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 その後リドルは五匹のコボルトを血祭りにあげた。

 いずれも撲殺としか言えないような状態で、とても剣を使った戦闘の結果だとは思えないものではあったが、それよりもマインはアイとリドルが倒したコボルトの数の方が気になっている。


「リドルが八匹で、アイは?」


「二十といくつか、かと」


「全部でほぼ三十か。多いな」


 コボルトの前に、それ以上の数のゴブリンを始末しているマイン達ではあるのだが、それはマイン達がゴブリンの巣を襲撃したからこその討伐数であり、コボルトのように不意に遭遇したというわけではない。

 そしてマインの見立てでは、三十匹近くのコボルトの群というものは、それなりに経験を積んだ一般的な冒険者のパーティでも不覚を取りかねない数である。

 ちなみに、マインの言う一般的な冒険者のパーティとは前衛三人、後衛二人の五人からなる一行のことで、職は様々であるのだが、基本的にはこの構成でパーティを組むのが一般的な定石とされていた。


「マイン。コボルトの討伐証明部位ってどこ?」


 マインのように何故こんなところでコボルトの大群に出くわしたのかを考えるよりも、折角倒したのだから少しでもお金に代えたいと考えるリドルが、自分が倒したコボルトの中でも比較的、状態がきれいなものを指さしてマインに尋ねる。

 比較的とはいっても、そのコボルトはリドルの一撃を脇腹に食らっており、胴体がべっこりと凹んだ上に口から大量の血を吐いていた。


「コボルトの討伐部位は……牙だったか?」


「耳です、耳。牙は採りにくい上に持ってきても使い道がないので、どうせ使い道がないのならば採りやすい場所ということで、最近耳に変更されています」


 マインの持っていた情報は少々古かったらしく、アイに訂正される。

 確かに、いかにコボルトの物とは言え牙はそれなりに固く、折り取るのは大変そうであるし、歯ぐきから抉り取るのは折るよりさらに大変そうだ。

 その点、耳ならばナイフ程度の刃物で簡単に切り落とすことができそうなので、回収は楽そうであり、報奨金を出すところが合理的な気配りをしてくれたのだなとマインは感心した。


「マイン。何か袋ない? コボルトの耳を回収してくる」


 掌を差し出してくるリドルに、マインは服のポケットから布袋を取り出しつつ、リドルの持つ剣の切れ味をいくらか戻しておく。

 手にした剣がやっぱり切れないとなれば、代わりの何かを要求されそうな気がしたからなのだが、そんなマインの思惑に気が付くこともなく、リドルは布袋を受け取ると剣を片手に、早速コボルトの耳を切り落としにかかった。


「妙ですよね。マスター?」


 作業中のリドルを見守っていたマインに、アイが近づいてきて小声で言った。

 視線はリドルの方へ向けたまま、マインは逆に問い返す。


「どっちがだ?」


「それは……」


 アイは返答に迷った。

 おそらく自分が妙だと感じていることは、マインも同じく妙なことだと思っているはずである。

 そして、その妙なことと言うものは現状、二つあるのだ。

 どちらを先に切り出すべきかと迷ったアイはわずかな時間を消費した後、自分が興味に思う方から切り出すことにした。


「ご主人様のお体のことです」


「あれは無意識下の術式を使用しているのだと思う」


 魔術師や神官といった者達が扱う術には、必ず術式というものが存在している。

 術者は自分の意識の中に予めその術式を構成し、そこへ魔力なり法力なりを流し込むことによって術を発現させるのだ。

 もっとも、魔術師は呪文を唱えたりすることによって自力で術式を構成するのに対し、神官は祈ることによって自然と、本人達に表現させると神から与えられることによって、術式を構成するといった違いがある。

 ただ時たま、本当に稀に、最初から意識の中に術式を有している者というのが現れることがあった。

 マインの言う、無意識下の術式とはそれのことである。

 これを持つ者は何らかの拍子に、その構成に力を通すことによって全く意識することなく、術を発動してしまうことがあるのだ。

 リドルはその稀なケースに該当するのではないか、とマインは考えた。

 この稀なケースは、実は発見されないままに埋もれて朽ちていくことが多い。

 たとえばリドルの場合。

 リドルが騎士物語などと言う物語に感化されるようなことがなく、普通の農村の娘として一生を終えていたのであれば、まず発現しなかったはずなのだ。

 それがたまたま今回、剣を手に取って魔物と戦うという、ある種異常な体験をすることによって、秘めていた才能が表へと出て来たのだろう。

 問題は、とマインはコボルトの耳を手にした剣ですぱすぱ切り落としながら、何故この切れ味がコボルトと戦った時に出てこなかったのかと不思議がるリドルを見ながら、少々苦々しく考える。

 一体、リドルは何の術式を発現させたのか。

 ある程度、魔術付与品で強化されていたとは言え、少女の腕の力でコボルトの頭部を砕き散らすくらいの一撃を放つことができたのだから何らかの強化系なのだろうという見当はつく。

 だが、そこから先が分からない。

 速度を強化したのか、腕力を強化したのか。

 或いは単に打撃力だけを強化したのかもしれないと言う線もある。

 発現した魔術の構成は、魔術師としての実力が高ければ、これを解析して効果を知ることはできるのだが、元々備わっていたような術式は魔術師としての力量が高かったとしてもそう簡単には見破れず、まして今回の場合はまさかリオルにそんなものが備わっているとは夢にも思っておらず、マインはしっかりとリドルを観察していなかった。

 ただ一つ分かることは、とマインは自分の右手を見る。

 マインがリドルの首を手で掴んだ時、熱さと衝撃の二つがマインの手を襲った。

 それの意味するところは、魔力を扱う魔術師とは相反する力がリドルに働いていたのではないかということ。

 魔力と相反する属性の力とは、すなわち神官の使う法力くらいしかない。


「神聖系の天然術者か……そっちは色々と面倒が多いんだよな」


「モロに教会が絡んで来ますからね」


 厄介なことにならなければいいのだが。

 そんな思いを抱きつつ、マインはそれ以外にも考えなければならない面倒ごとがあったなと、作業中のリドルを呼び寄せるのであった。

ストックと更新のデッドヒート。

たぶん、先にストックが尽きるはず。


そんなこんなで。

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