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魔力の枯渇による意識の消失は、枯渇した魔力を回復させてやることによってあっさりと治る。
個人差はあれど、大体回復直後から遅くとも半日以内には意識を取り戻すというのが普通であった。
リドルの場合も例にもれず、マインの手から回復用の錠剤を奪い取ってからいくらも経たないうちに目を覚ます。
ただ、目を覚ましたリドルは様子がおかしかった。
寝かせられていた状態から半身を起こしたかと思うと、そのままぼうっとした表情で動かなくなってしまったのである。
「アイ、これは……?」
「ご主人様。少々失礼致します」
一言断りを入れてから、アイは動こうとしないリドルの傍らにしゃがみ込むと、その目を覗き込んだり、手を取って脈を計ったりし始める。
「私、こっちは本職ではないんですよ。サポートを連れてくるんでした」
アイはホムンクルスで、その能力はマインが設定したものである。
その能力とは主に統率。
数いるホムンクルス達を指揮、管理するのがその主な任務であり、探査や診療といった行為は本来、別の個体に任せるべき仕事であった。
もちろん、それらを全くできないというわけではないのだが、どうしても本職の個体と比べるとその精度は落ちる。
「それもこれも、マスターが私達をメイドに設定するからです。辺境の森にメイドがぞろぞろいたらちょっとした事件ではないですか」
「一人いてもまぁまぁ事件っぽいが……それはそうと派遣協会なんて誰が作った?」
誓ってもいいことであったが、マインはメイドを派遣するような組織を作っていないし、作れと命じたこともない。
メイドとして設定したことは確かなのだが、それがどう転がると協会などというものを作ることになるのか、考えが及ばなかった。
ちなみに何故メイドに設定したのかと問われれば、マインの頭の中では女性の使用人というとメイドかウェイトレスくらいしか思いつかなかったからだ。
男性ならばウェイターかバトラーであり、いちおうバトラー型のホムンクルスも作ってはいる。
「マスターを探すためですよ」
何を他人事のようn言っているのかと、むっとした顔を見せながらアイは言う。
「どこでふらふらしているか分からないマスターを探すために、私達が動き回っても大丈夫な言い訳のできる組織を作っただけです」
「お、おう。それはすまん」
本来マインは自分が作った拠点なり研究施設なりで大人しくしていなければならないような人物だ。
しかし本人がすぐに暇を持て余し、ふらりといなくなってしまうので、そのたびにアイ達はマインの捜索に労力を割かざるをえなくなる。
質の悪いことに、マインはいなくなるとたまに姿形から年齢まで偽って逃げ出したりするので本当に手に負えない。
自然とアイ達の追跡も大々的なものにならざるを得ず、その動きはあちこちの国や組織の知るところなってしまう。
それを完全に隠し通すことなど無理に等しく、考えたアイ達のとった行動がは隠れ蓑的な組織を作ってしまえというものだったのである。
「今では各職業ギルドと比較しても劣るところのない規模まで育ちました」
「育ち過ぎたな」
「居間じゃ普通のメイド、バトラーの育成から各国貴族への人材派遣まで手広く商っております」
恐ろしい話だなとマインは思う。
アイはホムンクルス達を指揮、統率する為の個体だが、それを可能とする為に高い情報処理能力というものを持たされている。
そんなアイが、自分達が育てた手駒を人材派遣の名目であちこちの国に配っているというのだ。
一体どれだけの情報がアイの所に集められているのかと考えると、背中に寒い物が走るのを感じてしまうし、アイがその気になったのならば国の一つや二つは簡単にひっくり返ってしまうのではないかと危惧される。
「そちらは私が上手いことやりますので、マスターはお気になさらず」
「無理だろ。気になるわ」
「マスターの放浪癖が治ったら、全て披露してもよろしいのですが。それより今はリドルさんです」
言い負かされて黙るマインに、勝利の優越感を感じることもなく、アイはまだ目覚めないリドルの口元が何かもごもごと動いていることに気が付くと、何か言おうとでもしているのかと、その口元へ耳を近づける。
「どうだ?」
人より優れたホムンクルスの耳が、何を聞き取るのだろうか。
投薬しても目を覚まさない原因が分かるのではないだろうかと考えるマインに、アイはリドルの口元から耳を離すと理解できないと言った口調で答えた。
「もっと、と言っています」
「何が?」
「さぁ?」
いくら高い能力を持っていたとしても、たった三文字から全てを悟れと言うのは無理がある。
情報が少なすぎると思考を補記したアイに対してマインは、これまでの流れからしてもしかすると、と考えながら服の隠しポケットから先程リドルに与えたのと同じ白い錠剤を取り出した。
「どうするんですかそれ?」
「普通は一錠で十分なんだがなぁ」
膨大な魔力許容量を持つマインは魔力が枯渇するというようなことはまず起きないのだが、仮に枯渇するようなことがあり、意識を失ったとしても魔力回復の錠剤一つで意識を取り戻すことができるはずだった。
それが普通なのだが、例外はどこにでもあるもので、リドルがその例外に該当していないとは言い切れない。
それ程の数は用意しておらず、手持ち分だけでなんとかなってくれればと思いながら、マインが錠剤をリドルの口元へと近づけてみる。
「入れ食いですね」
「指ごと食いちぎられそうで怖い」
指を離す暇などない速度で、リドルがマインの指に食いついてきていた。
そのまままた、もごもごと口を動かしてリドルはマインの指から錠剤を奪い取ろうとする。
「もっと、って薬のことだったのですね」
「これ、安くはないんだがなぁ」
そうぼやきながらマインが片手にリドルを食いつかせたまま、空いている方の手で服のポケットを探り、さらにもう一錠の薬を取り出すと、リドルは先に出された錠剤をマインの手から奪い去り、さらに素早い動きでもって新しく出された錠剤にマインの手ごと食らいつくのであった。
土日は一日一更新になります。
以前に書いたのよりブクマが増えたのは、少しは上達した
ということなのか。
というわけで。
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