03-22
マインがダリルの頭の中から探している情報とは一体何なのか。
それは今回のエルフの子供らを誘拐するという仕事を依頼したのが誰であり、そしてその誘拐した子供らをどこへ運んで何をさせる気だったのかということであった。
普通に考えればまるで儲けに繋がりそうにないこんな話に、相当な費用を支払って実行させようという者がいるとは思えない。
少なく見積もってもエルフの子供らを誘拐するところから始まって、護衛を雇って移動をし、危なくなれば一人に金貨五十枚を支払ってでも逃げようとするなど、必要とされる費用は金貨数千枚をくだらないだろうとマインは思う。
それだけの費用を支払ってでも釣り合いが取れる利益とは、一体どんなものだというのか。
マインの興味はそこにあった。
「比較的最近の記憶のはずなんだが……見つからないな」
不思議そうにマインは首を傾げる。
ダリルがいつこの話をどこの誰から依頼されたのかは分からない。
もしかしたら自発的に思いついたという可能性も否定はできないのだが、いずれにしてもその記憶はエルフの子供らを誘拐したタイミングの少しばかり前のはずで、年単位で過去の話というわけではないはずだ。
だというのに、ダリルの頭の中から抜き出した情報の中から、マインは該当する情報を見つけられずにいる。
最初は自分にだけ分かるような形でダリルの記憶を選り分けていたマインなのだが、作業を見守っているリドルにも、何をしているのか伝わるようにと傍らからでもダリルの記憶の中身が見える様に映像を出してやると、手持無沙汰だったのかリドルばかりではなくエルドアまでもがそれを覗きにやって来た。
「これ消しちゃって大丈夫なの?」
「俺達には必要のないものだからなぁ。特に貴重な情報でもないし」
マインがざっと流し読みする限り、ダリルは平々凡々としたどこにでもいそうな商人の域を出ない人物であった。
そんなダリルがどのようなきっかけでもってエルフの誘拐などという大それたことをしでかすに至ったというのか。
それに関する情報がダリルから抜き取った情報の中に全く見当たらないというのはどう考えてもおかしい。
「もしかしてこいつ、記憶を改ざんされた?」
もしそうならば、今回のこの件はやはりどこかの誰かからダリルが依頼されて実行に移したという線が濃厚になる。
仮に自分で計画したのであれば、それを自分の記憶から改ざんして消すという行為にはあまり意味があるとは思えない。
順当に考えれば誰かがダリルに依頼するなり命令するなりしてこの騒ぎを実行させるにあたり、自分の存在を隠しておくためにダリルの頭の中をいじくったのではないか。
そう考えるのが自然であるように思えた。
もしその考えが正しいとなれば、マインはそこから新しい情報を得ることになる。
「記憶の改ざんなんて、そんな簡単にできるものなの?」
「まさか。これが簡単なことだったら世界は今頃魔術師ギルドが牛耳っててもおかしくはないぞ」
「だったら……」
「この情報から二つのことが分かるんだが、何だと思う?」
マインはリドルに問いかけたのだが、何故かリドルだけではなくエルドアまでもが思案顔になる。
「一つはこんなことができるような誰かが今回の件の黒幕だ、ってことだよね」
少し考えてリドルが出した一つ目の答えに、マインは頷いてから補足する。
「もう少し詳しく言うと、少なくとも第六位階の魔術を使える魔術師が黒幕らしいと考えられる」
「そんな魔術、あるの?」
「記憶や認識を誤魔化すだけなら<イリュージョン>とか<ヒュプノシス>といったもっと低位の魔術でなんとかなるが、記憶自体を改ざんとなると第六位階の<マインド・アルター>かもっと上の魔術を使うしかない」
「それってお前が黒幕だったりしないだろうな」
リドルとマインとの会話に割り込んできたエルドアの一言で、二人がそろってきょとんとした顔でエルドアの顔を見た。
「第六位階の魔術を扱える魔術師などそうはいない。ここに一人いる以上は怪しんだとしてもおかしくはないだろう?」
「その発想はなかったな」
第六位階の魔術を扱う者が少なく、偶然この場にそれを扱う者が居合わせたりすれば、確かにエルドアが言うようにその魔術師は容疑者としての条件は持っていると言えるのかもしれないとマインは思う。
「で。どうなんだ?」
「エルフは面白い考え方をするんだな、とだけ答えておく」
「答えになっていないぞ」
それほど本気で疑ってかかっているわけではないのだろうが、答えをはぐらかすマインに対してむっとした表情になるエルドアへ、マインは会話に参加して来ないアイを指さす。
「第六位階魔術ならば彼女も使える」
「なんだと」
「そもそも俺が犯人なら、わざわざ第六位階の魔術が云々などと情報を流したりはしないだろう?」
「つまり、違うということだな?」
「さてね」
確認を取りに来るエルドアに対し、何故か断定を避けるマイン。
「違うって言ってあげればいいのに」
おそらくマインはエルドアをからかっているのだろう。
そう悟ったリドルがマインのことを咎めるような目で見ると、マインはそっと肩を竦めた。
「エルフは気が長いから、この程度じゃ怒ったりしない」
「そうなの?」
「そう言われて我々が怒れるとでも思っているのか?」
エルドアが不機嫌そうな顔で腕組みをし、そっぽを向くのに小さな笑い声を立てつつ、マインは解いている術式の中から一つのもやを弾きだす。
弾かれたもやは空中で停止すると、そこに映像を映し出した。
それはおそらくダリルの目線からの映像であり、どこかの部屋の中でテーブルを挟んだ対面の席に、誰かが座っている光景だ。
「マイン、これは?」
「完全に記憶が改ざんされていれば残っていなかったのだと思うが、消し方が雑だったらしい」
「それが求める情報だとよく分かったな」
「この情報、消されかかった痕跡があった。何かの要因で消し切れなかったのだろうが影響は受けている。さて、どこまで見れるものやら」
あまり期待していないような口調でそう言いながら、マインは宙に浮いている映像にそっと指を触れさせたのであった。
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何かエイプリルフール的なことを言おうかと考えましたが。
あれって確か午前中いっぱいが期限なのですよね。




