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「そんなことよりお二方」
強引に話題を変えるかのように、有無を言わさぬ笑顔でアイが言う。
「相手の目はあらかた潰したと思うのですが、敵はまだ残っておりますよ?」
言われてリドルが慌てて剣を構える。
マインやアイがあまり緊張していないように見えるせいか、普通に会話しつつ森を散策しているような気持ちになりがちだったのだが、自分達が現在いる場所がゴブリンの集落の内側だと言うことを思い出したせいだった。
ただ、リドルが剣を構えてみても、マイン達の周囲にある木の枝と葉とで粗雑に組んであるゴブリンの住居らしきものからゴブリンが出てくるような気配は感じられない。
「留守かな?」
「見張りはいたぞ?」
「留守番だったのかも」
まだ日の高い時間帯で、ゴブリン達が活発に動いているとはあまり考えられなかった。
しかし、例外や想定外の出来事と言うものは、いつも前触れなく突発的に発生して人を驚かせるものだ。
今回、それが起きていないとは誰も言い切れない。
注意するに越したことはないというマインに頷き返してから、リドルは足音を忍ばせつつ、住居の一つへと近づいていく。
「うーん、あれは三十五点といったところでしょうか」
「それは何点満点なんだ?」
「当然百点満点です。足音はともかく気配の殺し方がなっていません」
自分の背後で、とても警戒しているようには聞こえない、アイとマインとの会話を聞いてリドルは口をへの字に曲げた。
随分と辛口の評価ではないかとリドルは思うのだが、マインは違った感想を抱いたらしく、小さく驚きの声を上げる。
「百点中三十五点なら、未経験な点を考慮すれば相当な高得点じゃないか?」
「左様ですね。ご主人様は妙に身体能力が高いように見受けられますが、マスターには何かしらの心当たりがおありでしょうか?」
「特にないが……高いのか?」
「私の認識ですと、普通の村娘ならば十点も取れれば合格点なのではないかと」
背後から聞こえてきている会話は、内容からしてどうも自分を褒めているらしいとリドルは少しだけ気をよくしながら近づいたゴブリンの住居の、雑に細い枝を組み合わせて作られた壁に手をかける。
こんなもので風雨を防ぐことができるのだろうかと疑問に思う程度の壁をかき分け、作った隙間の間からそっと中を覗き込むと、暗がりの中二転がる何匹かのゴブリンの姿がそこにあった。
「寝てる……?」
真偽はどうあれ、リドルの目にはゴブリン達の様子はそのように見えた。
死んでいるわけではないということは、多少上下している胸や腹。
時々打つ寝返りなどから分かる。
「今時分、彼らにとっては真夜中でしょうからね。不思議ではないです」
近くの別の住居を調べていたアイなのだが、そちらも同じ状態だったらしい。
「好都合だな」
さらに別の住居を調べていたマインが、ちらりと中を見ただけですぐに開いた隙間を閉じてしまう。
「住居ごと焼くか」
溜息の様にそう吐き出したマインにリドルが首を横に振る。
「駄目でしょ。攫われた人達はどうするつもりなの」
ゴブリンが焼け死ぬくらいの火の勢いで放火しようものならば、村から攫われてしまったらしい村人もまた一緒に焼け死んでしまうに違いない。
そう思ってマインを止めたリドルだったのだが、マインが渋面を作るのを見て何か間違ったことでも言ってしまっただろうかとうろたえてしまう。
「攫われた人な。探すだけ探してみるか?」
「何か見つけたの?」
歯切れ悪く、何かを誤魔化すかのような口調のマインに、これは何かあったのだろうかとリドルが問う。
マインは言うべきかどうか迷う素振りを見せたのだが、すぐに情報の共有は大事であり、隠し事をするということはろくでもないことになりかねないだろうと考えて、自分が見つけたものについて話し出す。
「死体だ。かなり新しそうな奴。もちろん攫われた人のものだとは限らないが……タイミングと場所的に考えてその可能性が非常に高いと思う」
「調べたら分かるんじゃないの?」
マイン達の住む村は、それ程大きな村ではなく、人口の方もたかが知れている。
大体の村人は顔を知っているわけで、見れば分かるのではないかと首を傾げるリドルに、マインはやや固い笑みを見せながら言った。
「見て分かるようならな」
言いづらそうなマインの言葉に、リドルは渋面を作り、アイは表情を変えなかったもののそっと目を伏せる。
ゴブリンとは、個々の能力こそ大したことはないが、数に任せて他者を蹂躙し、その性質は残忍であり、慈悲など欠片も持ち合わせていない存在だ。
そんなゴブリンが村から攫って行った人達をどのように扱うのか。
考えたくはない話ではあったが、それでも反射的に考えてしまったリドルは自分がイメージしてしまった凄惨な光景に顔色を青ざめさせた。
「ご主人様?」
顔色の変化があまりにもはっきりと出てしまったせいか、アイが心配そうにリドルへ声をかける。
「御気分が優れないようでしたら、この場を落ち着かれるまで離れられてはいかがでしょうか?」
「それは悪くない提案だな」
リドルが想像しただけで気分が悪くなった代物を直視したにも関わらず、多少いやそうな顔をしただけで、顔色の方は全く変わっていないマインが頷く。
「後の確認は俺の方でやっておく。ゴブリン共の後始末も引き受けるが、どうだ?」
「それは駄目」
顔色は青いままに、それでもリドルはマインの提案を拒んだ。
「こう言うのは慣れないと。いつまでも対応できない」
「そうかもしれないが……」
「大丈夫。これも修行」
リドルの希望としては、騎士になりたいというものがある。
どこまで本気なのかはマインにも分からなかったが、本人がそれを理由にここは引けないと言うのであれば、それを止める権利は自分にはないだろうと考えた。
「無理はするなよ?」
「分かった。無理だと思ったら言う」
死体があったからと言って、それが村人のものだとは限らないのであれば調査はさらに進めなければならない。
それでも無理はするなよと気遣うマインに対してリドルは、大丈夫だから心配するなと視線や態度で訴えるのであった。
残り数話でストックが切れそう。
執筆速度を上げるために、ボクに光を。
というわけで。
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土日は一日一話更新でお許しください。




