03-20
マインはまずダリルだけを掴んで引きずり、エルフ達からもリドル達からも距離を取る。
エルフ達は救助活動で手いっぱいの様でマインの行動に注意を向けた者はおらず、リドルはマインの姿を見て近寄って来ようとしたのだが、マインはアイにリドルと一緒に離れているように指示。
「マイン、なんで?」
「見てても楽しいものじゃないからな」
ひたすら遠ざけられていることに不満を口にしたリドルへ、マインは困ったように笑いつつそう言った。
「見ててもいいんだが……何の参考にもならないぞ? 飯も不味くなる」
「ご主人様。マスターがこのようにおっしゃられると言うことは相当えぐいことをする気です。見るのはやめておいた方がよろしいかと」
やんわりとアイがリドルに考え直すように促すと、リドルは無理強いしてまで見るものでもないと考えたのか、大人しくアイに手を引かれてマインから離れていく。
それを確認してからマインはダリルの傍へしゃがみ込むとダリルの胸倉を掴んで体を引き起こし、半身を起こした状態で適当な木立へ背中を預けさせた。
「わ、私をどうするつもりだ?」
声を震わせながらもダリルはマインを険しい顔で睨みつける。
「何をされたとしても私から話すようなことはない」
「話してくれるとはもう思ってないから心配するな」
話をさせる方法は他にあるのかもしれないがな、とマインはダリルを木立にその辺に生えていたツルで固定しながらぼんやりと思う。
手間をかければ可能なのかもしれないが、そこまで手間をかける必要性を見いだせない。
エルフ達の手前、死なれては困るのでマインはダリルを身動きできないように木立に固定した後、さるぐつわのようにツルを口に噛ませてさらに顔の下半分をぐるぐるとツタで巻いていく。
これによってダリルはただ呻くことしかできなくなったのだが、しゃべらせる気のないまいんからしてみれば舌を噛んで自害するようなことさえされなければ後はどうでもいい。
「それじゃ始めようか」
呻いてもがいてなんとか逃れようとするダリルに一声かけて、マインは立ち上がると右手をダリルの頭の上へかざす。
「<ブレイン・ハック>」
マインの魔術の行使によってダリルの頭上にまるで天使の輪のように光る円形の陣が出現する。
円の中に幾何学模様が描かれたそれはどういう理屈で宙に浮いているのか分からないが、ダリルの頭上でゆっくりと回転しながらその位置をキープしていた。
「何をされるか分からないというのは怖いよな? 怖がらせる気は全くないからこれから何が起きるのかを説明しよう」
動かない首を必死に動かそうとし、気配で頭上に何か出現したことを察したのか目線だけでもなんとかならないかと目を上に向けるダリルのマインが言う。
「今、お前の頭上には術式を書き込んだ円が浮かんでいる。これは第五位階精神系魔術<ブレイン・ハック>という魔術だ」
そう言いつつマインは円の縁に右手の人差し指を当て、ほんのわずかにだが下の方へと押し込んだ。
これによって円はゆっくりと回転しながら押された方向へと動き始める。
「この魔術の効果は二つある」
ゆっくりとダリルの頭へ近づいていく円を見ながら、マインはダリルの目の前で二本の指を立てた。
「一つ目は体毛の除去だ」
マインの言葉とほぼ同時に、円がダリルの頭髪に触れた。
途端に触れた所から熱した鉄板に水をかけたような音がし始める。
「二つ目の効果を発揮させるのに毛の類はただ邪魔なんでな。全て除去するように術式が組んである」
マインの言葉にダリルの顔が盛大に引きつって固まった。
体毛の除去ということはつまり、髪の毛ばかりではなく眉毛からまつ毛やら毛と言う毛が全て抜けてなくなってしまうということだ。
ただそこまでならば笑い話で済んだかもしれず、マインもリドルを遠ざけるようなことはしない。
毛という毛が全て除去されたダリルの、おそらく珍妙であろう顔について何らかの感想を抱けばいいだけのことなのだから。
状況が変わったのは術式が書き込まれた円がダリルの頭髪を除去しつつ、その頭皮に触れた時であった。
それまで頭髪が消されていくことに対して何とか逃れようと、動けないながらももがいていたダリルだったのだが、その瞬間から確実にそれまでとは違った動きをし始めたのだ。
ツルを噛まされてまともな言葉を発することができなくなった口からは呻き声ではなく、明らかに何か叫んでいると分かる音が漏れ始め、ツルを噛みちぎりそうなくらいに歯を食いしばり、口の両端からは血の交じった泡を吹き始める。
目は白目を剥き、体の方はそんなに無理に動こうとしたのではツルの様にある程度太さのある束縛でも衣服を裂いて肉へと食い込み、骨を圧し折ってしまうのではないかと心配になるくらいに、ダリルは全身に力を込めてその束縛から逃れようとし始めたのだ。
そのあまりの変わりように様子を見ていたエルドアや他のエルフ達が軽く引いた雰囲気になる中、ただ一人だけダリルの傍から離れていないマインは、特に表情を変えることもなく苦しんで暴れているダリルを見下ろしている。
ダリルの暴れ方があまりにも酷く、このままにしておけば死んでしまうのではないかと心配したエルドアだったのだが、マインは平然とこう言った。
「精神の方は駄目かもしれないが、まぁそう心配しなくとも命の方は保証する」
「一体何をしているんだ?」
マインの作り出した円はダリルの頭に触れた後、そのまま下へとゆっくり下り続けている。
円自体には実体はないらしく、ダリルの全ての毛を失った頭部が貫通してしまっているのがなんとも妙な光景だ。
「二つ目の効果。こっちが本命なんだがこいつの記憶や知識なんかを術式で転写している」
「それってその……苦しいのか?」
見る限り、苦しくないわけがないだろうと思いつつエルドアが行った質問に、マインは首を竦めた。
「さぁね。自分に使ったことがないから分からない。これを使われた後にまともに感想を言えた被験者ってのもいないしな。まぁとりあえず、どうせ処分するなら死なない限り、どうなろうとも構いはしないだろ?」
かなり非人道的なことを平坦な口調で語りつつ、同意を求めてくるマインに対してエルドアは曖昧な笑みを見せることしかできなかったのであった。
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年度末って毎回、忙しくて嫌いです。
潤いのない数字ばっかり目にするので心が乾きます。




