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「マイン、見て。大漁」
マインが自分を呼んでいるのを聞いて、すぐに駆け寄って来たリドルが掲げて見せたのは切り落としたコボルトの耳が入っている布袋だ。
耳だけとは言え三十匹くらいから切り取れば、それはかなりの量であって袋の方もぱんぱんに膨れ上がっている。
コボルトの討伐報酬はゴブリンのそれに少し色をつけたくらいでとても低い。
個体としてはゴブリンよりもやや上なのだが、群れた時の危険度はやはりゴブリンの方が上ということで、総合評価として似たり寄ったりと評価されているからなのだが、易い報酬も数が集まればそこそこの総額になる。
魔術付与品などと言う高額な品を扱っているマインからしてみればはした金でしかないが、村娘のリドルからしてみればこれまでに見たことがないような金額だ。
「これで何を買おうかな」
ゴブリンの討伐報酬も加えれば、色々な物が買えそうな気がして上機嫌になるリドルだったのだが、そこへマインが水をかけるようなことを言う。
「リドル、浮かれるのは後だ。嫌な感じがする」
「嫌な感じ?」
元々マイン達の村は魔物の被害が起きること自体がやや珍しい出来事に分類されるような村だ。
その村の近くにゴブリンが巣を作ったことが既に珍しい出来事であるというのに、そこに上乗せして本来はあまり人里近くには出てこないコボルトが、それも大きな群れを作って遭遇したのである。
一つだけならば珍しいことで済まされてしまう出来事も、二つ重なればそれらには何かしら共通の原因が存在しているのではないかと考えてしまう。
そしてもし、その二つの出来事をつなぐような共通の原因と言うものが存在するのであれば、マイン達の村に魔物の被害を及ぼし、さらに魔物を呼び込むようなそれはほぼ確実に悪いことに違いない。
「そういう訳だから、討伐報酬の換金は後回しにしたい」
「構わないけど、どうやって保管しておけばいいかなこれ?」
リドルが手にしていたコボルトの耳が入った袋を指さす。
当たり前だがコボルトの耳は生もので、放置していれば時間経過で腐る。
もう一つリドルが所有しているゴブリンの耳入りの袋もまた同様で、腐るところまではいかなかったとしても、いずれは相当な悪臭を放つであろうことが必須の代物だ。
「荷物を全部アイに預けて、二つ共バックパックの中に放り込んでおけ」
マインの指示に、リドルはバックパックを地面へ下すと中身を掴みだして、次々にアイへと手渡していく。
荷物を収納できそうな物など何も持っていないように見えるアイなのだが、受け取った荷物がどこへともなく消えていく様子は、何かしらの手品を見せられているような気分にさせられる。
やがて空になったバックパックへ二つの袋をリドルが納めると、マインがそれに手をかざして何事か呟いた。
「そいつには温度維持の魔術が付与されてる。凍る手前くらいの温度に設定しておいたから、しばらくは大丈夫だ」
「背中、冷たくなったりしない?」
マインの言葉から氷入りの袋を背負うようなものではないだろうかと思うリドルに、マインはしばし沈黙してから自信なさげに言った。
「冷たかったら言ってくれ」
リドルは革鎧を着こんでいる。
その上から背負って冷たいと感じるくらいならば、余程の冷たさが漏れ出しているのではないだろうかと思いつつ、バックパックを背負いなおしたリドルは、どうやら冷たさに関しては大丈夫そうだと感じた瞬間、くらりとめまいを覚えて体をふらつかせた。
荷物は総量としては減っており、急に重たくなったわけではないだろうにと思うリドルは、慌てた様子で近寄って来たマインの体にすがりつくようにして倒れ込みつつ、そのまま自分の身に何が起きたのかを理解しないまま意識を失う。
「リドル!? おいリドル!?」
これに慌てたのがマインだ。
体をふらつかせたリドルを支えてやろうと近づいたら、抱きついてきた。
これを抱きとめてやったら今度は気を失ってぐったりとしてしまったものだから、マインが慌ててしまうのも無理はない。
さすがに考えなしにリドルの体を揺さぶるような真似はしなかったものの、ぐったりとしたリドルの体を抱きかかえたままややうろたえだす。
「マスターの珍しい様子を見ました」
そんなマインの様子に目を丸くしたのがアイである。
うろたえていたマインの意識はその一言を聞いてかっとなり、衝動のままにアイを怒鳴りつけてやろうとして、ぎりぎりのところで頭の中の冷静な部分がその行動を制止した。
「意外と冷静?」
「頭は冷えた。挑発はもういい」
どこまでが素で、どこからが計算なのかはマインにも分からない。
だがアイの言動が自分を冷静にさせるためのものだと言うことは、うろたえ気味のマインにも理解できた。
人は内側に溜め込んでいる時よりも、何らかの方法で一度外へと吐き出してしまった方が冷静さを取り戻すまでの時間が短くて済んだりするものだ。
「精神的賢者タイム」
「やめろ、はしたない」
にやにやしながらアイが口にした言葉にマインが難色を示すと、アイはそのにやにやとした笑みを顔から消し、無表情と言えるほどに表情の抜けた顔を見せるとうやうやしくマインへ一礼した。
「では、いかがなさいますかマスター?」
「それも止めろ。リドルに見られたらどうするつもりだ」
仮面のような顔を向けてくるリドルにマインは苦々しそうにそう言ったのだが、アイは表情を変えることなく首を横に振る。
「私の性能をお疑いですかマスター? 貴方が創造した私でしょうに」
「俺は……」
「気まぐれに姿を消されたことも。外見が以前と違っていることも、私は特に問題だとは思いません。ただ、見つけたからにはお傍にいる許可を。それを許さないとおっしゃられるのであれば、どうか私を破棄してください」
感情の籠っていない目で、アイはマインを見つめながら言う。
「それが創造主としての責任なのでは?」
「別にそれから逃げる気はなんだがな」
リドルを抱えたまま、アイを真っすぐに見返してマインは言う。
「とりあえず場所を変えないか? 立ち話もなんだし、リドルを休ませたい」
「はい、ではそのように」
マインの提案に合いはもう一度丁寧に、かつうやうやしく一礼したのであった。
予めお伝えしておきます。
これ書いてる人は、メイドスキーです。
そんなこんなで。
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