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黒猫、おさんぽする

番外という位置付けで後日談(茶番劇)を数話用意する予定です。

 ソルフィスとシャナトリアの姉妹がアゼル魔導学院に入学してから数日が経過した。

 学院生活が始まって以来の初めての休日を迎えた。

 寮に閉じこもり優雅で退屈な刻を過ごしていたら、唐突に黒猫ティノが立っちして宣言した。


「オイ、しょる、ちゃな! オレしゃま、おさん……パトロールに行くぞ!」

「お散歩?」

「おさんぽじゃねー! パトロールだぞ!」


 不思議そうな顔をしているソルフィスの後ろからシャナトリアが覗き込んできた。

「なによ、ぱとろーるって?」

「そりゃおめー、パトロールいうたらおめー、そのへんをウロウロして異常や問題がないか見て回ることだぞ。いいかちゃな、オレしゃまは街の平和と安全を守る使命があるのぞ」

「初耳なんだけど?」

「それ今決めたの?」

「ハイ」

 黒猫はすぐに「にゃー!」と飛び上がった。


「ハイじゃねー! おまえらの知らん昔からにゃ、オレしゃまは正義のヒーローにゃんにょ! オレしゃま街の平和を守らにゃにゃらんにょにゃにょにゃわかったかゃ!」

「よしよし、おちつけティノ」

「つまり、お散歩がしたいのね?」

「ハイ」


 出かけようとするティノのためにシャナトリアが部屋のドアを少し開けてあげた。ティノはちょっとムスっとした顔つきでトコトコ歩き出す。

 日常のことは細かいところまで姉妹が手取り足取りお世話してくれるので不自由はない。それはティノにとってありがたく感謝したいことではあるが、姉妹に対する幾ばくかの申し訳なさと少しばかりの窮屈さを感じることもあるのだった。


