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 マインが村の周辺の地形を調査していたことには、特に深い意味はない。

 単に自分がどのような場所に住んでいるのかということを前もってきちんと知っておこうと思っただけのことで、それ以上でも以下でもなかった。

 そんなマインがゴブリン達がすみ着いたのではないかと当たりをつけたのは、村のすぐ近くにある森の中の多少拓けた平地と、そこより少し離れた小さな山にある洞くつ。

 そしてちょっと足を延ばすくらいの感覚で離れている岩山中腹にあるやや大きめの洞くつの三ヶ所だ。

 この三ヶ所のいずれかに、今回村を襲ったゴブリンが発見できなかった場合は、村の周辺を洗い直しということになる。


「どこから調べるの?」


 そう尋ねるリドルの手には、マインが自分で行った調査結果から書き起こした村の周辺地図がある。

 口で色々と説明してみたところで、ぴんと来ることはないだろうとマインが用意し、ゴブリンが集まっていそうな場所を指で指し示してやったのだが、こっちの方が分かり易いだろうと考えたマインの目論見はきれいさっぱりと外れてしまっていた。


「地図が読めないとはなぁ……」


「仕方ないじゃない? 初めて見たんだもの」


 普通、農村部の村人などは自分が生まれた村から外へと出ることがほとんどなく、あったとしてもせいぜいが隣村や近くの街、遠くてもその地方を治めている領主がいる領都まで移動するくらいのことしかない。

 その移動方法も、この街道を真っすぐに道なりに進むといった程度のもので、地図など見たことのない者がほとんどである。

 これが町に住む者や商人ともなれば違ってくるのだが、彼らの持っている地図というのはかなりあちこちが省略されている大雑把なものでしかない。

 地図というものは軍略物資であり、詳細な物はそれこそ領主や軍の関係者といったごく一部の人間しか目にすることがない代物なのだ。

 マインも必要ないだろうと言うか、下手に地図を読める知識を与えてしまうと色々とうるさいことになりそうであるし、そうそう使う知識でもないだろうと考えて子供らに教えてこなかったのである。

 リドルが地図を読めないのも当然であった。

 仕方なくマインが村にある建物や井戸、広場や集会場といった設備の位置や方向と一緒に説明をしてやると、やや時間をかけた上で、リドルはどうにか地図の読み方というものを習得することができたらしい。

 リドルの顔に理解の色が浮かんだのを確認してから、マインは村周辺の地図の一点を指さす。


「まずはこの森の中の場所から調査だな」


「そこを最初にする理由は?」


「まず村から一番近い候補地であるということだな。それと調査の難易度が低い」


 ゴブリン達が住みつく確率だけを考えるのであれば、平地よりは森の中であるのだが、森の中よりは洞くつの方がずっと可能性が高かった。

 ゴブリンは暗い所を好む習性がある上に、生産的な活動というものをほとんどしない。

 つまり自分達の住処を自分達で建てるようなことをしないので、元々そこにあった建物を勝手に占拠するか、そうでなければ手間なく住みつける洞くつを好むのだ。

 マインが事前に調査しておいた森の中の平地には建物は建っておらず、ゴブリン達がそこに住みつく確率は低い、と考えていた。

 では何故、可能性の低いそこを最初に調べるのかと言えば、まず村から一番近い場所であるということ。

 さらに同行するリドルは完全に素人であり、何の心得もない少女をいきなり洞くつの探索に連れて行く度胸というものを、マインは持ち合わせていなかった。

 ついでに自分達がまるで的外れな場所を調べている間に、村長が何かしらの手を打って問題を解決していてくれないものだろうかと言う淡い期待もあったりするのだが、そちらは望み薄だろうなとマインは考えている。


「近場から一つずつ、可能性のありそうな場所を潰していくと言うのは調査の基本だぞ」


 何の根拠もない言葉を、さももっともらしい意見であるかのようにマインが言うと、そういうものなのかもしれないとリドルが思案する顔になる。

 考えるということは、マインの言う提案を信じかけているということだろうとマインはもう一押し畳みかけた。


「それにまず、リドルがどの程度やれるのかという所を見せてもらわなくてはならないだろ? それならばやはりいきなり暗い洞くつよりは外だ」


 洞窟の中でも十分な光量を用意すれば外と同じように物を見ることはできるのだろうが、そんな派手なことをすれば中にいるかもしれないゴブリン等にこちらの存在を教えることになってしまう。

 そんなことをしてしまえば、ゴブリン達には逃げられてしまうか、十分な迎撃準備をする余裕を与えてしまうことになり、非常に拙い。


「そもそもリドルはそういう探索や調査って奴をこれまでにしたことがあったりするのか?」


「全然ないけど?」


 さらっと簡単に、なんでもないことをのように言うリドルにマインはほとんど表情を変えることなくわずかに目だけを細めた。

 その反応に何やら不穏なものを感じたリドルへ、マインは別の質問をぶつける。


「剣の扱い方は知っているか? 鎧を着た状態での移動や作業の経験は?」


「ないけど?」


 それがどうしたのかと問いたげな顔で言われて、マインは軽い頭痛を覚えて自分の眉間を指でつまむ。

 全くなんの経験も技術もないというのに、ただ娯楽小説に感化されたという理由だけで、ただの村娘がゴブリン退治を実行しようと言うのである。

 それはあまりにも無謀な話で、マインが頭痛を覚えたとしても無理のないことであった。

 ただ、とマインは眉間をもみほぐしながら不思議そうにこちらを見ているリドルの顔へとちらと視線を走らせる。

 何も知らないということはつまり、妙なクセみたいなものを持っていないということだ。

 色々なことに目を瞑り、一から教え込むことを考えれば教え甲斐はありそうな相手だと考えることができるだろう。

 暇潰しに付き合う相手として考えれば、それほど悪い相手でもないかと考え直せば、マインは不思議と頭痛が治まっていくのを感じるのであった。

三連休は一日一回更新。

あまり筆の速い方ではないのでご勘弁ください。


というわけで。

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