03-17
「俺は黒の森のエルフ。名をエルドアと言う」
「黒の森? 黒の森って言ったか? 黒の森って大陸東部の大森林? すごいぞリドル。うちの村よりさらに田舎のエルフだ」
マインの記憶ではエルドアと名乗ったエルフ男性が住んでいるという黒の森とは、マイン達がいる大陸の東の果てにある広大な森の名称で、特定の国家の支配を受けていないとされる土地のことであった。
ちなみに、この大陸では大陸中央部に行くにつれて都会であるとされていて、大陸の東の果てと言えばマイン達から言わせれば、ど田舎中のど田舎ということになる。
「我々からすれば、我々こそが正当なエルフの末裔の一族なのだが……」
「あぁそうか。そういう認識になるのか」
広大な黒の森の中にはエルフの王国があると言う話がある。
大陸に住んでいるエルフは全てその国の末裔であり、エルフにとっての本拠地というのか総本山というのか、とにかくエルフにとっての最重要地区というのが黒の森であり、田舎呼ばわりされることに関してはかなり心外であるらしい。
「まぁ正しくエルフという意味ではそうなるのかね。それでその黒の森のエルフがなんでまたこんな所まではるばると?」
「その男が盗み出した物を追ってきた」
エルドアがそう言っている間に、次々にエルフ達がその身を隠していた場所から地面へと飛び降りてくる。
男女ともにきらきらとした輝きが見えるかのように整った顔立ちをしているのだが、あまりに整いすぎているのと体つきがほっそりとしていて起伏に乏しいので、男女の区別がさっぱり分からずリドルが目を白黒させていた。
「それが荷馬車の中に?」
「その通りだ」
エルドアに指示されて、数人のエルフ達が荷馬車の荷台に上がり、箱になっているそれを調べ始めた。
「エルドア、これは開ける場所がない」
「そんなはずは……」
「くそっ! この箱、やたらと頑丈に作られていて破壊できない」
開けられないのであれば箱を破壊して中身を取り出そうと考えたエルフが、自前の物らしき短剣で箱を構成している木材を壊しにかかったのだが、かなり頑丈で分厚い木材が使用されているらしく、ロクに歯が立たないらしい。
「あれ、どうやって開けるんだ?」
エルフ達が手をこまねいている中、マインがそう尋ねたのはツルで縛られて動けない状態にされたまま、地面に転がされていたダリルだ。
「私がそれを答えるとでも?」
「答えた方がいくらかエルフ達の心象もよくなると思うんだが」
「今更多少よくしたところで、何が変わると言う?」
エルドア達はおそらく、ダリルを殺す気なのだろうとマインは考えていた。
荷馬車とダリルの身柄を要求したということは、きっとそういうことなのだろうと。
だからマインはダリルに多少なりともエルフ達に協力する姿勢を見せて、命ばかりは助けてくれと頼んでみてはどうか、という意味合いで荷を解くように提案したのだ。
しかし、その返答は否である。
ダリルはほぼ完全に諦めてしまったかのように、全く協力しようとはしなかった。
それはつまり、その程度のことで自分の運命は変わることがないと悟っているということ。
余程とんでもないことをしでかしたのだろうなと予想できるが、そこまでとんでもないこととは一体何なのか。
「アイ。箱を調べてくれ」
「既に。これは壊すしか中身を取り出す方法がありません。がっちり釘や金具で固定されてしまっています」
ただ箱を壊すだけならばいくらでも方法はあったのだが、箱の中身が何なのか分からないだけに適当な扱いをすれば中身にどんな影響が出るのか分かったものではない。
せめて中身が分かればと思うのだが、取り込み中のエルドア達に質問するのは邪険に扱われる気がして気が引けるマインである。
どうやってこの箱を開けたものかと話し合うエルフ達を刺激しないよういに、そっと箱へと近づいたマインは箱の側面を拳で軽く叩く。
「マイン、何をしてるの?」
「木材の厚さを計っている」
叩いた音でなんとなく分かるのだとマインがリドルに教えると、リドルは興味深そうにマインの真似をして箱を叩き始めた。
「おい、何をしている。適当に扱うんじゃない」
「これ、開けてやろうか?」
リドルが箱を叩く音を聞きつけて、近づいてきたエルドアにマインはそんな提案をしてみる。
「できるのか?」
てっきりマインは必要ないとにべもなく断られるものとばかり思っていた。
しかし思っていたよりもずっと素直に、エルドアはその提案に食いついてくる。
「できる、だがタダではやらない」
「金か? 人族はそれが本当に好きだな」
「街にいるエルフなんかも大好きらしいぞ」
「奴らと我々は違う」
苦々しく吐き捨てるかのようにそう言うエルドアに、マインはふむと一つ頷いてから言った。
「俺が欲しいのは金じゃない。二つほどあるんだが」
「強欲だな。だが、言ってみろ」
「一つは俺の一党の安全」
冒険者達も使用人達も拘束されている現状、マイン達はエルフ達の中に孤立した状態にあると言えた。
ならばまずは自分達の身の安全を確立せねばと考えるマインにエルドアは笑う。
「その気になれば、お前達は俺達などあんな風にできるだろうに」
アゴで拘束されている面々を示すエルドアにマインは首を竦める。
「やらずに済むならそれに越したことはない」
「そうか分かった。我々から危害を加えるようなことはしないと約束しよう。それで二つ目の要求はなんだ?」
「道案内を頼みたい」
マインはエルドアに、事情があって早急に隣領へ移動したいことと、その為にダリルの商隊に加わっていたのだということを説明する。
「黒の森からここまで移動して来れたと言うことは、いくつもの領地を無許可で通り抜けて来たってことだろう?」
「人の定めた境界線など、我々には何の意味もないからな」
その言葉一つでマインはエルドアの素性を何となく悟る。
それはつまり、街やギルドで見かけるようなエルフと彼らとはまるで違う存在であるということ。
黒の森出身だろうがどこの出身だろうが、ほとんどのエルフはおよそ人が作った国というものを認識し、境界線というものを認めている。
それを無意味と断じるということで、エルドアの素性が見えてきた。
「お前、本家本元の始原エルフの末裔か何かか。これはまた珍しい相手に出会ったもんだ」
マインが発した言葉に対し、エルドアはどこか自慢げにその胸を張って見せたのであった。
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