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 あらかじめ見つかるかもしれないと身構えていた者と、何となく何かいそうだなという気がしていただけで、何の心構えもしていなかった者とではその後の反応が全く異なる。

 マインはまず、何故窓の下に村の子供がしゃがみ込み、聞き耳を立てているのだろうかと考えてしまい、子供らは捕まっては溜まらないとばかりにその場から一目散に逃げ出した。


「えーっと?」


 首を傾げて考えることしばし。

 一体子供らがここで何を聞き、その情報をどこへ持って行くというのか。

 そもそも彼らをこの場へと生かせたのは一体誰であるというのか、と考えたマインはやがて一つの結論にたどり着き、沈痛な面持ちになると様子を見守っていた村長達の方を向いた。


「村長、少しばかり拙いことになった」


「そ、そうなのか?」


 いきなり拙いことになったと言われても、村長には何のことなのか分からない。

 しかしマインの表情からしてよくないことが起きようとしているということだけは察したようだった。


「暴走される前に制御しなけりゃどうなるか分からない。俺は自宅に戻る」


「う、うむ?」


「村長はとりあえず領主様に報告を上げて支援を求めるしかないだろう。村の男達だけで何とかすると言い張るなら止めはしないが」


 相手は人類に敵対する存在であり、さらに残忍な性格をした魔物である。

 男と見れば殺して食い散らかし、女と見れば攫ってなぶるような存在であるのだが、個体の能力だけを見るならば大した相手ではない。

 数を頼りに押し込まれれば大変なことになるものの、同数かそれ以上の人数を動員することができるのであれば、戦う訓練を受けていない村人であっても対処できない相手ではないのだ。


「やれると思うかね?」


「さて、それはどうだろうな」


 村長の問いかけにマインは正直に答える。

 マインの見立てでは、ゴブリンの数はおそらく十数匹くらい。

 村の男手をかき集めれば、それくらいの人数はどうにか集まるはずだ。

 この見立て通りに事が進めば、ゴブリン達を今の段階で駆除するということ自体はできなくもない。

 問題はその際に、村にどれだけの被害が出るのか分からないことであった。

 全くの無傷で駆除に成功するのであれば、特に言うことはない。

 しかし、ケガ人が出ればそれだけ村から一時的に労働力が失われるということで、。人死になど出ようものならばその人数分の働き手が永久に失われてしまうのだ。

 これは辺境の村にとっては大きな被害であり、程度によっては村の存続自体が危ぶまれるような大問題なのである。

 この時点で既に村人一人を失い、二人をさらわれてしまっている状態で、村長としてはそれ以上の人的被害はとても許容できるようなものではなかった。


「足が速い奴を領都へ走らせよう」


 辺境の村に、騎馬などという便利なものは備えられていない。

 元々、馬自体が高価で貴重な生き物であり、用いられているのは主に軍や都規模位の場所であり、村で走る動物と言えばロバか牛がほとんどであった。

 これらは非常に足が遅いので、緊急の際にはあまり役に立たない。

 それ故に緊急を要する場合は、足の速い村人が領都まで走るしかなかった。

 間に合わないだろうなと、マインは挨拶もそこそこに村の集会場から外へと出つつそんなことを思う。

 どれだけ足の速い者が領都まで走ったとしても、それなりの日数がかかる。

 さらに道中は野盗の類や魔物が出没するような非常に危険な場所なのだ。

 村長とてその辺りのことはよく承知しているはずで、複数の使いをばらばらに出発させるのだろうが、領都までたどり着ける確率はそれほど高くはない。

 首尾よく領都へと到着できたとしても、そこから先はまた時間がかかる。

 いくら領民と言えども領主は貴族であり、村人は平民に過ぎない。

 身分差を考えれば直接お目通りを願うことなどできるわけがなかった。

 ではどうすればいいのかと言えば、領都にある領軍の詰所か都の役所に話を持って行くしかない。

 ここで訴えが受理されれば話が上の方へと流れていく。

 ただここもスムーズに話が運ぶとはとても言い難い場所であった。

 何せ領主に問題を解決して欲しいと願う領民の数は多数に上る。

 マイン達の村が直面している問題と、同じような問題を抱えている村とていくつもあるはずなのだ。

 そういった問題の数々を人の身でしかない領主が瞬時に全てを解決してみせることなどできるわけがなく、役所にも詰所にも長蛇の列ができるような有様で、皆が自分の番がくることを待っているような状態なのである。

 さらに話が通ったからと言って、すぐに軍が派遣されるのかと言えば、それもまた難しいだろうなとマインは思う。

 軍は領都の守りであると同時に、これを動かせば莫大な量の金銭を喰い潰すような存在なのだ。

 それは長期間の渡って動員し続ければその分だけ、必要なコストを増大させていくのである。

 そんな厄介で貴重なものを、大した収入も見込めない辺境の小さな村に派遣してくれるだろうかと考えると、よほど領主が人徳にあふれた人物でない限り、まともな損得勘定ができるのであれば、わざわざ動員しようとは考えないだろう。

 ただ領主も領民が困っているというのに何の手も打たずに放置していれば、領民達の心が離れて行ってしまい、領地経営に支障をきたすだろうということは理解している。

 少数の兵を動員しての調査や警備。

 いよいよ危険度が増してきた場合は、まずは冒険者を何人か依頼によって動員して、ゴブリンの駆除に当てつつ村人の避難を行う。

 それくらいが関の山なのではないかとマインは考えた。

 村人は大きな被害を受けはするが、何人かは命を拾うであろうし、領主はできる限りの手は打ったと主張することができる。

 いずれにしても覚悟はしておかなければならないのだろうなとマインは憂鬱な気分でそう考えた。

 のんびりと過ごすには、悪い村ではなかったのになと思いつつ、マインは自宅に到着すると入り口の扉を開く。


「マイン! いい所に帰って来た!」


 途端に家の中からマインを出迎えたのはリドルの元気な声と、荒らされたと表現する程には酷くはないものの、明らかに物色されたことが分かる室内の様子。

 集会場に村の子供達を差し向けたのはやはりリドルだったかとマインは溜息を吐きつつ、ここからどのような形で話をどの方向へ持って行くべきなのかと考え始めるのであった。

書き続けるためには燃料が必要です。

そして書き手の燃料とは読み手の方なのです。


というわけで。

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