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「とりあえず、人の家で何をしている?」
考えをまとめる時間が欲しいなと思いながらも、話の主導権を持って行かれてしまうとロクなことにはならないだろうと考えて、マインは口火を切る。
ある程度の情報は既に手に入れているのだろうなと思いながらも知られているということを前提にして話を進めていいものか迷いつつ尋ねたマインに、リドルは言い淀むような気配を全く見せずにはっきりと答えた。
「家探し!」
「他人の家を家の人の許可なく家探しするというのは、泥棒の所業だが」
勝手な行動をとるなとばかりに釘を刺してくるマインに対し、リドルはそれに気付いた様子なと全く見せないままに即座に応じた。
「私とマインは他人じゃないし」
「どういう理屈でそうなった?」
「同じお父さんとお母さんの子だもん」
リドルにそう言い切られて、マインは言葉に詰まる。
リドルの言い分は確かにその通りであり、マインとリドルは血は繋がっていないものの兄妹と言っても過言ではない間柄、と言い張れなくはない。
そこはマインとしても強く否定できない部分でありはするのだが、なし崩し的にこれを認めてしまうと色々と別なところも押し切られてしまいそうであり、対応にやや困る。
「俺はいちおう、独立しているんだが?」
「私もそろそろ独立する年頃だけど。独立したらもう他人扱いするの?」
様子を窺うかのように、上目づかいでそう問われてしまうとマインとしては返答に非常に困ってしまう。
リドルの方からマインのことを赤の他人だから知った事かと突き放されたのであれば、多少の寂しさは覚えたかもしれなかったがそれ以降は顔を知っている程度の他人だと扱うことができたのかもしれない。
しかしリドルの方にそのような気配がみじんもなく、あくまでも身内として扱ってほしいというように振舞われてしまっては、マインの方から突き放すと言った選択肢は選ぶことができなかった。
身内として認識してしまっている相手に対してはどうしても対応が甘くなるという自分の性格は熟知しているマインなのだが、これは悪癖なのやら美徳なのやらと自問しつつ。降参だとばかりに首を竦める。
「参った。家探しの件は不問にしよう」
「じゃあ泥棒扱いされた精神的苦痛に関して、マインを訴えるね!」
「容赦ないな」
突っ込むタイミングとしてはベストなものなのかもしれないとマインは思う。
交渉において、相手が自分の非を認めて引いたところで間髪入れずに追い打ちを仕掛けるのだ。
その衝撃はただ殴りつけたときよりもずっと大きくなるはずだった。
ただマインは、リドルがそう出てくるであろうことを事前に予想していたかのように、取り乱すことなく対応を続けた。
「どこに訴える? 村長にか? それとも領都まで行って正式に裁判所に持ち込んでみるつもりなのか?」
「マイン、その返しは詰まんない」
むくれた感じでリドルが言うが、リドルが訴え出る先などいくら考えてもその二つくらいしかなく、仮に本当にどちらかに訴え出られたとしてもマインからしてみれば十分に対処可能な話でしかなく、焦る必要など全くない。
リドルが村長に訴え出た場合。
村長がマインとリドルのどちらの言い分を聞くかということは考えるまでもない。
年齢や性別以前にマインはこの村に一人しかいない、王都の学院をきちんと出た魔術師であり、リドルは今のところは成人前の村娘の一人でしかないからだ。
おまけにマインは村の子供らの面倒を見たり、一定の食事を供給したりという実績があり、その発言権はリドルの比ではない。
ではリドルが領都にある裁判所に訴え出た場合はどうなるかと言えば、こちらに関しては完全に論外であった。
まずリドル一人でどうやって領都まで行くのかという大問題が存在しているし、何らかの幸運が重なって領都までの道が開けたとしても、裁判所へ訴え出るためには正規の書類と現金が必要になる。
いずれもリドルが単独で用意するのは非常に難しい代物だ。
何らかの運命の導きによって、リドルがそれらの品々を全て用意することができたとしても、リドルが裁判でマインに勝つ見込みはほとんどない。
何せ相手は知識や言葉を操ることを生業としている魔術師のマインなのだ。
村娘が法廷で相手にするには、あまりにも相手が悪すぎる。
とは言えとマインは平然とした表情でリドルの様子を窺う。
この辺りの理屈はリドルも分かっていないわけではない。
考えなしに行動しているわけではなく、ノリと勢いに任せがちではあるものの、それなりに賢さというものを持ち合わせている少女なのだ。
つまり、あまりにもにべなく撃退してしまうと逆転の一発を狙って何を仕掛けてくるか分かったものではない少女なのである。
そう言った状況に追い込まないよういにするためには、多少の逃げ道や妥協案というものを予め用意しておく必要があった。
「その辺りの話は脇にどけておくとして、俺の家を家探ししてまで一体何を探そうとしていたんだ?」
マインは村唯一の魔術師であり、子供らに軽い食事を振舞う程度には財産を持ってはいたものの、非常に裕福なのかと問われると実はそうでもない。
当然、家の中にある家財は他の家とそう変わりはなく、わざわざ盗み出すような代物は置いていないはずだった。
それはリドルも知っているはずのことで、何が目的で家探しなどしたのかと問いかけるまいんに、リドルはきっぱりはっきりとこう応じる。
「とりあえず、武器!」
何をしでかすつもりだったのかと強めの突っ込みを入れたくなるマインだったが、すんでのところで思いとどまる。
代わりに湧き上がって来た考えに、渋面を作りつつマインは天を仰いだ。
状況と話の流れからしてリドルは集会場でのやり取りを把握し、村に何が起きているのかを知っている可能性が高い。
その上で武器を要求して来ると言うことは、大人しく自衛のために使うというわけではないのだろうとマインは思う。
何より決定的なのは、とマインは苦々しく考える。
リドルが今、感化されつつある騎士王物語という作品において、主人公らが一番最初に遭遇する事件が、主人公らの村を襲撃したゴブリン退治なのだ。
この状況でリドルが、この出来事を何もせずに見過ごすはずがない。
ならばこの話の行き先を、どこへ持って行くべきなのか。
全く手放しにリドルの好き勝手にやらせてしまっては、不幸な結果に終わるかもしれない。
これに介入しないという選択肢はマインの頭の中には存在しておらず、さてどのように話していこうかと、マインは目を輝かせてこちらを見ているリドルのことをしげしげと眺めるのであった。
書き続けるためには燃料が必要です。
そして書き手の燃料とは読み手の方なのです。
というわけで。
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