03-19
マインにはダリルが何のためにそんなことをしたのかまるで理解ができない。
荷馬車の荷台一つを使った箱の中に荷台が限界を迎えるまでエルフの子供を詰め込んで、一体何になると言うのか。
そんなことをすれば、場合によってだが死人が出る。
一応、エルフの子供達は箱の中に立たせた格好で詰め込まれていた。
これが横に詰め込まれていたら確実に、下の方に入れられた子供は上にいられた子供達の十町に耐えることができず、もっと悲惨な状態になっていたはずなのだが、それくらいの配慮はされていたらしい。
それでも全く身動きできないくらいに詰め込まれた上に、まともな換気など行われていたとは思えない箱の中だ。
さらに、それなりに長い時間そこに閉じ込められていたらしく、やはり既に死んでいる者が発している死臭と、色々と垂れ流しになっていたものが発する臭いとが混ざりあって吐き気を催す酷い臭いが箱の中から周囲へとまき散らされていた。
「おい、ぐずぐずするな! まだ息のある者を助けるんだ!」
その臭気はエルフ達にとってとても耐え難いものであったようで、ほとんどのエルフは箱に近づけないままに口元を手や服の袖で覆い隠し、その場から動けずにいた。
しかし、エルドアが声を張り上げたことによって自分達が何をしなければならないのかを思い出し、吐き気をこらえながらも箱へと歩み寄り始める。
箱の中から酷い状態のエルフの子供達が運び出されていく光景は、離れた所にいるリドルにも見えてしまうが、間近で見るよりは衝撃も少ないだろうと割り切って、マインは地面に転がされているダリルの傍らにしゃがみ込む。
「何をしようとしてたんだお前?」
尋ねるマインにダリルは答えることなく険しい表情のままそっぽを向いた。
「ただの人さらいじゃないよな? 人さらいならそもそもエルフの子供なんて狙わないだろうし」
人さらいが人をさらう理由は色々とあるのかもしれないが、大半は適当に使い潰してしまえる安価な労働力として売るためというパターンが多い。
もしダリルの目的もそこにあったのだとすれば、エルフ達への対応がおかしかった。
箱の中にきっちりと詰め込んでいたこと自体おかしいのだが、それは運ぶために仕方なかったのだと強弁するとしても、エルフの子供を狙っていること自体がおかしい。
何故ならエルフは長寿な種族だからだ。
成年のエルフならば、長く働かせることができるというのが利点となるのだが、子供のエルフについてはこの長寿が欠点となる。
それは成熟するまでの期間が非常に長いということだ。
エルフは一定の年齢に到達するとそこで成長が止まり、老化が起きなくなって長く若い外見で過ごすのだが、その一定の年齢というのに到達するまでにおよそ百年かかるのである。
外見が子供であるエルフ達の年齢はきちんと確認したわけではないとしても、マインの目から見ておそらくは三十から五十歳くらいであろうと思われた。
つまり今回ダリルが運んできたこの子供達がそれなりの労働力として働けるようになるまでには現時点から数十年もの歳月がかかってしまうのだ。
その間は体も小さく、非力であるのでまとも労働力にはならない。
鉱山のような体の小さな者が重宝される特殊な場所で労働させようにも、エルフ程非力では仕事になるわけがなかった。
エルフは見た目が非常に整っているので、愛玩用に子供をさらってきたという可能性についてもマインは考えてみたのだが、その場合だと運搬方法があまりに酷過ぎる。
「一体どこの誰のところに、何の目的で運ぶつもりだったのか答えろ」
「それを言うと思われますか?」
マインの質問をダリルは鼻で笑う。
「それより私を助けろ。私だけでいい。金なら言い値で支払う」
この期に及んで自分だけは助かろうとするダリルの提案に、マインは呆れた視線と共に答えた。
「無理。俺の心情的に無理だし、周囲をエルフ達に囲まれている現状でお前を助け出すのも無理」
「お前、かなり実力のある魔術師なんだろう? それくらいのことはできるだろう!?」
木箱を魔術で開けた時のことを、ダリルはきちんと見て、聞いていたらしい。
「金だけで満足できないのであれば、士官先の口利きもできるぞ!」
「どこかの国の軍属になれと? 悪い冗談だなそれ」
本当に嫌そうに言うマインはダリルに話す気がまるでなさそうなのを見て取ると、仲間のエルフ達に指示を出しつつ箱の中から子供らを救出しているエルドアの方へ声をかけた。
「エルドア、こいつの処遇は?」
「全員処理してここに捨てていく。助命願いなら聞く耳は持たない」
「目的とか背後関係とかは洗ったりしないのか?」
「しゃべるとは思えない」
険しい表情をしつつ、どこか疲れた雰囲気を漂わせながらエルドアは言う。
「仮にそいつがしゃべったところで、我々にはどうすることもできない。人の国に所属していない以上、人の法が我々を守ることもないのだからな」
冒険者をやっていたり、ギルドで受付嬢をやっていたりするエルフならば、所属している組織なり国なりが守ってくれるのだろうが、エルドア達はそういったものには所属していないエルフだ。
そんなエルドア達が人の国で派手に実力行使など行えば、追われるのはダリル達よりエルドア達の方ということになりかねなかった。
そんなことになるくらいならば、業腹ではあるのだろうが実行犯を始末して、生存者をまとめて国に帰ることを優先するべきだとエルドアは判断したらしい。
「あまり時間をかけていられないのが残念だが、子供らと同じ分だけは苦しめてやるから覚悟するがいい」
殺気の籠った目でエルドアはダリルを睨みつけ、ダリルの顔が青くなる。
「ただ殺すだけなら俺に任せないか? こいつの頭から情報を抜くことくらい朝飯前だぞ」
「何故そんなことを?」
「知的好奇心、と言ったら怒られそうだな。しかし何故こんなことをしたのかについては気になる。一度気になると調べたくなるというのが魔術師という生き物だ」
マインの返答にエルドアはしばし考え込んでから言う。
「殺したり逃がしたりしないのであれば、俺達が処分を開始するまでの時間ならば好きにして構わない」
「了解。さてダリル。大人しくしゃべっててくれれば要らぬ苦痛まで味わわずに済んだのにな」
にっこりと笑いながらそう言うマインの口調と笑顔に、ダリルのみならず周囲にいた使用人や冒険者達までもが揃って震えあがったのだった。
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