けて悲鳴を上げつつ地面を転がるのはオークの方だ。
「オークが力負けしてるのかこれ」
オークは人よりかなり力の強い魔物である。
とはいっても鍛え上げられた戦士などであれば互角かそれ以上の力を持つことも珍しくはないのだが、少なくともただの村娘に負けるような腕力はしていない。
だというのに、リドルの周囲にいるオーク達はリドル一人に完全に力負けしている。
技術も何もないリドルの力任せな一撃に、頭を割られたり腹を裂かれたりして次々に倒れていくオーク達を見て、マインはこのまま任せていても大丈夫そうだなと判断すると、視線を戦闘現場から村へと移動させた。
「こりゃ駄目だな」
村の状態をマインは即座にそう判断した。
村にあった家々はその全てが打ち壊され、火をかけられて燃えてる。
畑なども踏み潰され、火がかけられて真っ赤に燃えていた。
つまり、現在の村には燃えている何か以外の物がなにもないのだ。
これでは火が消えたとしても、農村としてはもう機能しないだろう。
もちろん、マインの家も壊れて燃えてる。
家には家財道具やら何やらが残されていたはずなのだが、これでは全て灰になってしまうだろうなとマインは溜息を吐き出す。
もったいないと思う気持ちはあるものの、今更どうすることもできず、ただ諦めるしかできないマインであったが、しばらく自宅の状態を眺めた後、小声でこう呟いた。
「まぁこれはこれで。まだ最悪ではないという感じか」
予想に過ぎない話ではあったが、全てが最悪というわけでもなさそうだとマインは見る。
いずれにしても村に入り込んだオークの一団がきれいに撃退されてくれなくては、消火作業もままならず、マインはぷかぷかと空中に浮いたまま、アイとリドルが次々にオーク達を処理していくのをただ見守るのであった。
力尽きました……
というわけで。
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