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「あの?」


 自宅の本棚の処置に思いをはせていたマインは、遠慮がちにかけられた女性の声に我に返る。

 我に返ったところでめにしたのは、手を伸ばせば触れるくらいの距離まで接近してきていたメイドの姿だった。

 いつの間に近寄って来たのかという疑問と、そんな距離で声をかけられるまでその存在に気が付くことができなかったという驚きから、マインはリドルを自分の背に隠すようにしながら、メイドから二、三歩程の距離を取る。


「マイン、今の気が付いた?」


「声をかけられるまで、全く認識していなかった」


「そうだよね。なんなのこの人?」


 マインの腰のあたりに両手を添えて、マインの背後からおそるおそると言った感じでリドルが顔を覗かせる。

 そこでリドルはふと気が付いた。

 近くまで寄ってきていたメイドは、愛想のいい笑顔を向けて来てはいたものの、その目が自分には全く向けられていないということ。

 ならばこのメイド、一体何を見ているのかと視線を追えば、どうも自分が隠れ蓑にしているマインの顔だけを真っすぐに見ているらしい。

 リドルはマインの背中に隠れたまま、マインの服をつまんで軽く引っ張る。


「どうした?」


「マイン、このメイドさん、知り合いか何か?」


「何故そう思った?」


「このメイドさん、最初からマインしか見てない」


「ふむ」


 何か用かとばかりにマインが目を細めると、メイドは慌てた様子もなく答えた。


「保護者の方かと思いまして」


 言われたリドルは思わず自分の体を見下ろしてしまう。

 背丈は比べるまでもなくマインの方がリドルよりも高い。

 さらにリドルはどちらかと言えば体系的に、やせ型の分類されるような体つきであった。

 これはマイン達の村がそれほど裕福ではなく、リドルも食糧事情的にあまり恵まれていない生活を送って来たせいなのだが、そのせいなのかメイドの目にはリドルが実年齢よりも幼く見えているらしい。

 実際のところは成人目前であるリドルは、子供扱いされたことに腹を立てる。

 抗議するためにメイドへと詰め寄ろうとマインの背中から出ていこうとしたリドルだったのだが、その行動はマインによって阻止された。


「メイドの割に礼儀がなっていないな」


「直近のご主人様が今一つな方でしたので、そのせいでしょうか」


 言葉に皮肉っぽさを混ぜて放ったマインに対し、全く悪びれた様子もなく応じたメイドの言葉に、どう返していいものか分からなかったのかマインが黙る。

 黙ってしまったマインに対し、さすがに今のやりとりは拙かったとでも思ったのか、やや慌ててメイドが頭を下げた。


「失言でした。失礼致しました」


「別に構わないが。あんた一体何なんだ?」


 リドルもそこが一番知りたい情報であった。

 ただでさえ辺境にある村の、さらに人里離れた場所にある森のほとりにたたずませておくには、メイド服姿の女性という存在はあまりにも異質過ぎる。


「これは申し遅れました。私、こういう者でして」


 メイドが両手で差し出してきたのは小さな厚手の紙であった。

 表面には何か文字が書き込まれており、マインとリドルは揃ってその文字を読み上げる。


「全大陸……メイド派遣協会?」


「協会所属の営業メイド。アイ・アインスと申します」


 何やら怪しげな物を見る目を向けてくるマインとリドルに対し、アイは非の打ちどころのないくらいに完璧な作法でお辞儀をする。


「変な名前」


 思わず正直すぎる感想をもらしたリドルは次の瞬間、マインに少々強めに頭を叩かれて首を竦めつつ、叩かれた場所を手で押さえた。


「他人様の名前にケチをつけるんじゃない。それに……名字持ちだぞ」


「あ……」


 しまったと思ってアイへ目をやったリドルだったのだが、アイは機嫌を損ねたのかふいと視線をそらしていた。

 一般的に平民は名字を持たず、名前だけを名乗るのが普通で、名字を名乗るのは余程由緒ある家柄。

 たとえば長く続いている商家や貴族、王族といった一部の者に限られている。

 ただ、メイドという職業上、何故名字持ちがそんな仕事をしているのかという疑問が生じはするのだが、はっきりと名乗った以上はウソや騙りといった線は薄いだろうとリドルは考えた。


「ごめ……んん。申し訳ありません」


 相手のことを怪しげな不審者から正体不明ながら目上の人物へと認識を改めて、謝罪の言葉を口にしたリドルにアイは小さく咳払いしてから、やや頬の辺りを引きつらせながら笑顔を見せた。


「こちらの不躾に声をかけてしまったという非がございます。それと相殺ということでここは治めていただけませんか?」


 それでいいのかなとちらと考えたリドルだったが、相手がそうしようと言ってきているのだから、それを受諾しても問題ないだろうと判断。

 異議はないということを示すようにリドルは無言でぺこりと頭を下げた。

 無言のリドルの代わりに、というわけでもないのだろうがマインが口を開く。


「それでその……メイド派遣協会? その協会がこんなとこで何をしている?」


「営業活動でございます」


 にこやかな顔で迷うことなく即答したアイだったのだが、それを聞いたマインとリドルは二人揃って何か理解しがたい話を聞いたかのように怪訝な顔になる。


「私共はまだ見ぬご主人様と出会うため、大陸全土を営業して回っているのです」


 堂々と胸を張り、そう言い放ったアイに対してリドルが表情を変えぬままにいう。


「自分で言うのもなんだけど、こんな辺境に?」


「辺境にご主人様がいないとは言い切れませんので」


「この付近ってうちの村くらいしか人里がないはずなんだけど」


「その村にご主人様がいらっしゃるかもしれません。暇を持て余して奇特な趣味に走ったりされる魔術師様などが隠遁されていたりしませんでしょうか?」


 そんなものはいないと即答しかけたリドルだったのだが、メイドの言う条件に妙にマッチする人物がすぐ近くにいることを思い出す。


「マイン、メイドさんの需要は?」


「そこで俺に振るの、止めてくれるか?」


 自覚はあるのか、リドルが話を振ってきたことに一定の理解は示しつつも本当に迷惑そうな顔をして、マインはそう答えたのであった。

書き手はみんな思うのでしょうが。

なろうで一発バズりたい。

そう思いつつ今日も更新するのです。


というわけで。

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