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毎日更新して、サブタイトルまでつけてる書き手さんは
すげぇなと思う。
というわけで。
ブクマ、評価、感想などお待ちしております。
「その手の誤解は後々、面倒なことになりかねないかと思います、マスター」
リドルが納得していないと言うような表情から、何かを納得したような表情へと代わりつつ何度か頷く様子を見ていたマインにアイが囁いた。
ちらりと視線だけ向けてくるマインに、アイは渋い顔をしながら言葉を続ける。
「不正確な情報による実力の誤認は、後々そのまま命にかかわりかねません」
「実際、俺がやったことなんてアイのやったことに比べれば大したことじゃないだろうに?」
「はいマスター。そこは正しい比較です。ですがそれを大したことのない普通の技量と評価するのはいかがなものかと」
魔術には使用する難易度によって、位階と呼ばれるものが存在している。
この位階は第一から第十まで存在しており、マインが使用したのは第一位階の魔術で、アイが使用したのは第五位階の魔術であった。
魔術師としての評価では、問題なく第三位階の魔術が使えれば一人前。
第五位階の魔術が使えるようになると、自分以外の魔術師に術を教え、導くことができる導師として認められる。
ここまでの情報を元に考えるのであれば、アイはマインよりも優れた魔術師であるということになるのだが、それに待ったをかけるのがマインもアイも両者共に爆発の影響を防ぎ切ったという事実だ。
それはつまり、アイが第五位階を持ち出してい防いだものを、マインは第一位階の魔術を二つ行使するだけで防ぎ切ったということを意味している。
位階の高い魔術が強い効果を持っているのは当たり前のことで、それと同じ効果をそれよりも低い位階の魔術で再現してしまえるということは、それがそのまま術者の実力として繁栄されるのだ。
元々、マインが使った二つの魔術は物理的なものは火の害をいくらか減少させる程度の効果であり、規模にもよるが衝撃や火の害を完全に防ぎ切るほどの効果は持っていない。
それに対してアイが使った魔術は、とりあえず行使さえ間に合えば大体の被害はほぼ防いでくれるといった強い効果の魔術だ。
それを考慮に含めると、アイの魔術の技量は決して低いものではないものの、マインの技量はアイのそれを明らかに超えていると判断される。
ただやっていることは第一位階の魔術を行使しただけのことなので、アイよりずっと簡単なことをしているように見えているのだ。
そのあたりのことを理解しないままに、マインのことを魔術師としては普通と認識。
もしくはあまり大した魔術師ではないなどと判断してしまうことは非常に危険であり、状況によっては命にかかわりかねないとアイは警告したのである。
「まぁそういう判断が必要となることも、そうそうないだろ?」
アイの警告に対するマインの考えは、ただの村娘であるリドルにその手の判断力は特に必要ではないだろうというものであった。
今は騎士王物語などという本の内容にアテられて、全くなじみのない荒事に首を突っ込んではいるものの、そのうちきっと飽きるだろうと軽く考えていたのである。
普通の村娘に戻るのであれば、魔術師の品定めなどする必要はない。
そう考えてのマインの返答に、アイは特に反論することなく目を伏せた。
「二人で何をこそこそしゃべってるの?」
声に少しばかりの不機嫌さをにじませて、リドルが問いかけてくるのに対し、アイはそっとマインから離れ、マインは声音も表情も変えることなく応じる。
「別に内緒話をしていたわけじゃない」
「じゃあ何を話してたの?」
内緒じゃないのならば言えるだろうと詰め寄るリドルに、マインはあっさりと答えた。
「こんなきれいさっぱりと焼失させてよかったのかと聞かれただけだ」
マインの答えを聞いて、リドルはゴブリンの集落があった場所を見回す。
おそらくは何らかの薬品であったのだろう怪しげな煙に火を点けた結果。
ほとんど爆発に近かった激しい燃焼が、効果範囲内にあった物全てを焼き尽くし、一気に灰の状態へと変えてしまった景色がそこにはあった。
その灰も爆風に吹き散らされてしまっており、そこにあるのは黒く焼けた大地と、わずかに残る灰のみといった殺風景さである。
見るべき物などひとつもなくなってしまったその景色を、たっぷり時間をかけて眺めてからリドルはマインへ言う。
「やりすぎたんじゃないこれ?」
「そうかもしれない」
いくらゴブリン達の死体と住居を後腐れなく始末するためとは言え、自分達も巻き込むほどの火力できれいさっぱりと吹き飛ばしてしまったのは指摘されるまでもなく、やりすぎだったかなとマインは内心思っていた。
だが、衛生面や危険回避の観点から考えると、これくらい徹底して焼き尽くしておいた方がよいこともまた確かな話で、いい塩梅というところが難しい。
やりすぎれば自分達にも被害が及ぶし、手加減し過ぎれば生き残りが出るかもしれず、その生き残りがまたどこか別な土地に流れて人に害を与える。
今回の場合、多少巻き込まれたという被害はあるものの、きっちりこれを防ぎ切り、痛い思いなどすることがなかったのだから、これはこれで成功とみなしてもいいのではないかとマインは思った。
惜しむらくは村から攫われた二人の村人を助け出すことができなかったことではあるのだが、これはどうしようもない。
思ったよりもゴブリン達の数が多く、その身に降りかかった責めが苛烈なものであり、耐え切れずに命を落としたのだとしてもそれは本人達の運というものであって、マイン達の側に何らかの落ち度があったというわけではないのだ。
遺体を村へ持ち帰れなかったというのも問題ではあるが、マイン達だけでは人手が足りず、一度村へ応援を呼びに行ったのでは、呼びに行っている間に他の獣か何かに食い荒らされてしまったことだろう。
少なくとも遺髪は持って帰るのだから、文句を言われる筋合いはないはずだよなと考えたマインは、とある事実に気が付く。
「よく考えたらあの夫婦。他に身寄りとかないんじゃ……」
夫はゴブリンによる村への襲撃時に死亡しており、妻と娘はゴブリンの集落で命を落としているということであれば、一家全滅である。
マインの記憶では他に血縁者が村にいたという記憶はないので、これが正しければ文句を言ってくるような者はいない。
一瞬だけ、それならば遺髪も村へ持ち帰る必要はないのではないかという邪な思考がマインの耳元でささやいたのだが、そこまで割り切って考えられないマインは頭を強めに振ってその考えを頭の外へと追い出したのであった。




