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 ゴブリンの集落のあちこちに置かれた小瓶から漏れ出す紫色の煙は、リドルにはどういう原理なのかさっぱり分からなかったが四方へ拡散することなく地表付近に滞留し、集落をゆっくりと覆いつくしていく。

 その動きもさることながら、見た目も毒々しいとしか言えず、口元を掌で覆いつつ険しい表情になるリドル。


「とても体に悪そう」


「まぁ実際、体にはやや悪い。吸い込まないように注意してくれ」


「もしかして、これって毒?」


 止めを刺していないゴブリンは、集落の中にはまだかなり残っている。

 それらを一気に始末するべく、毒をまいたのかと思ったリドルなのだが、マインはそれを否定した。


「個体に服用させるタイプならともかく、散布するタイプの毒は環境への影響が計り知れないので、安易に使うべきじゃない」


 後先考えずに毒を使用してしまったが故に、かえって色々なもののバランスを崩してしまった結果、毒を散布する前よりずっと悪い環境になったという笑えない話は、探せばそれ程苦労することなく入手できる。


「これはただの可燃性ガスだ。燃焼範囲が分かり易いように敢えて目立つ色付けをしているだけだが……まぁ体にいいものでもない」


 視界の端で、アイが遺髪を回収し終えて戻ってくる姿を捉えると、マインはリドルを促して集落の外へと出る。

 その頃になると紫色の煙はゴブリンの集落を厚く覆いつくしてしまっていて、なんだか近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。


「やり残したことはないよな?」


「これといって思いつかないけど」


「私の方は特段、やるべきことがありません。マスター」


 二人の答えを確認したマインは、地面から適当に枯れた木の枝を一本拾い上げると、その先端に指を近づける。


「<ティンダー>」


 行使された魔術は可燃物に火を点けるだけのもので、マインが拾った木の枝の先に小さな火が灯る。

 可燃ガスに直接火を点けず、わざわざ火種を作るマインの意図が読めず、リドルは首を傾げたのだが、次の動作を見てその意図する所を知った。


「<プロテクション・フロム・ファイア>」


 次に実行されたのは、火から身を護るための魔術だ。

 行使された魔術が現実へと効果を及ぼし、マインとリドルの体を淡く光る薄い膜が一瞬だけ包み込む。


「あ!?」


 声を上げたのはアイだった。

 それが何を意味していたのかと言えば、リドルは淡い光の膜がアイの体を包んでいなかったことに気付いてそれを知る。


「<プロテクション>ってすまん。忘れてた」


「ちょっとマスター!? <プロテクション・フロム・オール>!!」


 あまり悪いと思っているようには聞こえないマインの謝罪の一言に、顔色を変えつつ慌ててアイが魔術を行使した時、マインが放り投げた火種が紫色のガスに引火した。

 瞬間、視界が真っ赤に染まる。

 それが炎の色だと理解するより早く、耳に爆破音が響く。

 その現象の真っただ中にいるせいなのか、或いはマインが行使した魔術にいくらかの防音性能があったのか。

 はたまた耳が爆発音をそれと認識する前に鼓膜が破れてしまったのかリドルのは判別できなかったのだが、音は耳鳴りを引き起こす程には大きくなく、耳線なしでもどうにか耐えられるくらいのものだった。


「集落一つ焼くのって、大変なんだね」


 火に飲まれたということはすぐに理解することができた。

 それなりの広さの集落を一気に焼くからにはそれなりの燃料が必要だったわけだが、そんな量の燃料に着火すれば激しい燃焼。

 所謂爆発が起きるのも当然である。

 そしてその爆発を起こすべく火種を投げ入れられる距離にいたマイン達が、その爆発に巻き込まれるというのもまた当然であった。

 普通に呑み込まれていれば、ほぼ確実に命を落とすようなことになっていたはずなのだろうが、マインやリドルが赤い炎に呑み込まれながらも熱や衝撃にやられていないのは、マインが火種を投げ入れる時に使った二つの魔術のおかげである。


「実はマイン、すごい魔術師?」


 炎の熱を完全に防ぎ、至近距離からの爆発の衝撃を全く寄せ付けなかった魔術の効果はリドルに驚きをもたらしていた。

 マイン以外に魔術師の知り合いなどいないリドルは、普通の魔術師というものがどのようなものなのかを知らない。

 しかし、知らないながらにマインの魔術の技量は卓越しているのではないか、と感じ取ったのだ。

 だが炎が治まり、焼け焦げた周囲の状況を見回していたマインは、リドルの感想に苦笑をもって応えた。


「俺など大した魔術師じゃない。この程度の魔術師など探せばいくらでも見つかるだろう」


 マインの返答にリドルが何か言う前に、アイが吹き出し咳き込んだ。

 思わず言い出しかけた言葉を飲み込んだリドルへ、マインがさらに言う。


「第一、本当に優れた魔術師ならばアイを魔術の対象に入れ忘れるようなミスはしないだろう?」


 確かにそうだったとリドルは思い出す。

 マインはマイン自身とリドルのことは魔術で守りはしたものの、アイについては魔術の対象として認識し忘れていたのだ。

 ただ、マインにとってリドルは常日頃から近くにいる存在であり、忘れるわけがない相手なのに対してアイは完全に臨時のメンバーで、飛び入り参加のような感じである。

 ついうっかり忘れてしまったとしても、それほど不自然ではないような気がするリドルであった。


「もう一つ。俺は今の爆発を防ぐのに術を二つ行使した。だがアイはメイドの身でありながらあの短時間に、一つの魔術を行使するだけで自分の身を護ったんだぞ」


 納得していないような顔のリドルに、マインはもう一つの証拠を提示する。

 確かにアイがぎりぎりのタイミングで使った魔術は一つだけで、しかもアイは魔術師ではなくメイドを名乗っている。

 そう考えるとマインが行ったことは、魔術が使える者にとってはそう大したことではなく、マインが言うようにマインは普通の魔術師という評価が正しいのかなと思いなおすリドルであった。

何時に更新をかけるのが一番人の目につくのだろう。

そんなことを考えつつ、つらつらと更新。


というわけで。

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