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Let's go back to アキハバラ!!  作者: 橋田至
プロローグ
4/20

面接に来ているんだがブラック企業かもしれない

昔、スイートナイトメアってバーがあったんですよ

「こちらのビルの3階で面接しますね。」


神田明神方面へ三八木(みやぎ)ゆうなに促されること徒歩10分ほど。

中央通りを渡り、パーツ通りで初めて見るメイドさんの群れに心を惑わせつつ、

土曜のごった返すアキバを横切ってたどり着いたのは6階建てほどの雑居ビルだった。

1階にはステーキハウスが入っており、お昼ちょい前のこの時間でぼちぼちと列ができ始めている。


「ここ美味しいんですけど、女性にはちょっと量が多いんですよね。

神坂(こうさか)さん、お肉好きならオススメです。」


そう言って彼女は脇の通路に入っていく。

はじめもゆうなの後ろに素直についていく。


通路の入り口にあるテナント一覧では、1階のステーキハウスの他に、

なにやらコンセプト系のカフェやバーが入っているようだ。

そして3階には(株)リリコスソフトの文字があった。


そんな風に内装を眺めていると、チーンと音がした。

どうやら三八木ゆうなが呼んだエレベーターがすぐ到着したらしい。


「どうぞお入りくださいね。」


促されるままに二人も入れば満員感が漂うエレベータに乗り込む。

この微妙な接近にはじめはまたドキドキしてしまうのだった。


(どんどん緊張してきた……)


人生初の秋葉原、人生初のアルバイトの面接、人生初の美女と超接近。

何かすごいことを忘れている気もしたが、童貞(はじめ)の緊張はピークだった。


チーンと再びエレベーターが音を立てる。


「こちらへどうぞ。」


エレベーターを降りたらロビーと言うにはあまりにも狭い一間のフロアに一枚の扉。

無造作にワンプレート『(株)リリコスソフト』と表示されている。


転職になれたものなら多分ここで『あっ……(察し)』となるだろうが、

はじめは三八木ゆうなに促されるまま開けられた扉をくぐった。


(……バー?)


クグッた先は想像としていた会社のオフィスと違っていた。

未成年のはじめはまだ飲み屋など行ったことないが、それはドラマや映画で見るバーのように見える。

そして内装がどこかハロウィン的なゴシック的な感じの内装だった。


天井には手作り感のあふれるシャンデリアのようなものが垂れ下がり、

オバケやらドラキュラの切り絵のような壁紙が店内を賑やかしていた。

部屋は6畳の部屋を3つ分くらいより少し大きいくらいだろうか?


少し薄暗い部屋で、部屋の左手にはスナックなどにあるボックスソファがあり、

その前の机には何やらそれなりの大きさディスプレイが2台ほどあり、

机の下にあるのかPC本体と繋がっているようだ。


ディスプレイは入り口に背を向けているのでこちらからは見えないが、

ディスプレイの灯す淡い光の向こうで、

何やら毛布の塊と「グゴー」という音がしており、どうやら誰かソファで寝ているようだ。

カボチャやら燭台やらも転がっている。


右手はいわゆるカウンター。

ただしカウンターにはラップトップPCやタブレットが置いてあり、椅子もバーのおしゃれな椅子ではなく、

高そうなオフィスチェアが一つとゲーミングチェア、それにいわゆるパイプ椅子が並んでいる。

カウンターに届かせるためか、椅子には座布団やクッションが重ねて積んである。


カウンター奥のスタッフスペースも淡い光が見えることからにもPCがあるようだ。

カウンター正面の棚、通常のバーであれば酒瓶が陳列されているスペースには、

何やらファイルされた書類が並び、上の方の一部だけバーの名残であるお酒が少し残っていた。


更にカウンターの先の方の方にはトイレともう一つ謎の扉。

バーだった頃であればおそらくスタッフルームか何かだと思われるスペースだが、

そこは黒い壁と黒い扉が一枚。

扉には彼岸花に止まるアゲハ蝶の絵が描いてあった。


はじめもここに来てようやく、


(あれ?これ大丈夫?)


と、思い至るくらいには冷静さを取り戻す。

が、


「それではそこにおかけください」


と、オフィスチェアを引き着席を促す三八木ゆうなに微笑まれると、

先程の疑念もどこへやら素直に従ってしまうはじめであった。


三八木ゆうなはそのままカウンターのスタッフエリアに周り、

はじめの対面に佇んだ。

その絵面は傍から見れば、IT系のアルバイトの面接には見えない。

どうみても飲食店のそれだ。


三八木ゆうなの雰囲気もあり、コーヒーでも出されたら、

カフェアンドバーなのかと思ってしまう。

しかし、スっとカウンターから三八木ゆうなが取り出したのは、

メープル社のタブレット端末myPadだった。


「それでは面接をはじめさせていただきますね。

改めて、自己紹介いたします。

弊社、リリコスソフトの代表している三八木ゆうなです。

本日はお越しいただきありがとうございました。」


三八木ゆうなが頭を下げる。


「あっと、こ、神坂(こうさか)はじめです。」


あわてて名乗り、はじめも立ち上がろうとする。


「あっ、座ったままで大丈夫ですよ。」


やんわりと制止。


「こちら名刺となりますね。」


スッと社会人らしい仕草で差し出された名刺を、

はじめは産まれて初めてのぎこちない仕草で両手で探るように受け取る。


モノクロの彼岸花とアゲハ蝶のイラストに、

(株)リリコスソフト代表取締役社長の文字と三八木ゆうなの名前があり、

はじめはまじまじと眺め、改めて驚く。


(こんな若いのに?!)


