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こうして、多少の時間を費やしはしたものの、リドルの装備一式はマインの研究室にある在庫で揃えることができた。
見た目は羽根飾りのついた革の兜に飾り気のない革の胴鎧。
革の手甲にロングスカートを身に着け、その下に革のブーツを履く。
そして腰には長剣を一振り帯びるといった格好だ。
見た目からだけだと、女性版の軽装戦士といったいでたちであるのだが、実際の中身はまるで違う。
「兜には気配探知と暗視。胴鎧と手甲は防御力上昇と矢避け。ブーツには移動力上昇と疲労軽減の効果がついているので、そのつもりで扱うように」
「買ったらいくらするんだろうこのセット」
「防具一式で……金貨三千枚くらいか?」
さらりと金額を口にしたマインなのだが、その金額は都市部で平均的な四人構成の家族が、数年は楽に暮らしていけるだけの金額であり、そんな金額がつく品物を身に着けているのだということを知ったリドルが顔を引きつらせる。
「もっといい魔術付与品なら桁が一つか二つ増えるからな。さすがにそこまで行くとおいそれとは手が届かない」
「な、なるほど? ちなみに剣の方はどんな効果がついてるの?」
「そっちも大した品物じゃない。腕力強化がついているだけだ」
マインは最初、重量軽減の効果がついている剣をリドルに使わせるつもりだった。
農作業等で、多少は鍛えられているリドルではあるのだが、本職の戦士と比較すれば比べ物にならない程度でしかないし、リドルには圧倒的に剣を扱う技量と言うものが備わっていない。
そのため、軽い剣では単純に軽くて威力のない攻撃しか繰り出すことができず、重量軽減の効果を十全に生かすことができなかったのだ。
ただだからといって今度は重い剣を持たせようとすれば、リドルの腕力ではそれをまともに振り回すことができず、結果として魔術で腕力を強化し、普通の戦士並みになった腕の力と剣の重さとでそれなりの威力を持たせようという方向になったのである。
「値段……」
「金貨五百枚くらいだな。普通の長剣だと……十本分くらいの値段かね」
今度の金額も軽く言われて、積みあがる金貨の枚数に戸惑うリドルなのだが、お構いなしといった感じでマインは続ける。
「それに荷物を入れる拡張空間の効果と重量軽減のついたバックパックとウェストポーチがこれ。体温維持の効果があるマントがこっち。治癒と解毒のポーションがそれぞれ十本ずつ。保存食を三食分と水筒三つ」
「ねぇ。いったい何日分の行程を予想してるのこれ?」
「念のためだ。なければ困るがあって困ることはない」
「マイン、実は過保護で心配性?」
「慎重だと言ってくれ」
むっとした顔で応じるマインも、いつもの平服を止めて、魔術師っぽく見えるややゆったりとした黒の上下を身に着けていた。
服のあちこちには銀のアクセサリーがいくつかつけられており、その傍らには装飾のない真っすぐな、マインの背丈と同じくらいの長さの金属の棒が立てかけられている。
「これで私の装備って、いくら位になるわけ?」
「ざっくり見積もって金貨五千枚ってとこか。売るとなるとまぁ半値ってとこだな」
特に決まりごとがあるわけではないのだが、一般的に中古品や遺跡からの発掘物の買い取りは売値の半額とされている。
それでも相当な金額であり、思わずこのままどこかの店に買い取ってもらおうか等と考えてしまったリドルに、そんな考えを読んだかのようにマインが言う。
「売り払っても構わないが、その場合はゴブリン退治を諦めてくれよ? 諦める報酬としてならそれ一式、全部やってもいい」
非常に魅力的な提案であり、リドルもほんの少しの間だけ迷った。
しかし、すぐに首を横に振る。
「この程度のはした金で、私が止められると思わないでよね」
「俺の着ているこれ。魔術師用の装備で上下とアクセサリーで金貨一万枚はくだらない代物なんだが、なんならこれもつけるぞ?」
「あーあー! きーこーえーなーいっ!」
両手で耳を塞ぎ、明後日の方向を向いて喚きだすリドルに、どうやら金で釣るのは無理そうだなとマインが溜息を吐く。
「金で誘惑するのはやめるから静かにしてくれ。地下だから音が響く」
「うん、分かった」
「それで、ゴブリンのいる場所については何か情報は得ているのか?」
「なんにも」
平然と言うリドルにそうだろうなと特に驚くこともなくマインは思う。
何せマインとて、村人が襲われてその妻子が連れ去られた場所しか知らないのだ。
これでリドルがゴブリンの巣の位置についての何らかの情報を握っていたとすれば、その情報収集能力はどこから来たのかと頭を悩ますところである。
「それならどうやってゴブリン退治をするつもりだったんだ?」
一度襲撃が上手くいったことで、ゴブリン達は気をよくしているはずであり、今回の成果を使い果たしたらすぐにまた襲ってくるだろうということは予想がつく。
しかしそれがいつになるのかと問われれば、そのうちいずれといったあやふやな答えしか出せない。
そんな適当な情報では、まともな迎撃計画を立てることなど無理だとしか思えず、どうするつもりだったのかと聞かれたリドルは胸を張って堂々と答えた。
「もちろん、人海戦術」
「やめなさい」
確かに人手を多く出し、周辺のゴブリン達がいそうな場所を虱潰しに探してやれば、いずれは巣を見つけることはできるだろう。
しかし、リドルが動員するであろう人手というのはおそらく村の子供達であり、探索の途中でどれだけの被害が出るか分からないとなれば、マインとしては事前にリドルを止めざるを得ない。
「巣の探索は俺の方でなんとかするから。間違っても村の子供達を駆り出したり、焚きつけたりするんじゃないぞ」
「マインがやってくれるなら無理に私がやる気もないけれど、大丈夫なの?」
絶対にやるなよと釘を刺してくるマインに、そこまで信用がないのだろうかと不満に思いつつ、尋ね返してきたリドルへマインは自信ありげに頷いた。
「この辺りの地形は事前に調査済みだ。奴らが巣を作りそうな場所はその中にいくつもあるわけじゃない」
「それくらいなら大丈夫そうだね」
「簡単そうだからといってやるんじゃないぞ?」
執拗に念押ししてくるマインに、さすがに少々気を悪くしたリドルは心配そうな表情を崩そうとしないマインに対し、頬を膨らませて強く不満の意思を表明するのであった。
三連休は一日一回更新。
ストックが無尽蔵にあるならいくらでも更新するのですが。
というわけで。
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