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 マインが協力するという答えを出したので、リドルが勝手に動き回るといった事態は回避される。

 リドルとしてはマインが協力してくれるというのに勝手に動き回っては、大したメリットもないばかりかせっかく取り付けたマインからの協力を失いかねず、いいことが何もないからだ。

 マインからしてみても、メリットが何もないわけではない。

 最大のメリットはリドルの行動をある程度把握し、これを制御できる機会というものを得たことである。

 リドルがこの件に関して、どの程度の無理や無茶をするのかは、現時点においては予測するのも難しい事柄ではあるが、自分が介入すればそれ程酷いことにはならないだろうとマインは思う。

 それはさておき、とマインはリドルに椅子に座ったままでいるように指示をすると、自分達の前にあったテーブルを少しずらす。

 協力すると言った以上は具体的なものを見せてやらないと、本当に協力する気があるのかという疑いを持たれかねない。

 そうなる前に見せられるものは見せてやる必要があるだろうと、マインはテーブルをずらすことによって露になった床の上にしゃがみこむと、床板のあちこちを強弱をつけて拳で叩く。

 何を見せてくれるのかと、興味津々で見守るリドルの前で、マインが一定の強弱で床板を叩き終えると突然、床板の一部が跳ね上がった。

 一瞬驚いて身を引きかけたリドルは、床に人一人がやっと通れそうな穴と、下へと通じている階段が姿を現したのを見て目を輝かせる。


「マインは地下の方なんだ」


「ん?」


「前に教えてくれたでしょ? 魔術師は空か地下に進むって」


 リドルにそう言われてマインは思い出す。

 いつ教えたのかは定かではなかったが、魔術師というものについて教える場合に付随してくる知識の一つだ。

 魔術師は何故か、塔のようなものを建てて上へ進むか、地下室を掘って下へと進むかのいずれかの方向に進むことが多い。

 別段、うしろ暗いことをしているわけではなくとも、普通の建物で普通に暮らすということをしない傾向にあるのだ。

 何故なのかは魔術師であるマイン自身にもきちんとした説明ができない。

 塔の上、或いは地下深くでなければできない作業や研究がないわけではないのだが、それを抜きにしても強力な魔術師であればあるほど、塔や地下室を作りたがる。


「別に地下が好きなわけじゃない」


 当たり前だが地下へと続く階段は真っ暗であり、マインは右の人差し指を立てると小声で呟く。


「灯れ、ささやかなる明かり。<ライト>」


 それは呪文であった。

 その効果は即座に現れ、立てたマインの指先に白い光が生じる。

 地下の空間は換気があまりできない。

 地上とは違い、窓を開ければ簡単に換気できるというわけではないからだ。

 そんな場所で獣脂を燃やすような灯りを使用すれば、あっという間に空気は汚れて生き物が生きてはいけない空間になる。

 実のところ、マインとしては塔のように上へ向かう建物の方がよかったのだが、小さな村の中に塔など建ててしまっては、異常に目立つ上に村人達からどう思われるか分かったものではなく、仕方なく目立つことのない地下に施設を作ったという経緯があった。

 塔ならば日中は灯りなど必要ないし、必要になっても安価で済んだのになと思いながらマインはリドルを手招きする。

 呼ばれたリドルが小走りに近寄ってくるのを確認してから、マインはゆっくりと階段を降り始めた。

 ゆっくりと階段を降りること事態には特に意味はない。

 ただ急いで降りれば下手をすると階段を踏み外して転げ落ちかねず、それを心配してゆっくりしっかりと足下を踏みしめているせいだ。


「こんな階段、作ってたんだね」


「他の奴らに言うんじゃないぞ」


「それはいいけど。なんだか……階段の出来がおかしくない?」


 おそらくは悪気など一切ない、とても正直な感想だったのだろうが、それを聞いたマインは口をへの字に曲げて沈黙する。

 言うまでもなくマインの自宅の地下にそんな階段があることを知る村人はいない。

 知る者がいないということは、地下の施設はマインが一人で作り上げたものだということだ。

 当然、そこへと至る階段もまたマインが自分で作った代物である。

 マイン自身がつるはしやシャベルをもって作ったわけではないのだが、出来が悪いと言われてしまえばそれはそれで気にしてしまう評価であり、しかもそれは相手が素直に感じた感想だと言うのだから余計にダメージが大きい。

 自分は魔術師であって土木工事の専門家ではないのだからと言い訳めいた考えで自分を慰めているマインに、何かしら触れてはいけない所に触れてしまったらしいことを気配で察したリドルが話題を変えに走った。


「そ、それにしても結構深く降りるんだね」


 階段はいくつかの踊り場を挟んでさらに下へと伸びている。

 下手に転げ落ちたらどの位まで転がっていくのだろうと、マインの背後から恐々と言った感じで覗き込むリドル。


「浅いと色々と問題がな」


 換気や行き来のことを考えると、本当はできるだけ浅い位置に施設を作りたいところではあった。

 それが許されなかったのは、あまり浅いと内部で作業をした場合に音が外へと漏れ出したり、村人が何かの拍子に地面を掘った時に掘り当てられかねないといった問題がある。

 面倒ではあるのだが、村に公言せず、秘密のうちに施設を作るからにはそう言った手間も必要経費の一部だろうと諦めて、マインはかなり余分な手間をかけつつ地下深くに施設を作ったのだった。


「加えて、行き来が不便ということは俺以外の誰かがそこに行くのも大変だってことだからな。盗難されにくくなる」


「ふーん。そんなすごい物が保管されてるの? その倉庫っぽい所」


 マインはリドルに武装を提供するようなことを言っていた。

 ならばこれから行くのであろう行き先は、武器庫とか倉庫の類だろうと考えていたリドルに、マインは振り返ることなくこう答えた。


「これから行くのは研究室で、倉庫じゃないぞ?」


「研究室?」


 武器や防具と魔術師の研究室との関連が分からず、首を傾げたリドルに対してマインは行けば分かるとばかりについてくるよう促すのであった。

豚はおだてると木に登るそうです。

どうかおだててください(切実)


というわけで。

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