「今、こんな若いのにって思いましたよね?」


はじめの心を読むようにそんな言葉を三八木ゆうなは発する。


「あ、いえ……」


ハッと、なんとも言えない感じで、はじめは顔をあげ口ごもる。


「いいんです。

慣れっこですから。

それにこんなところが会社です。

もう何件もアルバイト断られちゃってるんです。」


ビジネス口調だったのは最初の挨拶だけで、

三八木ゆうなは年相応に見えるフランクさで面接という名のぶっちゃけトークを開始した。


「この会社も1年ほど前に作ったばかり、

最初は私の1Rアパートでそこでグースカ寝ているプログラマーと二人でワチャワチャ仕事していたんです。

彼女がプログラムを組んで、私がその他の法人化とか税務署に書類出したりとか、広告出したりとかのそれ以外全部をやっていました。

ですので、社長と言っても名ばかりで、実質ただの雑用掛かりなんですよ。」


と、困ったようなはにかんだ笑顔を見せる。


(あ、かわいい……じゃない!)


ハァだのヘェだの適当に相槌を打っていたはじめも我に返る。


「えっと、ここって……」


はじめはここはどういう会社ですかという再確認をするつもりだったが、

三八木ゆうなは違う意味に捉えたようだ。


「あぁ、この場所はですね。

一応私達にもスポンサー?親会社?後見人?みたいな人がいて、

その方は秋葉原でメイドカフェとか色んなお店をやっている人なんですが、

物件空いたからここ使ってと言われて使っています。

まぁ、来てみたらどうも前に入っていたのはコスプレ系のバーだったようですけど……なんかゴスロリ系の?

徐々に片付けてはいるのですが、手がおっつかなくて、所々まだそのままなんです。」


「はぁ、なるほど……」


「従業員も増えたので、徐々に色々片していきたいところです。

なので、今日からよろしくお願いしますねっ!」


と、ニッコリ。


(ん?……)


「いやいやいやいや!まだ、僕何も喋ってないですがっ!

てか、履歴書とか普通見たりしませんかっ?!

あと、条件とか!!!」


流石にはじめが慌てて声を上げる。

ボッチ手前だったはじめにはめずらしい大きな声で!


「んー、大丈夫だと思いますよー。

駅前の出来事でピンと来ましたから」


「ちょっ!まだ、出会って30分も経ってないですよ?!

それに駅前ってなんですかっ!

ん……駅前?」


(あれ?そういえばなんか変なことなかったか駅前で)


はじめは唐突に記憶を反芻させようとするが、


「条件については、学生さんとのことで、学校上がりに時間は後ほど要相談で、

時給についてはこれでどうですかね?」


と、すらっとした白く美しい指が2本立てられている。


「え?2野口さん?」


「北里さんでも夏目さんでもいいですけど?」


(なにそれ破格ッ……?!)


ズキャーーーーンと心で何か撃ち抜かれる。

ざっくり換算で、もしフルタイムで働いた場合だと月32万となる。

パートなので大分そこより落ちるがそれでも学生バイトでは破格の時給だ。

目が¥になっているはじめにさらに追撃。


「寮も格安で利用できますよ。

あと、賄い(まかない)もでます!」


「賄い?」


「はい、このカウンターにちょっとしたキッチンがあるので私が作ります!

下手の横好きなんですよけどね。」


ペロッと舌を出しはにかむ三八木ゆうな。


「ぜひ頑張らせてください!」


その仕草を見た瞬間、童貞(はじめ)は目をハートにしながら、

席を立ち頭を下げていた。


「え?よかった!

ありがとうございます!」


顔の前で手を合わせて破顔する三八木ゆうな。


(あぁ、いい……)


こんな話に勢いでOKしたにも関わらず、はじめは感涙する勢いでその笑顔を眺めるのであった。


「それでは、早速なんですが、適正というかテストのようなものするので、

こちらに来ていただけますか?」


そう言うと三八木ゆうなはカウンターから先程の謎の扉の前へ移動して、はじめを手招きする。


「テスト?」


(採用が決まった後に?)


疑問に思ったが素直に空いた扉の奥へ続いていく。


そこは内装のごちゃごちゃした先ほどのエリアと違い、

無機質なコンクリ丸出しの部屋だった。


部屋にはゲーミングチェアが数脚雑に並んでおり、

その椅子の上にヘッドマウントディスプレイが置いてある。


「こちらにお座りくださいね。」


「ハァ」と、椅子の一脚に促さるままに着席。


「じゃあ、これもお願いしますね。」


と、ヘッドマウントディスプレイを装着させられる。


「あの、これから何を?」


真っ暗な画面を見ながら、流石にはじめが疑問を口にする。


「はい。弊社で作っているサービスを体感していただきます!

これから一緒に働く中で、サービスを知っておいてもらわないと困りますので!」


「あぁ、なるほど……?」

たしかホームページにはエンタメ系のソフト会社だった記憶があるので、

VRゲームのサービスなのかな?とはじめはなんとなく思う。


「向こうに着いたら案内するよう、はじめさんの先輩メンバに連絡しておくので、安心してくださいね。」


(ん?向こう?先輩?安心?)


「ちなみメイドさんですよ。」


「え?メイド?ちょっとこれってなんなん……」


最後まで言わせてもらえなかった。


「それでは行ってらっしゃいませー!」


その言葉とともにゴーグルからポンと音がなると同時にディスプレイが光だし……


神坂はじめはこの世から姿を消した。


長くなったので2つに分割

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