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「ところでマイン。連れ去られた村の人がこの巣にいるだろうという根拠は?」


「ゴブリンの集団は一定範囲内には一つしか生じないと言う研究結果がある。縄張りなんかを争ったり分け合ったりするより、一つにまとまって大きな集団となろうとする傾向がゴブリンにはあるんだ」


 三十匹前後で上位個体付きという集団はとてつもなく大きな集団だとは言えないが、小規模な集団とも言えない。

 他に似たような規模の集団があるとは思えず、マインは目の前のゴブリンの集団こそが村を襲った犯人であろうと考えた。


「まぁ潰してみれば分かるだろうさ」


 投げやり気味に物騒な台詞を吐いたマインに対し、リドルはすらりと腰の剣を抜き放つ。

 マインから支給されたそれが、どの程度切れるものなのやらと刃に視線を向けたリドルは、その刃の向こう側でアイがまるで虚空からそれを引っ張り出したかのように、どこからともなく二本のアイスピックを取り出して両手で構える姿に目を見張った。


「アイさんもやるの!?」


「アイとお呼びくださいご主人様。御心配には及びません。スニーキングとスタッブはメイドのたしなみでございます」


「冗談だよね?」


 誰にはばかることなく堂々と、隠密行動と暗殺とがたしなみだと言い切る存在がメイドであるとはリドルには全く思えなかった。

 しかし実際に、メイド服に身を包んだ見目麗しい女性が、自分が言ったことが嘘ではないということを証明するかのように、足音を全く立てないままに歩き、手の中で器用にアイスピックを回して見せる姿を目にすると、リドルの頭の中でメイドとはいったい何だったのだろうかという疑問が渦巻く。


「アイ。リドルで遊ぶのは止めろ」


 やや混乱しかかった思考のリドルの前で、片手ではなく両手で二本のアイスピックを回転させるだけでなく、お手玉の様に放り投げ始めることまでし始めたアイへ、それを咎めるような口調のマインが止めに入った。


「これは失礼致しました。あまりにも素直に驚いて頂けるもので、つい調子に乗ってしまいました」


 宙を舞っていた二本のアイスピックが急に消え去り、アイが謝罪の言葉を口にすると目を回しかけていたリドルが意識をはっきりさせようと何度か頭を振り出す。


「マスター。ご主人様が気を持ち直すまでに、少しばかり数を減らしてまいりましょうか?」


「それは……頼んでもいいか?」


「お任せを。それなりになんとなくいい感じになるくらいの数は残しておきますので、ご安心くださいませ」


 多少迷うような素振りを見せたマインだった、すぐに考え直してアイへ頼み込む。

 頼まれたアイはマインに対して微笑みを向けると、即座に身を翻して茂みの中を走り去っていった。

 その動作に、本来は聞こえて不思議ではないはずの足音や、服に枝や草が当たる音が全く聞こえないことに、リドルはメイド云々の前にアイは本当に人間なのだろうかと疑問に思ってしまう。


「惚けている暇はないぞ。全部アイにやってもらうというなら別だが」


 そっちの方が確実なようで、格段に楽っぽいようなんだがと言う雰囲気を漂わせるマインを、リドルは睨みつけた。


「それは駄目」


「まぁ格好はつかないわな」


「とりあえずあのメイドさんのことはいったん忘れることにする」


 手にした剣を握りなおし、身を屈めてそろそろと前進を始めたリドル。

 その後を追いながらマインはリドルと自分に<プロテクション>と<サイレンス>の魔術を行使した。

 前者の魔術は対象の体を守るための力場を付与する初歩の魔術であり、後者は対象の周囲に音を遮断する結界を張るためのものだ。

 これによりリドルは通常より強い防御力と足音などを全く生じさせることなく移動することができる隠密性を手に入れたことになるが、反面外からの音を聞くことがまったくできなくなってしまう。

 会話も成立しなくなるので、マインは軽くリドルの肩を叩き、リドルが自分の方を向くのを確認してから自分の唇の上に指でバツを描く。

 急に物音が聞こえなくなったことと、マインの仕草からリドルは魔術を使われたことを理解し、やや不満げな表情を見せる。

 おそらくは自分の力だけでゴブリンの初討伐を成し遂げたかったのだろうが、少人数でゴブリンの巣に襲撃を仕掛けている現状では、リドルの希望よりは確実性を取るべきだろうとマインは気付かないふりをした。

 それはリドルも理解できる話であったのか、すぐに不服そうな表情を引っ込めて真面目な顔になると両手で剣を握り、ちょうど目についた見張り役らしき二匹のゴブリンへ、その背後からするすると近寄っていく。

 ここでマインが心配していたことが一つだけあった。

 それはリドルが何らかのドジを踏んで集落中のゴブリンを叩き起こすような羽目になること、ではない。

 多分、大丈夫だろうなとは思いつつもマインはフォローが必要となった時のことを考えて、リドルの後をついて行く。

 魔術のおかげで物音が立つことは全くなく、気配も感じさせないリドルはやる気がまるでなさそうに見えるゴブリン達の背後まであっさりと到達。

 そこで素早く剣を振りかぶったリドルは、剣を振りかぶった姿勢でぴたりとその動きを止めた。

 これはもしかして、心配が現実のものになってしまったのかとマインがわずかに焦る。

 マインの心配とは、リドルがゴブリンに対して攻撃を仕掛けることができないのではないかというものであった。

 相手は生かしておいても害しかもたらさないような存在ではある。

 しかし、命を奪うと言った行為にはどうしても忌避感がつきまとうものだ。

 まして剣を振り下ろせば、刃が骨肉を絶つ感触が直接手に伝わってくるのだから、慣れない者がそれを躊躇うというのは仕方がない部分がある。

 これは手を貸す必要があるかもしれないと、マインがリドルに近寄ろうとした瞬間、狙いすましたリドルの一撃が最初の一振りでゴブリンの脳天を叩き割り、返す刃がもう一匹のゴブリンのこめかみの辺りに刃の幅の半分ほどを埋めて止まる。


「手がしびれた……」


 マインのかけた<サイレンス>の効果が切れたらしく、リドルの呟きが聞こえる。

 どうやら動きが一瞬止まったのは躊躇ったからではなく、どこへ打ち込むかの狙いを定めていたらしい。

 この分ならば引き続き剣を持たせておいても大丈夫そうだなと、マインは固い物を叩いたせいで手をしびれさせて涙目になっているリドルに苦笑して見せたのであった。

バズるにはどうしたらいいの?

それが分かれば苦労はしない。


というわけで。

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