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「リドル、一応確認するんだが。何も見なかったということにする気はあるか?」
その望みは薄いだろうなとは思いながらもマインはリドルに確認を取る。
一旦首を突っ込んでしまえば、中途半端なところで抜けられたのでは周囲の迷惑にしかならない。
暇潰しにはなるのかもしれないが、マインとしては周囲に迷惑をかけるようなことになるくらいならば、暇に耐えてでもここはじっとしておいて欲しいところであった。
マインはリドルも暇を持て余していると思っている。
暇だからこそ突拍子もないことを言い出したり、あちこちに首を突っ込んだりしたがるのだろう。
それはマイン自身の経験則でもある。
忙しければ余計なことなど考えている余裕などない。
暇だからこそロクでもないことを考えてしまうのだ。
そう考えての確認の言葉に、リドルは何故だか少しばかり見当が外れたような表情で頭をぽりぽりとかく。
その仕草が気になって、改めて問い直そうとしたマインより早く、リドルが逆にマインへと問い返してきた。
「マイン、乗り気じゃない?」
「俺か?」
何故ここで自分の水を向けられるのかは分からなかったが、聞かれたのであればこれに答えを返さなければならないだろうと考えるマインに、リドルは頭を掻く動作を止めてから告げる。
「マイン、暇そうだったから。少しでも面白そうなことがあるなら巻き込んで上げた方がいいのかなって思ったんだけど」
暇そうと言われて反射的に苦笑を返そうとしたマインだったのだが、その動きが止まる。
言われてみるまでもなく、確かにそうなのだ。
魔術師マインは本気でとても暇だったからこそ、孤児として村で育ち、学院などという場所に通い、村で子供らに勉強を教えたりしている。
しかし、そのことを誰かに話すようなことはしていない。
それは当然のことだ。
言えば普通は何を世迷言を抜かしているのかと呆れられるか、或いは頭が少しばかりおかしくなってしまったのかと心配されてしまうかのいずれかだろう。
それはマインにとっては好ましくない。
あくまでも魔術師マインとはその辺にいる誰も気にしないような平凡で、お人好しの変わり者でなければならないのだ。
ならばこの場で、暇だろうと指摘を受けた魔術師が取る行動として正しいものは何か。
「まぁ確かに。暇と言われればそれを否定する要素はないが、だからといってそれは危険な行為を無駄に容認するための要素じゃない」
魔術師が無償で村の子供らに勉強を教えることなど、余程暇でなければ思いつきもしないだろうことではあるものの、いくら暇だからと言ってもそれは無制限に何もかもを容認するというわけではない。
そういう意味も米て、さも気乗りしないような素振りでマインが言うと、リドルはさして残念がる様子も見せずに肩を竦めた。
「そう、それじゃ仕方ないね」
粘りもせず、食い下がりもしない。
一見、マインの協力を得られなかったことで諦めたようにも見えるが、マインはなんとなく確信めいた感じでリドルは単独でもゴブリン退治に赴くつもりなのだろうなと考えていた。
「何故だ?」
わざとぼかした形でマインは聞く。
リドルもマインも孤児であり、それを育ててくれたこの村には恩がある。
しかしそれは、命をかけ金に乗せる程のものではない。
少なくともマインはそう考えていた。
リドルが単独でゴブリン退治に赴いた場合、十中八、九でリドルは失敗する。
死ぬか、或いはゴブリンの玩具にされるかは時の運だが、首尾よくゴブリンを倒して村に戻って来るという目だけはないだろうというのがマインの見立てであった。
死ぬか、死ぬより酷いことになるかの違いはあるものの、リドルの生涯がそこで終わることだけは間違いない。
マインから見たリドルは馬鹿でも阿呆でもなく、ゴブリン退治を強行した場合の末路については正しく予想できるものだと思っていた。
だと言うのに、リドルからゴブリン退治に行くのと止めようとする気配がまるで感じられないのだ。
まさか自分の値踏みが間違っていて、リドルには正しい見立てをするだけの能力がなく、楽観的に考えてなんとかなるとでも思っているのだろうかと考えてみたマインなのだが、どうもそのような感じとも受け取れない。
その辺りをまるっと含めて、何故かと問うてみたマインなのだが、その問いに対するリドルの答えは疑問を解消するどころかさらにマインを混乱させた。
「なんとなく? やらないといけないような気がするんだよね」
「なんとなく?」
「そう。なんとなく。ここでこれをやっとかないと後でかなり後悔するんじゃないかなって言うくらいのなんとなくかな」
あっけらかんとした感じで答えを返してよこしたリドルに、マインは眉根を寄せる。
確かに問いに対する答えは返ってはきたものの、内容に関しては納得するのが非常に難しい代物だった。
しかしその納得しがたい理由でもって、リドルは単独でもゴブリンを退治しに出かけてしまいそうなのだ。
「ごめんねマイン。変な話持ち込んじゃって。忘れてくれていいから」
マインの協力を取り付けられそうにない。
そう判断したのかリドルは愛想笑いなどしつつ、席を立とうとする。
判断する時間がとても短いということを自覚しつつ、マインは自分に問う。
それはリドルをこのまま一人で行かせるのか、それともリドルに協力するのかだ。
行かせないという選択肢はリドルの話を聞いた時点で、マインの中からは消え去っていた。
なんとなくそんな気がするという話になんらかの理屈をつけて、それを止めさせることなどできるわけがない。
止めさせることができない以上は尊重されるのは本人の意思で、あとはそれに付き合うのか付き合わないのかの選択しか残らないのだ。
「まぁ待てリドル」
決断は意外とあっさりできた。
相手は一時期とは言え、同じ屋根の下で育ったこともある少女なのだ。
見捨てるというのはなんとなく、気持ちがよくない。
「鍋蓋とすりこ木じゃ格好がつかないだろう。協力するから俺に無断で勝手に動くんじゃない。いいな?」
リドルが自力で調達できそうな武装など、その位なものだろうと思いつつマインが言うと、全くの図星であったのかリドルの顔が面白いくらいに赤くなるのであった。
豚はおだてると木に登るそうです。
どうかおだててください(切実)
というわけで。
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