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 魔力と法力は属性こそ違うものの、ほぼ同じ物として扱われる。

 少なくとも魔術師は名前以外で区別することはしていない。

 神官がそういったことを研究することはないので、病名などでの呼称は大体魔力で固定され、わざわざ法力と言い直すことは少ないのだ。

 何となく言い訳めいた考えを頭の中で巡らせつつ、マインが用意したのは小さな白い錠剤と水筒であった。


「マナ・タブレットですか? 大丈夫ですかそれ飲ませてしまっても」


 それはマインがもしもの時のためにとこっそり服の隠しポケットに忍ばせていた品物であった。

 魔力回復の手段は手軽なものだとポーションを使うのが一般的なのだが、マインが持つ錠剤はポーションとは比較にならない程強い薬効を持っている。

 薬効が強い分には構わないのではないかと考える者もいるが、強すぎる薬効は毒にもなるので投薬にはきちんとした知識が必要となるのだ。


「俺は平気なんだが……」


 元々はマイン自身の緊急用である。

 何かしらの不測の事態が発生して、自分の魔力が枯渇してしまった場合を考えて持ってきた品物で、マインの魔力許容量であればその錠剤を口いっぱいに頬張るくらいに飲んだとしても全く平気なはずだった。

 ただリドルは何の訓練も受けていない一般人である。

 当然、魔力の保有量は魔術師であるマインよりもずっと少ないに違いない。


「マスター、何をお考えなのかはわかりませんが、ご自身の魔力保有量は異常だ、と言うことはお忘れなく」


 一錠位ならば大丈夫だろと考えて、錠剤をリドルの口元へ運ぼうとしていたマインの動きが止まる。


「拙いかな?」


「その錠剤、マスターのお手製ですよね? 私はとても拙い気がします」


 マインがマイン用に作成した品物であるならば、大抵は一般人に与えては拙いことになる物だろうとアイは思う。

 マインは分類上、まだ人間の範疇を出ていないらいしのだが、その身で経て来た時間はあまりにも長い。

 それこそ長寿で有名な亜人のエルフに匹敵するだけの時間を経てきているので、普通の人と比べると、その差は大人と子供以上に離れているといっていい。

 そして大人用に調合された薬は、大体の場合はj子供に与えてはいけない物なのだ。


「止めておくか」


 ただの魔力、もしくは法力の枯渇であるならば、投薬を行わなくとも自然回復でリドルは目を覚ますはずであった。

 人によって多少の差異はあるものの、およそ一日寝ていれば魔力は大体全快するものである。

 ゴブリンの大群とコボルトの大群とに出会ったような場所で、一晩を明かすということになるのだが、マインとアイの実力ならば、危険はないに等しいと言っても過言ではなかった。

 念のためという名目で物資を多めに持ち込んでいるので、野宿するには特に問題ない。

 意識のないリドルを下手に動かすと言う危険を冒すより、安全策を取ってリドルが自然に目を覚ますのを待とうかと提案しかけてマインはふと、リドルがうっすらとだが目を開いているのに気が付いた。


「リドル、意識が……」


 横にさせていたことでいくらか力が回復したのだろうかと思ったマインは、うっすらと目を開いたリドルの視線が何かに注がれていることを見て取った。

 リドルがじっと見つめている物とは一体なんであるのか。

 その答えはすぐに出た。


「それにようですね」


 アイもまたリドルが目を開いているのに気が付いたらしく、指さした先にあった物はマインが手にしていた錠剤であった。

 確認のため、マインが指に錠剤を挟んだままゆっくりと左右に振って見せると、薄く開いた瞼の下で、マインの動きに合わせてリドルの瞳が左右に動くのがわかる。


「起きているのかこれ?」


「覚醒はしていないみたいですが」


 アイがリドルの顔の前で軽くてを振ってみたのだが、リドルの瞳はそれには全く反応を示さなかった。

 半覚醒状態というか、夢現の状態というか、どう判断していいやら分からないような状態で、何故かマインが持つ錠剤にだけ反応するリドルに、どう対処したものかと考えるマインの注意がリドルから外れる。


「マスター!?」


 アイの警告の声に、ぎくりと身を引いたマインだったのだが、それよりも早く体を起こしたリドルが、かぱっと口を開いてマインへと襲い掛かる。

 何か呪いの類でもかけられていたのかと頭の中でいくつかの術式を巡らせたマインは、大きく口を開いたリドルが自分の首や腕などではなく、餌に食いつく魚のようにあの錠剤を、摘まんでいた指ごとぱくりと口に含んだのを見て固まった。

 指に感じるのは口内の粘膜やら舌。

 或いは歯の固さで、指を食いちぎる気だろうかと思うマインだったが、リドルは寝ぼけているかのように甘噛み以上の力は加えては来ず、マインの指から錠剤を奪い取ろうと口をもぐもぐと動かす。

 これはどうすればいいのだろうかと指をリドルに咥えられながらマインがアイを見れば、帰って来たのは凍えるように冷たい視線であった。


「マスター、変態っぽいです」


「俺が一体何をした」


「少女に指をしゃぶらせています」


 やらせているわけじゃないと抗議したかったマインなのだが、リドルが急に指を強めに噛んできたので断念する。

 どうやらマインの指がいつまで経っても錠剤を離そうとしないことに苛立ったようで、マインがリドルの口の中で錠剤を手放すと、リドルはマインの指を解放してまた横になった。


「マスター、仮にその指。舐めたりしようものならば通報します」


「するか。というかどこに通報する気だ?」


 濡れた指先を睨みつけるアイにげんなりしつつ、マインは空中に小さな水の球を出現させると指先を洗い、軽く振って水気を飛ばす。


「それはともかく、投薬してしまいましたね」


「まぁそれな」


 投薬と言うよりは奪い取られたという方が正しいだろうと思うマインの目の前で、リドルは横になったまま口の中にある戦利品をぼりぼりと噛み砕くのであった。

土日は一日一更新になります。

そしてこれを投稿している時点でPVが4500を超えました。

ありがたいことです。


というわけで。

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