03-28
「せーのっ!」
リドルが呆れようが、アイが激しく否定しようが、マインのやることに変わりがあるわけではない。
一般的な魔術師がそれを見れば、驚きのあまり顎を地面まで落としてしまいそうなくらいの魔力を右腕に込めて、上位悪魔が身にまとう防御用の結界の上から力任せに叩きつける。
叩きつけられた魔力による負荷に耐え切れなかった結界がまとめて砕け散り、それらが修復されるより先にマインが放った前蹴りが、上位悪魔の下腹部を打つ。
上位悪魔のものと思しき悲鳴が上がるが、見た限りでは上位悪魔の顔に口らしき器官は見て取れず、一体どこから声を出しているのだろうなと思いつつ、再び右腕を一閃。
三度めともなれば悪魔の方もただ打たれるに任せておくわけがなく、両腕を交差させてこれを防御。
魔力を込めた実体同士であるならば、一方的に打ち負けることもない、と考えたらしいのだが、結果は両腕を使った防御が右腕一本の攻撃に打ち負けて、悪魔の両腕は打たれたところから妙な角度に折れ曲がってしまう。
「一方的過ぎない?」
悪魔といえども腕を折られれば痛いらしく、悲鳴を上げて膝をついたところに容赦なくマインが前蹴りを見舞う。
「それ程でもない」
「謙遜してる?」
「難しい言葉を知ってるな。へりくだっているわけじゃないんだが、余裕というわけでも実はない」
前蹴りを食らってよろめいた悪魔の足元から激しい炎が噴き上がる。
人ならば即座に絶命していたであろう攻撃を受けても、悪魔は少しばかり焦げ臭いにおいと、体のあちこちから白い煙を上げながらも大して痛手を受けたと言う様子もなく、マイン目掛けてかぎ爪を繰り出す。
折られた腕で悪魔が攻撃をしてきた事にリドルは驚かされたのだが、マインがその腕に拳を突き入れたことで、悪魔の片腕が断ち切られたのを見て目を丸くする。
悪魔は断たれた腕を慌てて引っ込め、切断面から噴き出した血が断たれた腕の形に固まると即座に腕を修復。
一方のマインは断たれて地面へと落ちた悪魔の腕を拾い上げると、何やら嬉しそうににんまりと笑った。
「マイン、どうするのそれ?」
「もちろん、有難くもらっておく」
とてもいい物が手に入ったと、ほくほく顔のマインなのだが、かぎ爪のついた人の腕にしか見えないものを嬉しそうに持っている光景は、リドルからしてみると少しばかり猟奇的だ。
「何に使うのそれ?」
「使い道は色々とある」
マインは手にしていた悪魔の腕を、離れた所で見守っているアイへ放り投げる。
それを受け取ったアイは特に嫌そうな顔をすることmのあく、大きさ的に絶対に入るはずのないエプロンドレスのポケットへと、するりと腕をしまいこんでしまう。
「何で入るのあれ?」
「メイドのポケットだからな」
全く答えになっていない言葉を返して、マインは身を翻す。
その体を捕えることができなかった悪魔のかぎ爪が空を切り、お返しとばかりに放たれたマインの回し蹴りが悪魔の側頭部にきれいに決まる。
これが人を相手にしていたのならば、一撃で意識を刈り取って決着がついたであろう程の一撃を受けても、悪魔はまるで怯んだ様子もなく両腕を大振りしてマインの体を打とうとし、マインは大きく飛び下がることでこれを回避した。
「マインって体術もやるんだね」
動きにくそうなローブを着ていると言うのに、リドルの目から見てマインの動きは悪魔のそれを上回っているように見えた。
とてもではないが、肉弾戦を苦手とする者が多い魔術の動きとは思えない。
「暇にかまけてそれなりに訓練したからなぁ」
前に出てこようとした悪魔の膝へ前蹴りを入れ、前進を止めると同時に前へ踏み込んだマインは苦し紛れに振り回された腕をかいくぐって肉迫し、悪魔のみぞおち辺りに掌を押し当てる。
「<マナ・ブリット>」
近距離で行使された魔術は魔術師であるならば誰でも使えると言われる第一位階の魔術で、ただ魔力を弾と固めて撃ち出すだけのもの。
簡単な防御の魔術で無効化されるそれもマインが腕で結界を破壊しつつ、さらにマインの持つ魔力で使用されると威力が全く違うものになる。
マインの掌から放たれた魔力の弾は悪魔の体を衝撃で吹き飛ばすようなことはしなかった。
代わりにその胸部に、人の頭が入りそうな程の大穴を開け、悪魔はその場にゆっくりと膝をつく。
そしてマインは血の滴る悪魔の胸の穴へと手を突っ込み、中から何かをぶちぶちと音を立てながら引きちぎった。
「マイン、何それ?」
「悪魔の心臓」
答えたマインの右手には、びくりびくりと脈打つ肉塊が握られていた。
その肉塊から垂れさがる管のようなものからは赤黒い血が噴き出しており、間近でそれを見ることになったリドルは口の端を引きつらせる。
「どうするのそれ? 食べるの?」
リドルが育った村では家畜の類も育てられていたが、これらを屠って食肉とする場合、それらの内臓はとても貴重な物として扱われていた。
採れる量が少なく、悪くなって腐るのが早く、部位によってはとても美味だったからなのだが、どの家畜の内臓も心臓と肝臓の人気が特に高かったとリドルは記憶している。
「食べるのはお勧めしないな。まず人型だし、悪魔の血は基本的に毒だし」
「マインの手、血塗れなんだけど?」
「色々と処理はしている。それはともかく、悪魔の心臓にはもっといい使い道がある」
先程の腕同様にマインは手の中のそれをアイへ投げて渡そうとしたのだが、これにはさすがのアイも難色を示した。
血だらけの肉塊を受け取りたくないというアイの気持ちはマインにも理解でき、仕方なくマインはそれを自分の<インベントリ>へ収納しておく。
「心臓を抜かれたら悪魔だって……」
「リドル、悪魔っていうのはこの程度じゃ死なない」
心臓を抜かれた悪魔がゆっくりと立ち上がろうとし始める。
その悪魔から少し間合いを取って、マインは信じられないといった顔をしているリドルへ言う。
「悪魔にいい所があるとすれば一つ。それはこいつが力尽きるまで、こいつ由来の素材が採り放題なんだ」
誰が聞いてもドン引きしそうな台詞を、マインはどう見ても邪悪であるとしか言えない笑顔と共に清々しく言い放ったのだった。
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