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ルーシィ、がんばる

 ソルフィスとシャナトリアのためにとびっきりの魔導装束(ドレス)をつくりたい。

 そんなルーシィの熱い思いにマガネ婆ちゃんの口添えもあって、仕立て屋マシューは嫌々ながらも指導協力することになった。


「帰ってきたばかりだから掃除もできてないの。ドレス作りの前には、まず仕事場を清めないとね」


 そう言ってマシューがルーシィに対して最初に指示したことは、雑巾(ぞうきん)作りであった。

 床に散らばってるボロ布を集めて雑巾をつくれという。


「らじゃ〜っ!」

 ルーシィは嫌な顔ひとつせず元気よく指示にしたがった。



 ルーシィがせっせと作業している間、マシューはカウンター席に腰掛けてヴィヴィアンが持ってきた二つのドレスを手にとって眺めていた。


 ヴィヴィアンの魔導装束──ワインレッドのワンピースはシンプルながらも機能美にあふれた優雅なつくり。これはマシューの作品だ。


「ヴィヴィアンちゃんアナタ、以前にアタシと会ったことあるわよねぇ?」

 マシューは隣の席で見学しているヴィヴィアンにたずねた。

「うん……実は。そのドレスの採寸のときに一度だけ」

 マシューはうなずき、過去を思い出して笑みを浮かべた。

「このドレスのことは覚えてるわ。詳細な図面まで持ってこられたもんねぇ」


 ヴィヴィアンは自身が描いたミミズが這ったような壮大な設計図を、ルーシィが丁寧に描きなおしてくれたことを思い出した。


「あ、あの図面もルーシィが描き直してくれたモノなのよ! あたし絵がヘタクソだから」

「おかげで仕事は楽だったわ。お客の望みのカタチに少しでも近づけるのが、アタシらの役目だからね」


 マシューはルーシィの魔導装束も手にとって眺めた。ルーシィのドレスはヴィヴィアンのドレスを模倣(もほう)して作られたものだ。


「……」

 細かいところに布地の傷みや糸のほつれが出てしまっている。このドレスが聖山越えから聖地巡礼の長い旅に耐え、ルーシィの体を包み守ってきたのだ。


「不思議なの。マシューさん、あたしのドレスってほとんど傷がなくて新品みたいなの。山登りに戦闘までしてきたのに……なんでかしら?」

「アタシの作ったドレスは素材がいいからね。ただそれだけのことよ」


 マシューは素っ気なく答えるのだが、彼はルーシィのスカートの傷んだ部分をぽんぽんと叩きながら微笑んだ。


「……でも悪くはないわね。悪くない」


 独学にしてはよくできている。

 プロの目から仕上がりを見れば、それにかけた努力と情熱を推し量ることができる。自分も通ってきた道だからだ。

 マシューはこの傷んでくたびれたドレスが気に入った。


 ルーシィは背中を丸めてせっせと雑巾を作っている。

 ひょっとすると本当に、全身全霊の情熱をかけてこの子を育ててみる価値があるのかもしれない。



   * * *



「ぞ〜き〜ん、で〜け〜た〜!」

「にゃにゃにゃにゃ〜!」

 雑巾が完成したルーシィは間近で見ていた黒猫とバンザイハイタッチした。


「オゥーケーィ! 見せてみなさ〜い!」

 マシューがやってきてルーシィの作った雑巾を見る。速攻でダメだしがきた。


「ルゥーシーィ! この雑巾はなに! 薄っぺらいし、サイズも小さいわ! これじゃ長い掃除に耐えられないわよ! もっと手を包み込むくらい大きく! 分厚く丈夫なものをつくりなさい!」

「はいぃぃいぃ!」


「いいことルーシィ、アタシ達はデザイナーなのよ! コレは何のために作られるのか、使う人の意図を第一に考えてデザインしなさい! 見てくれはその次でいいわ! これは大事なことよ、肝に銘じておきなさい!」

「はひぃぃいいぃぃっ!」


「はい、最初からやりなおし!」

「はぃいっひ、ふおぉぉおぉん!」

 ルーシィ、リテイクの洗礼を受けて無我夢中で雑巾を作りなおすのであった。


 そのやりとりを見てヴィヴィアンはぷんぷん腹を立てた。

「なによ! そんなに大事なことなら、最初から言っとけばいいじゃない! やり直さずに済んだのに!」

「にゃーにゃー! そーだそーだ!」


 ヴィヴィアンの言うことはもっともである。注文の仔細を最初に伝えておけば手戻り無くスムーズに済んだハズだ。

 しかしマシューはチッチッと指をふる。


「世の中、そう甘くないのよヴィヴィアンちゃん。アタシ達にとるべき道が用意されていて、どれを選べば正解なのか。それが最初から分かってるなんてこと、滅多にあることじゃないのよ!」

「なんですってぇ」

「にゃんだとー」


「だからアタシ達は考えるの! ただ漫然と手を動かすのではなくて、アタシ達は思考して作るの! それがデザイナーなのよ!」

「くっ……!」

「にゃにゃ……!」

 鬼気せまるマシューの迫力に、ヴィヴィアンもティノも彼が巨人のように見えた。


「さぁ、ルーシィ! 考えなさい。思考して作りなさい。歯を食いしばって!」

「げぼっふ、ふっ、ふおおぉぉおぉお!」



   * * *



「ぞ〜き〜ん、ま〜た〜で〜け〜た〜!」

「にゃにゃにゃにゃ〜!」

 雑巾が完成したルーシィは間近で見ていた黒猫とバンザイハイタッチした。


「ルゥーシーィ! 雑巾ができたら、実際に使ってみるのよ!」

「らじゃ〜っ!」

 マシューの指示でルーシィは作りたての雑巾を使ってそこらじゅうを手当たり次第にフキフキした。


 その様子を見ていたヴィヴィアンがぶーぶー文句を投下した。

「なによこれ! ただルーシィを掃除のためにコキ使ってるだけじゃない!」

「にゃーにゃー! そーだそーだ!」

 しかしマシューは反論する。


「道具はね、使ってみないと分からないことがたくさんあるのよ! 実際に使ってみて、改善点を発見して洗練していくの! それは魔導装束(ドレス)でも同じ! アタシが教えているのは作り手にとって大切な心構え。これなくして、この子の成長はありえないのよ!」

「なんですってぇ」

「にゃんだとー」


「さぁ、ルーシィ! 雑巾の使い心地はどう? 実際に使ってみてどうなのッ!」

「はあぁあぁ〜! コイツはつかえるヤツですぅ〜!」

「よおおぉぉしッ! 今度はこっちの壁を拭いてみるのよッ」

「ふおぉぉおぉん!」


 マシューはルーシィに縫い方のテクニックをレクチャーしながら、続けてどんどん雑巾をつくらせた。

 そのあとヴィヴィアンも巻き込んで全員で掃除することになった。

「なんでよ!」

「にゃーにゃー!」

 こうしてマシューの軍隊式教育はアトリエがピカピカになるまで続いた。



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