美女にぶつかられたら恋に落ちなければいけない
恋はいつでもハリケーン(言いたかっただけ
人が飛んでいた。
ダイビルとUDX前の広場の上空を……
それもただの人じゃない。
ネコミミメイドだった。
絵に書いたようなテンプレートネコミミメイドだった。
だがしかし、ネコミミと尻尾が生き物のようにフワフワで作り物に見えなかった。
そしてなぜかスカートの中は見えなかった……
何故だ!(血涙
彼女は広場の空を線路側から、ダイビル方面へどういう理屈かフヨフヨ飛んでいく。
そしてこちらを見上げている人間がいることに気づいたようで、
「にょっ!」
と、大きく目を見開き、驚きの表情をこちらに向けた。
『……』
お互い驚きの表情のまま見つめ合うことしばし……
「っな!……」
と、はじめが声をあげようとした時、ドンッと、横合いから急な衝撃を受ける。
そしてそのまま、ドスンと倒れ込んだ。
(痛ッ!重ッ!柔ッ!暖ッ!)
はじめの思考に一度に訪れる様々な情報、一瞬のブラックアウトの後、ハッと気づけば、
ふにん
と、柔らかい感触に全身が押しつぶされていた。
その初めて味合う心地よさに、痛みなど忘れて頭が真っ白になる。
仰向けに倒れた自分の首から下の方から声がした。
「大丈夫ですか?」
美女がいた。
可愛かった。
柔らかった。
甘い香りがした。
産まれて初めて女性を抱擁していた。
汽笛?ケトルの湧いた音?子供の金切り声?
頭の奥でそんな音が鳴り響いたと思った瞬間、
はじめの意識はパニックアウトした。
……
「ダッダッダッ!ケッケッケッ!」
と、パニックした頭で何か蛙と鶏を混ぜたような声を出しながら、
はじめは女性を立たせる。
ちょっと何言ってるかわからない。
「あの、ごめんなさい。お怪我はありませんか?」
お互い居住まいを軽く直したところで、女性から声をかけられた。
(姫がいる……?)
フリルの付いたチャコールグレーのブラウス。
モカ色のクラシックなデザインのサスペンダースカート。
亜麻色と表現するべきショートボブ。
そんなどこか姫というより高級住宅街のお嬢様を思わせる女性が、
心配した顔で大きな目をはじめに向ける。
「アッ……、ダッダッダッ、ダイジョブダスッ!
イッ、イタクナイデスルンッ!」
テンパリ裏返り噛みながらながら慌てて返事をする。
実はこの時の衝撃で頭に瘤ができていたのだが、
緊張で痛みは飛んでいた。
「よかった……」
それを聞くと女性は小声でつぶやき、安堵の微笑みを浮かべる。
(女神ッ?!)
改めて女性と対峙する。
年の頃ははじめより少し上くらいだろうか?
声にも仕草にもどこか落ち着きがあって上品な艶がある。
まるで人形のような細い肢体。
だが、けして不健康ではない、活きた輝きがその肌と笑みには浮かんでいた。
見惚れる……はじめは産まれて初めてそんな体験をしていた。
「あっ!」
ポーッとしているはじめをよそに、女性はひょいとかがみ、何かを拾い上げる。
「あっ、それ……」
はじめが声を上げる。
彼女が拾い上げたのは、はじめのスマートフォンだった。
「あらっ、B-ANDのまおちゃんの……」
と、彼女は拾ったスマホの裏を見て声を出す。
B-AND、昨年放送された高校生ガールズバンドを題材にした日常系コメディアニメ。
クオリティの高さに定評のあるスタジオの作品なだけに、
その作画だけではなく劇中で使用された楽曲も高い評価をうけた作品で、
作品が終了して一年ほど経つ今なお、チャートランキングの上位に顔を見せる人気作品である。
彼女たちのコスプレめいたキュートな衣装も人気の要因。
そのような萌要素のグッズが溢れる中で、はじめは自分のスマホの裏に、
人気キャラでベース担当のまおちゃんのステッカーを張っていた。
ただし、ベースと『MAO』のサインだけのモノクロの渋いステッカーで、
一見するとアニメのステッカーには見えず、ただのバンド好きにも見えるデザインのものだった。
このあたりにもはじめの高校時代の妙なプライドの片鱗が見える。
(わかるのっ!)
はじめは先程とは違う歓喜の衝動を感じた。
あえて選んだステッカーに反応してくれる同胞を見つけた歓喜。
彼はまさにこのときセロトニンで満たされてたことだろう。
さらに、ひょいと何気ない感じで、女性はスマホをひっくり返し、ディスプレイ側を見る。
「あらっ?ここって……」
女性はそこでちょっとだけ訝しむような表情と声をあげる。
そこには先程まではじめが見ていた画面が表示されている。
ディスプレイには地図アプリで現在地とこれから面接予定の場所までの経路が表示されているはずだった。
「もしかして、神坂はじめさん?」
「あっ、はい。」
見知らぬ女性に突然自分の名前を呼ばれ、はじめは今度は困惑の声で応える。
そんなはじめの様子を和らげるように女性は穏やかな笑みを浮かべ言葉を続けた。
「はじめまして、私は本日神坂さんが面接予定のリリコスソフトの代表を勤めております。
三八木ゆうなと申します。よろしくおねがいしますね。」
ペコリと一礼の後、ニコリと再び女性は笑みを浮かべる。
「へっ……?」
はじめは間の抜けた声を上げた。
「ちょうどよかった駅から近いですかちょっとわかりにくい場所なので、案内いたしますね。
道々少しお話でも……」
と、言いつつ、彼女はくるりと方向を転換して歩き出そうとする。
「あっ、え?しゃちょうさん?」
自体の把握にはじめはまだ時間がかかっている。
くるりと彼女、三八木ゆうながはじめに振り向き、そんなはじめの顔を見た後、
トトト……と、はじめの背後に回り込む。
「ほらっ、ねっ!」
軽い口調で背中をポンと押されて促される。
(ほれてまうやろー!)
この瞬間、神坂はじめは完全に恋に落ちた……
ネコミミメイド、イメージCV○の人
B-ANDのイメージはけいおん+SILENT SIREN+BAND-MAID