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03-24

「とにかく、今一番調べて何か見つかりそうなのは、箱だな」


「そうだね。箱だね」


「箱、でしょうか……」


「箱なのであろうな」


 四人の考えが一致したのは、ダリルに引き受けること自体がおかしいのではないかという依頼を引き受けさせてでも、王都へと運び入れたかったらしいエルフの子供らが入っていた箱を調べるというものであった。

 ダリルの記憶を覗いてみたところで、詳しいことは何も分からなかった以上はこの場における唯一の物証である箱を、調べてみれば何かわかるのではないかという淡い期待がそれには込められている。

 もちろん、ダリルの記憶を改ざんしてまで自分の正体を隠していたらしいダリルの依頼主が失敗すればその場に残されてしまうことが分かっている箱に、自分へとつながるような何かを残しているというのは考えにくいことではあったのだが、今はそれ以外に調べられそうなものがないのだから仕方がない。


「で、その箱なんだが……」


 調べなければいけない、ということは理解していてもマインとしてはあまりその箱を調べたい気持ちはなかった。

 何故ならば、ここに来るまでにエルフの子供らをぎっちりと詰め込んだ状態で運ばれていたその箱の中身は、かなり酷いことになっていたからである。

 具体的にどうなっている、ということについては頭の中ででも考えたくないマインなのだが何日もの間、そこに大量のエルフが閉じ込められていて、死んでしまったエルフまでいると言えば、箱の中がどのような状態になっているのか分かりそうなものであった。


「箱か……」


 エルドアもあまり気が進まないようであったが、必要なことだからと割り切って他のエルフ達が作業をしている方向へと顔を向ける。


「おい、この箱どうする?」


「始末した冒険者とか犯人どもとか放り込んどけ。どうせこんな汚い物、ここに打ち捨てていくしかないんだし」


「そうだな。我らの子と同じ環境で朽ち果てていくのも自業自得だろう」


 他のエルフ達の会話を聞いてエルドアが顔を引きつらせる。

 あろうことか他のエルフ達は、箱の中からまだ息のある子供らと既に死んでしまっていた子供らを救出した後、残った箱の中へエルドアの指示で処分した冒険者やダリル、そしてダリルの使用人達の死体を放り込み始めていたのだ。

 死んでしまったエルフの子らは状態がかなり酷いので、この場で埋葬していくしかなかったようなのだが、そんな惨事を引き起こした者達の分までエルフ達は墓穴を掘ろうという気にはならなかったらしい。

 流石に処分した全員を箱の中へ押し込むことは明らかに無理なように見えたのだが、それでも構うものかとばかりに箱の中へ次々と死体を投げ込んでいく。


「おい、お前達ちょっと待て!」


 これから箱を調べるつもりだというのに、そこに冒険者達の死体などを投げ込まれてしまっては面倒ごとが増えてしまう。

 かといって既に死体は投げ込まれており、今更止めたところでどうしようもなかったのだが、それでもエルドアは作業中のエルフ達へ声をかけた。


「ん? 箱の様子が……」


 エルドアは作業中のエルフ達に気を取られ、リドルは元々そういったことにそれほど鋭い感覚を有しているわけではなく、アイはあまり興味がなかったのか箱の方へと注意を払ってなかったせいで、それに気が付かなかった。

 唯一、嫌だなと思いつつも箱を調べて見なければと箱だけを見ていたマインが、箱に起きていた異変に気が付く。

 ただの木材を組んで作られている箱。

 その箱を構築している木材が、内側から何かが漏れ出してきたかのようにじわりと黒い色を箱の表面に滲ませたのだ。

 マインはそれを、箱の中に放り込まれた死体から流れ出した血ではないかと最初は考えた。

 かなりの数の死体から血が流れ出れば、それなりの量になる。

 内側にあふれた血が木材に染み込み、箱の表面まで滲み出て来たのではないか、と考えたマインは即座にそれを否定した。

 確かに血は布などであれば滲んで外から見えるようになるものだが、木材は頑丈で厚い物が使用されていたはずで、内側にそこそこの血が溜まったからと言ってすぐに滲み出てくるとは考えにくい。

 では死体を放り込む時に開いている口の所からあふれ出たのだろうかとも考えたが、今度は逆に投げ込まれている死体から流れている血程度のものでは、箱からあふれ出てくるようにも思えなかった。

 そして箱の表面へと出て来た色は、血にしてはあまりにも黒すぎる。


「エルドア! 部下達を下がらせろ!」


「何事だ。人の指図など我々は……」


「いいから急げ! 子供らとまとめて全滅したいのか!?」


 強い言い方になってしまったのは、マインが一刻も早くエルフ達に行動させようと思ったからこそであった。

 しかし、エルフ達からしてみればどこの誰とも分からない人族に頭ごなしに指示されて、何様のつもりだという反抗心が起きてしまう結果となる。

 それが、わずかばかりであったが被害を拡大する原因となってしまった。

 突如として、箱から吐き出されたのは無数の黒い触手。

 それらは箱の中へ放り込まれるのを待っていた死体へと絡みつくとこれを巻き取り、一瞬のうちに箱の内側へとその死体を引きずり込んでしまう。

 そしてその触手は死体のみならず、箱の周囲で作業をしていたエルフや、箱の中から救出されたばかりのエルフの子供達へも襲い掛かった。


「何だっ!?」


「子供らを逃がせっ!」


 不意を打たれたエルフは即座に黒い触手に絡めとられて箱の中へと引きずり込まれる。

 そうでなかったエルフも、子供へと襲い掛かろうとしていた触手から子供を守ろうとして、守ろうとしていた子供諸共無数の触手に体を覆われ、こちらもまた箱の中へとその体を引きずり込まれていった。


「何が起きているっ!?」


「クソっ! 迎撃しろっ! 迎撃だ!」


「た、助けてっ……こいつ刃物が通らな……」


 瞬く間にかなりのエルフが箱の中へと引きずり込まれてしまい、残ったエルフ達もまた触手に襲われて一人、また一人と箱の中へと引きずり込まれていく。

 必死に迎撃しようとするものの、エルフ達の持つ武器は触手にまるで通用せず、放った魔術も触手の表面にむなしく散るばかりで効果を発揮したようには見えない。


「なんなんだこいつはっ!」


「これはまた、とんでもないものを仕込んでいたもんだな」


 味方や子供らが成す術なく箱へ引きずり込まれていく光景を無力感に苛まれながらどうにかしなくてはと見つめていたエルドアの耳に、周囲の惨状とは対照的に特に慌てた様子もなくただちょっと驚いたかなという程度の感情が見えるマインの呟きが聞こえたのだった。

現在、毎日更新継続中。

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