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 リドルによるゴブリンの耳の回収作業はそこそこの時間を消費したものの、問題などは発生することなく終了する。

 ただでさえ嫌悪感を覚える姿をしているゴブリンであり、これに触れるだけでもかなりの抵抗があったのだが、それに加えて死体の状態が結構酷いものであるということがリドルの作業をかなり遅らせる原因になっていた。

 さらに触れるだけならばともかく、その死体の一部を切り取らなければならず、リドルはかなり腰を引かしながらもこれをどうにか実行。

 血だらけの耳を二匹分、入手することに成功したのである。


「生きてる状態ならばともかく、死んだ状態に刃を入れるのは魚や獣の肉を切るのとそう変わりないかと思うのですが」


 やっとの思いで手にいれた肉片二つを布で包んで、荷物の中へとしまい込むリドルにアイが不思議そうに言う。

 どこが同じものかと反論したかったリドルなのだが、精神的な疲れからかその気力が湧いては来ずに、せめてもの反抗としてぷるぷると首を振った。


「お疲れのようですね」


 声を出せない様子から、アイがそう推測すればマインがこれに頷いた。


「何事も初めてばかりのことだからな。仕方のないことだ」


「寝ているゴブリンも起きて来てしまうのではありませんか?」


 手間をかければかける程。

 時間を消費すればする程に、ゴブリン達が起き出してくる危険性は増える一方であるはずだった。


「気配は?」


「ありませんね。とても静かなものです」


 マインとアイのやり取りを聞くまでもなく、何か妙なことになっているのだろうなということはリドルも勘づいていた。

 そこそこに時間をかけ、そこそこに物音も立て、隠密行動とはかなりかけ離れたことをしているというのに、ゴブリン達が起き出してくる気配がまるでないのだ。

 とてもゴブリンの集落の中へ足を踏み込んで、見張りのゴブリンを始末している真っ最中であるとは思えない。


「マスター。何かされましたか?」


「さてな。どこぞのメイドが見張りをきれいに片付け過ぎたんじゃないか?」


「確かに掃除は得意とする所ではありますが」


 アイは釈然としない顔をしていたが、マインはそれに構わず疲れた顔をしているリドルを手招きする。


「どうしたのマイン?」


「手を出して」


 言われるがままに両手を差し出したリドルだったが、その手はゴブリンの耳を回収する作業によって血脂に汚れており、その惨状を改めて確認したリドルが顔をしかめる。


「こういう場合、水も時間も貴重だから我慢しろという話に普通はなるんだが。まぁ今回は初めてだからな」


 何か言い訳めいた独り言のようなものを呟いてから、マインはリドルの手を取る。


「<クリーン>」


 一言、マインが呟いただけでリドルの手を淡い光が覆い、光が消えると手を汚していた血脂がきれいさっぱりと消え失せていた。


「便利……」


「村のみんなには内緒でな。こんなことができることがバレると朝から晩まで便利に使われかねないしな」


 突然きれいになった両手をリドルは裏表と眺めて見たり、こすり合わせてみたりしたのだが、汚れは少しも残ってはおらず、爪の隙間までキレイになっており、肌のごわつきやべたつきは全くない。

 何かと汚れることの多い農作業に携わる者が多い農村では、確かに重宝されるであろう魔術ではあるが、重宝されすぎて休む暇すらなくなりそうだということは容易に想像することができた。


「臭いが別の奴を呼ぶこともあるからな。その処理と考えれば問題ない」


「アイさんも魔術で?」


 リドルとは比べ物にならないくらいの数のゴブリンを始末してきたはずのアイなのだが、その手や体には血の汚れが全く付着していない。

 いくらなんでも、全く汚れなかったとは考えにくく、アイも今しがたマインがやってみせたように、魔術で身を清めてから戻って来たのではないかと考えたリドルなのだが、アイはその問いかけには明確には答えず、ただにっこりと笑って見せた。


「マイン、やっぱり何か怖いよあれ」


「そう俺に言われてもな。あれだけの手練れがこっちを害そうとか考えているのなら、俺達じゃ抵抗を考えるだけ無駄なんじゃないか?」


 相手は音もなく、かなりの数のゴブリンをたった一人で始末してしまう程の腕の持ち主である。

 対するリドルとマインは、戦いの経験を今しがた積んだばかりの村娘と、一般的には接近戦においてはほとんど役に立たないと言われる魔術師だ。

 これでは戦いになるわけがない。

 せめて自分が盾となって、マインに魔術を使う時間を与えることができたのならば、逃げ出すくらいのことはできるかもしれないなと考えるリドルの前で、じっと静かにしていたアイが何かに堪えきれなくなったかのようにわずかに吹き出した。

 馬鹿にされたのかと思ったリドルは、マインとアイの間に立ちふさがりつつ、アイへ険しい視線を向けたのだが、アイは軽く握った左手で口元を隠しつつ、反対側の手をぱたぱたと振って見せる。


「警戒には及びませんご主人様。また大変に失礼を。この通りお詫び申し上げますので、どうかご容赦を」


 すぐに笑みを引っ込めて、折り目正しくアイは頭を下げる。

 その態度に警戒を解かないまま、リドルは問う。


「何を笑ったの?」


「警戒されたこと、でございます」


「警戒しても無駄だから?」


「ある意味では。私はまだこの世に未練を残しておりますので、みすみすあの世へ旅立つような真似は致しません」


 リドルはアイの答えを頭の中で転がしてみる。

 何度か転がして、その言葉の意味を考え、自分が早とちりや勘違い、誤解の類をしていないだろうと確認すると、訝し気に尋ねた。


「それってアイさんが私達に勝てない、ということ?」


「……左様でございますね」


「今の間は何?」


「何のことやら分かりかねます」


「答えを口にするまでちょっと間があったでしょ?」


「何のことやら分かりかねます」


「いや、でも……」


「分かりかねます」


 非の打ちどころのない完璧な笑顔。

 あまりに完璧すぎて何か作り物なのではないかと思ってしまうその笑顔から発せられる不可視の圧力に、リドルはそれ以上追求することを諦めた。


「マイン。メイドさんってみんなこうなの?」


「これは極めて稀な一部だ。だが必ず一定数こういう手合いが存在するらしいが、詳しくは知らん」


 自分に説明を求められても困ると言わんばかりのマインに、リドルは理解するという行為を断念したのであった。

残り数話でストックが切れそう。

執筆速度を上げるために、ボクに光を。


というわけで。

ブクマ、評価、感想などお待ちしております。


土日は一日一話更新でお許しください。

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