03-18
「本家本元の始原エルフ? ハイエルフとかエンシェントエルフの血筋のことですか?」
「いちおう、な。ただそんなトンデモエルフはそうそう生まれたりしない」
驚くアイの言葉にエルドアは鼻高々であったのだが、続くマインの言葉にはむっとした表情を見せる。
それに構わずマインは荷台に手を触れながら、いまいち状況が分かっていないように見えるリドルへの説明を始めた。
「始原エルフってのは、要はエルフの総元締めの血を引いたすごいエルフ、ということだな。黒の森には色々なエルフが住んでいるらしいんだが、こいつらはその一族ということになるらしい」
「すごいのそれ?」
「まぁまぁそれなりにすごい。人族で言うところの何とか王国のなんとか王族、みたいな感じくらいにはすごい」
「へー」
「さっきアイが言っていたハイエルフとかエンシェントエルフとかいうとんでもエルフ……一般的には上位個体と呼ばれる存在はこの血筋から生まれる」
誉め言葉として考えるとやや微妙な感じのマインの説明であったのだが、リドルはたぶんとてもすごい事なのだろうなと理解する。
「まさかとは思うが、ハイエルフ辺りが出張ってきてたりしないよな?」
「高貴な方々が盗人の追跡などするか」
「盗人? となるとこれは盗まれたもの? とりあえずこっちの条件は飲んでもらえるんだろうか?」
「いいだろう。お前達が気にしている人の定めた境界線の向こう側までお前達を送り届けてやればいいのだな?」
「交渉成立か。それじゃ<ディスインテグレイト>」
「何っ!?」
マインが発動させた魔術にエルドア達が目を剥いて驚く。
何事かと思わず身構えたリドルだったが、マインがその肩に掌を置いて宥めた。
その間に魔術は効果を発揮し、派手な光も爆発音もないままに、箱の天井部分を構成していた木材が塵となって消えていく。
「第六位階の崩壊の魔術だと……?」
「おやバレた。まぁそれなりのエルフなら知っていてもおかしくないか」
茫然と呟くエルドアとは対照的に、いつもと変わらない調子でそんなことを言うマインにリドルが尋ねる。
「すごいの?」
「それほどでもない」
答えたマインの言葉にエルドアが大きく口を開いて何事か言いかけたのだが、その視線がマインの顔を見て、すぐにゆっくりと口を閉じる。
妙な反応をするなと思うリドルだったのだが、他のエルフはそっと目を逸らしてこちらを見ようとはしておらず、マインの方を見ればいつもと変わらない笑顔で何かとばかりにリドルの方を見返してくるので、自分には分からないことなのだろうとリドルはそれ以上考えることを止めた。
実際のところ、マインが行使した魔術はすごいのかと問われれば誰しもがすごいとしか答えようのない代物である。
人が到達できる限界である第七位階の一歩手前にして、魔術の抵抗に失敗した場合やそもそも抵抗することのない無機質な物などこの魔術を受けると、術者が指定した範囲内に存在していた物質が世界における最小単位にまで分解されて消え去る、という。
発動したが最後、ほぼ回避も防御も不可能で唯一抵抗に成功することだけがこれから逃れる方法、とされているがそもそも第六位階の魔術が使える魔術師の魔術に抵抗すること自体が至難の業である。
そんな魔術をただ箱を開けるのに行使したのだ。
エルフ達が驚くのも無理はないくらいに盛大な無駄遣いである。
「そんなことより中身だが……」
箱状になっていた荷台の天井部分はきれいさっぱり消え去っていて口が開いてしまっている。
位置的に少し高い位置にあるので荷馬車によじ登らなければ中が見えず、エルフがここまで人員を動員してまで追いかけてきた代物とは何なのか、興味が尽きなかったマインはすぐ荷馬車によじ登ろうとして、荷馬車に手をかけたところで動けなくなった。
それは、別段エルフ達が箱の中身をマインに見せまいとして威圧してきた、というわけではない。
ただ荷馬車に近づいた途端、天井部分が消えたことにより箱の中身から漂う空気が、荷馬車に近づいたマインの鼻を刺激したせいであった。
「マスター? どうなされました?」
急に険しい顔で立ち止まったマインに、どうやらただ事ではなさそうだと察したアイがそれでも何気ない様子を装って尋ねる。
「アイ、これの中身はエルフ達にとって重要な物だ。あまり余人に見られたくはないだろうからリドルを連れて少し離れていてくれるか?」
「畏まりました」
マインの物言いから何事かを感じ取ったのか、アイは何も聞かずに頷くと荷台の中身にやや興味を惹かれているリドルの手を取り、そっとではあるが有無を言わさぬ雰囲気で荷馬車から遠ざけていく。
十分にアイとリドルが荷馬から遠ざかったのを確認してから、マインは改めて荷馬車に手をかけて、そこをよじ登る。
「なんなんだこれは……」
エルフが人員を動員してまで追いかけて来た代物である。
てっきりマインはエルフの宝物か何かだとばかり思っていた。
エルフは古代から延々と続く血筋の一族が多く、古い時代に作られて今ではもうその製法も分かっていないようなとてつもない宝物を数多く持っている、と言われていたからだ。
今回もそういった物が拝めるのではないかと思っていたマインだったのだが、箱の中から流れて来て、マインがリドルやアイを箱から遠ざける原因となったものは、宝物とはまるで縁のない腐臭だったのである。
「エルドア、これはいったいどういうことなんだ? 何故こんなことが……」
「そいつを知っているのはそこのそいつだけだろうな」
マインと同じく荷台の上へとよじ登って来たエルドアが箱の中身を一瞥し、すぐに憎悪の籠った視線で縛られて地べたに転がっているダリルを睨みつける。
ダリルがエルドアの視線を受けて、どのような反応を示したのかマインには見ることができなかった。
それくらいにマインの視線は箱の中身から動かなかったのである。
マインの視線の先にあったもの。
それは手足をロープに縛られて、まるで材木か何かの様に箱の中にぎっしりと詰め込まれた何人ものエルフの子供と思しき者達だったのであった。
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