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マイン達はその後、結構な時間をかけてゴブリンの集落を調査したのだが、最初にマインが発見した以外の死体を見つけることはできなかった。
ゴブリン達が使っていたのであろうゴミ捨て場も見つけはしたのだが、ここは悪臭がひど過ぎてリドルはもちろん、マインやアイすらも近づくことができなかったので、遠目から確認するだけに留まったのだが、そこに捨てられているような感じもない。
「最初に見つけたのがそうだったと思うしかないな」
たとえ違っていたとしても、三人がかりで集落中を調査して回った結果として、それ以外のものを発見することができなかったのだから、他に判断のしようがない。
楽観的かつ希望的な考え方をするならば、マイン達がこの集落に来る前に、自力で脱出したという考えがないわけでもなかったが、可能性としては考えるに値しないほどに低いとしか言えなかった。
「さて、一通りの調査はし終えたし、この集落をどう始末するかなんだが……」
見張りのゴブリン達を始末した時のように一匹ずつ始末していく、というのが確実であるとマインも思ってはいる。
しかし、それには相当の時間を要してしまう。
今回の場合、始末したゴブリンの数十体以上に及び死体の処理もあるのだ。
これを放置してしまうとアンデッド化して人を襲うようになってしまったり、腐敗して悪臭をまき散らした挙句に性質の悪い病気を振りまいてしまって被害を拡大させてしまうことになりかねない。
さてどうしたものかと思案するマインはふと、リドルが不機嫌そうな表情をしていることに気が付いた。
「どうした?」
「それはこっちの台詞。一体何をしたの?」
「何って……」
「これだけこちらが動いているのに、一匹も起きてこない」
マイン達はゴブリンの集落内にある住居をかなり適当に開き、その中の状態を確認し、それほど声を殺すことなく会話したりしている。
さすがに遠慮なく声を張り上げるような馬鹿な真似はしていなかったが、それでも隠密行動に徹していたかと問われると、それを肯定することはできなかった。
だと言うのに、マイン達に襲撃された形となっているゴブリン達は、マイン達の調査が終わるまで。
そして終了した今となっても一匹も目を覚ますことなく、いぎたなく眠りこけているのだ。
誰がどう見ても何かおかしいと考えるはずで、それはリドルとて同じであった。
「何かした?」
具体的に誰が何をしたのかについてはリドルにはさっぱり分からなかった。
ただ確実に言えることは、自分は何もしていないという事実だけで、これに間違いがないのであれば、何かしたのは自分以外の誰か。
つまりはマインかアイか、それか全く見当もつかないどこかの第三者ということになる。
第三者の可能性については考えてみてもキリのない話にしかならず、それならばまず身近な人からということで、リドルはマインやアイに問いかけたのだった。
「私は特に何も。眠らせる手間をかけるくらいなら始末した方がずっと早くて楽ですし。マスターはいかがですか?」
「さてね」
あっさりと否定するアイに問われてマインは首を傾げる。
その反応は本当に知らないのか、或いは誤魔化しているのかなのだろうがリドルには二人の表情や仕草から真偽を読み取るような芸当はできなかった。
「それよりこの集落の始末だ」
「むう。今一つ釈然としないけれど。そっちが先かな」
多少騒がしくしても起きてこないからといって、ゴブリン達がいつまでも寝ていてくれるのかと考えれば、いずれは起き出してくるだろうと考えるのが自然である。
「とりあえずアイは先程の遺体から遺髪を切り取ってきてくれるか?」
「はい、マスター。お任せください」
マインの求めに応じて、アイはおそらく攫われた村人であろうと思われる遺体のあった場所へと歩いていく。
「遺体は持ち替えられなくていいの?」
リドルに聞かれたマインは無言で首を横に振る。
あまりリドルには説明したくない話だったが、まずその遺体が絶対に村人のものだとは言い切れず、何かしらの証拠もない。
遺体の損傷状態はかなり酷く、運べば周囲に血肉の匂いをばらまいてしまうことは確実であり、村に帰る途中で何らかのよからぬ存在の注意を引いてしまうかもしれなかった。
さらに運ぶ方法は人力しかなく、マイン達は遺体を包むための布も袋も持ってきていないとなれば、遺体の運搬は諦めざるをえない。
もっとも、最初から布や袋の用意をして来なかったということは、攫われた村人が死亡していた場合はその遺体を諦める心づもりだったということなのだが、それをリドルに説明する気はマインには全くなかった。
「集落は焼くか。いちいち止めを刺して耳を切り落として回るのも面倒だし」
「もったいない気もするけれど。燃料はどうするの?」
ゴブリンの集落はそれなりの広さがあり、これを一気に焼くというのは難しいのではないだろうかとリドルは考えた。
ある程度は、ゴブリン達の住居を構成している枝や葉が燃料として機能してはくれるのだろうが、集落全体をきっちりと火の海に沈めるにはかなり量が足りない。
燃料自体は銛の中であるので、集めてこれないこともないとは思われたが、集落一つを焼き落とすためにどれだけの木材なんかが必要となるのか、リドルには見当もつかなかった。
「そこは少々、魔術師的なズルをする。普通に燃やすと森林火災を引き起こしかねないしな」
村から距離があるとは言っても火事は非常に怖い。
どこまで延焼するか分かったものではないし、火に追われた獣やら魔物やらがどこにどう逃げるか予想がつかないからだ。
「薬剤を使って一気に焼く。すまないがリドル。散布の手伝いをしてくれ」
そう言いながらマインがどこからともなく取り出した小瓶は、口の封を切ると中からいかにも怪しげな紫色の煙を吐き出し始める。
これを集落のあちこちに置いてくれと頼むマインに、リドルは頷くながらもおっかなびっくりといった感じで小瓶を受け取ったのであった。
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