 仔猫の姿になっても自立していたい。そんな孤高な思いがティノをお散歩へと駆り立てるのだ。

 というわけで黒猫は付いてこようとする姉妹に釘を刺した。


「いいか、オレしゃま一人で行くからの。おまえらついてくんにゃよ」

「ひとりで?」

「大丈夫なのティノ?」

「にゃー、オレしゃまを誰だと思っておるのか! いいかおまえら絶対ついてくんにゃよ。絶対ぜったいだぞ。わかったにゃ?」


 悠々と歩み去るティノを少し心配そうに見送りながら、ソルフィスとシャナトリアは互いに顔を見合わせてうなずいた。

 二人とも考えていることはいっしょだ。



   * * *



 寮を出た黒猫はおもての敷地をちょこちょこと歩く。

 その後ろから気づかれないように、物陰からそうっとティノの様子を伺う姉妹の姿があった。


「ソル、近くない? あの子にバレちゃうんじゃない?」

「そうかなぁ? 大丈夫だよ……あ、誰か来るよ!」


 ティノの前に現れたのはロゼッタだった。

 彼女も通り掛かりだったのだろうか。軽く挨拶を交わすと、ロゼッタとティノはその場にしゃがみこんで話し始めた。


「なに話してるんだろう……?」

「さぁ……?」

 ロゼッタとティノの会話の内容が気になる二人だったが聞き取れるような距離ではない。

 二人はかなり話し込んでいる。ロゼッタが何かの相談事をティノに持ち掛けているように見えた。

 彼女は落ち込んでいるようであり、眼差しも真剣だ。悩み事の相談だろうか。


「なにかしら?」

「むむむ、気になるぅ」

「ダメよソル、こういうのは軽々しく首を突っ込んでいいコトじゃないわ」

「ぬぬ……わかってるけどさぁ」

 すごく興味をひかれつつも二人は静かにティノたちの様子を見守り続けた。

 やがてティノが受け答えする反応でロゼッタの表情はぱっと明るくなった。悩み事が解決したのだろうか。



   * * *



「うんっ。ありがとうティノ、じゃあね!」

「おーぅ」

 ロゼッタはティノに手を振って別れ、嬉しそうに駆けて行った。



「ふー、さっそくひと働きしてもたぞ。やはり、おさんぽでて正解だったかー」

 再びティノはトコトコと歩き始めた。敷地をくまなく歩いてゆく。

 学院の平和は守られねばならぬ。オレ様がやらずして誰がやろうというのか。ティノの決意は固い。

 そうこうしているうちにティノはまたしても何者かに声をかけられた。


「ティ〜ノ〜ちゃ〜ぁ〜ん」


 にゃにゃにゃ、この間抜けな声は。

「るしぃ!」

「ルシィじゃないよ〜ルーシィだよ〜」

 見るとベンチに腰掛けたルーシィがにっこり笑ってこちらに手招きをしていた。通り掛かりのティノを見つけて声をかけたらしい。

 黒猫はてててーと駆け寄った。


「るしぃ、こんなとこでなにしてだ?」

「ひなた〜ぼっこ〜だよ〜」

 ティノもベンチの上に飛び乗って、彼女の隣にちょこんと座った。


「ティノちゃんこそ〜なにしてんの〜?」

「オレしゃまはな、おさん……んっんっ、パトロールしてたのぞ」

「おさんぽかぁ〜。いい天気だもんねぇ〜」

「パトロールだぞ! オレしゃま街の平和をまもってるわけだが!?」

「すごいね〜ティノちゃん。街の平和をまもるってぇ〜、どんなことするのぉ〜?」

「ええとにゃ、あっちいって、こっちいって……」

 ティノは街の平和と安全を守る取り組みとして、お散歩の予定コースを説明した。


「オレしゃまさっきも、ろじぇったのお悩み相談をバッチリ解決してきたばかりなのぞ!」

「ロゼッちゃんの〜? すごぉ〜い〜、ティノちゃんお悩み相談もするんだね〜」

「にゃははは。それくらいできねば、街の平和はまもられんかやの」

「さすがぁ〜ティノちゃんは〜みんなのヒーローだねぇ〜」

「ふ、んふふふふー。そうだの、オレしゃまヒーローだかやの。るしぃ、おめー分かっとんではないか」

 得意げに鼻息をならすティノにルーシィも嬉しそうだ。


「じゃあティノちゃん〜。ルーシィのお悩みもきいてくれる〜?」

「にゃにゃ?」

 ルーシィは指をつんつん突き合わせてモジモジしている。

「おお、るしぃ、おめーもかー。やれやれこれだからヒーローはつらいのよにゃー。どれ、言ってみろい」

 ティノはルーシィの悩み事相談をきいてあげることにした。



   * * *



「にゃにゃ、あの二人の服を作りたいだとー?」

「うん〜。ルーシィはぁ〜、ソルちゃんとシャナちゃんの〜魔導装束(ドレス)をつくってあげたいのぉ」

「つくればええがにゃ」

 ティノの素っ気ない返答にルーシィは「も〜っ」と頬をふくらませた。


「ルーシィはぁ、ちゃんとしたものをつくってあげたいんです〜」

「ちゃんとしたものってなんぞ。るしぃのおさいほうの腕前はすごいんぞ。オレしゃま知っとんが」


 ルーシィの腕の良さを知っているティノはそれを褒め称えたが、それでもルーシィは謙遜した。それどころか、もっと技術を身につけたいと向上心をあらわにしていた。

 ほぉ。なかなか気骨のある奴じゃねーか、とティノは勝手に上から目線で感心していた。


「ソルちゃんとシャナちゃんはね〜、ビビちゃと同じくらい特別だからぁ〜。特別なドレスをつくってあげたいの」

「なんぞ特別って。さっさと要点を話すのにゃ」

 恥ずかしそうにモジモジともったいぶっているルーシィをティノはポコポコ叩いて急かした。

 やがてルーシィ意を決してその思いを口にした。


「ルーシィね、伝説の仕立て屋のマシューさんに〜、お二人のドレスを作ってもらいたいのです」

「でんせ……ましゅ?」

「マシューさんです〜。ルーシィが尊敬する凄腕の魔導装束デザイナーさんなのです」

 その人物の話はティノも以前に聞いたことがあった。確かヴィヴィアンのドレスもその人の作品だったはずだ。

「つくってもらえばええがにゃ」

「も〜っ、ティノちゃんてば〜! それができれば苦労しないのです」


 仕立て屋マシューは世界中を旅する放浪のデザイナーらしい。

 アゼルの城下街にアトリエを構えているものの、年中のほとんどは不在にしているようだ。

 少ない滞在期間のうちに彼の手によってドレスを仕立ててもらったヴィヴィアンは相当運がよかったといえる。


「その仕立て屋を探して、るしぃは仕事を依頼したいんだにゃ?」

「う、うん〜」

 ルーシィはうつむき加減にうなずくが、その瞳の奥に隠された意図をティノはすぐに理解した。


「るしぃ、べつに隠さんでもええのぞ」

「ほえっ〜?」

「オレしゃまにはわかっとんぞ。るしぃ、おめー本当は自分がドレスをつくりたいのだにゃ? そのために仕立て屋ましゅに教えを乞いたいのにゃ。どだ? 違うかゃ」

 ティノに看破されてルーシィは驚いていたが、やがて力強くうなずいた。

「う、うん〜! ルーシィほんとうはね、ルーシィが作りたいの」

「おめー弟子にでもなるつもりなのかゃ?」

「そ、そこまでは〜……」

 再びうつむいたルーシィの顔を黒猫が覗き込む。

 口ごもるルーシィだったが、黒猫に見つめられると自分の気持ちが見透かされているような気がした。


「ティノちゃんはなんでもお見通しなんだね〜。ルーシィはびっくりしたよ〜」

「むふふふふ、オレしゃま天才だかやの。ま、おめーのお悩み事はわかったから、オレしゃまが仕立て屋ましゅを探してやるのぞ!」

「ほんとう〜? お願いしちゃっていいの?」


 ティノはぴこっと立っちして胸をはった。

「おぅ、オレしゃまにどーんと任せておけばええのぞ!」

 ルーシィはとびきりの笑顔になった。



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