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MAGIN ―聖双の魔導士―  作者: カシミア
第四幕 聖双の魔導士
65/78

あたしのお姉さま

―アゼル魔導学院 野外闘技場―



「大丈夫?」

 ソルフィスが近くにいたルミナを助け起こす。

「……参りました。まったく、強いなんてもんじゃない。伝承のとおりだ……」

「そうなの?」

 ソルフィスは終始ぽかんとした表情をしていた。


 シャナトリアも這いつくばるアリステリアに手を差し出した。

「完敗ですわ。お二人を試すようなことをして……、大変申し訳ありませんでしたわ」

 落胆するアリステリアになんて声をかければよいのか、シャナトリアは少し迷ったが、思考より先につい言葉が出てしまった。

「まぁ……あなたも修行して、頑張ればいいんじゃない?」


 この何気ない一言が、どういうわけかアリステリアを大いに感激させた。

「は、はい! 死ぬつもりで頑張りますわ!」

 聖殿の乙女の金言。大先輩の尊い教えだ。アリステリアは感動に打ち震えていた。

「いや……体に悪いから死んじゃダメよ?」

「はいっ!」

 不思議に思いながらもシャナトリアはアリステリアの手を取って引っ張り起こした。


(わたくしの体の心配までしてくれるなんて、なんてお優しい方。それに――)

 シャナトリアのすました顔を見て、アリステリアの身に新たな別の感情が沸き起こった。全身の血が滾って火照りを覚える。

(なんてお美しい方なんですの……)



 双方にケガがなく済んで、ロゼッタもほっと胸をなでおろした。

 これで姉上たちもソルフィスとシャナトリアが"本物"だと納得してくれただろう。

 彼女たちの健闘をたたえてロゼッタは拍手をおくった。ヴィヴィアンも立ち上がって拍手する。カイトもよくわからないがつられて手を叩いた。


「どちらもすごかったわ!」

「にゃはー、これでわかったかゃ? さすがオレしゃま子分だぞー」

「うふふ。ティノちゃん、ごきげんね〜」

 ルーシィはお腹に抱いた黒猫をなでた。

「これっ、るしぃ〜! ナデナデすんにゃ!」



 華麗な決闘が終結して、張りつめた緊張が雪のように溶ける中――


 彼らの背後に忍び寄る影に、誰もがまったく気づいていなかった。


 ただ一人をのぞいて。



「にゃ?」

 ティノは聞き耳を立てるように、ぴこぴこっと耳を動かした。

 んっ、んっ?

 黒猫がルーシィの腕の中でソワソワもぞもぞしだした。

「ティノちゃん? どうし……」

 ルーシィは突然、腹部に衝撃を受けた。

「むぎゅっ!?」


 浅黒いがっしりとした腕がルーシィの腹を後ろから締め付け、抱え上げた。

「ゔおおおぉぉぉー!」

「きゃぁ〜!?」


 いきなりのことで何が起きたのか分からなかった。しかしその声には聞き覚えがあった。

 聖地や異世界でさんざん苦しめられた、あの幻術士の男。ダルハラジムだった。


「なっ!? こ、こいつは!」


 ヴィヴィアンは驚いた。どうしてこの男がこんなところに!?

 ダルハラジムは拘束されて牢屋にブチこまれているハズではなかったか。

 南側の観客席は背後が崖になっている。崖をよじ登ってきて、背後から襲ってきたとしか考えられない。


「は、はなして〜っ!」

「ゔおおぉぉ〜っ、見つけたぞ!」

「にゃー!」

 ダルハラジムはルーシィの手から黒猫ティノをもぎ取って乱暴につかみあげた。


「ティノちゃんを返して〜っ!」

 ルーシィは黒猫を捕らえている男の腕に思い切り噛みついた。

「がああっ!」

 ダルハラジムはルーシィの首根っこをつかんで強引に投げ飛ばす。


「貴様さえ、貴様さえ死ねばああぁぁ!」

 男は呪詛のような叫びをあげながら憎悪にかられた凄まじい形相で黒猫を睨みつけた。

「おたしゅけーっ」


 そこにヴィヴィアンが飛び掛かった。

「ティノをはなせーっ!」

 ヴィヴィアンの燃える指先が男のひたいをつかむ。ジュッと皮膚の焼ける音。

「グガアアアッ!」

 ダルハラジムが怯む。その隙にヴィヴィアンはティノを奪い取ろうとした。

 しかし男は予想外の行動に出た。


「ぐあああぁぁ! おのれえぇぇ、死ねええええいッ!」

 ティノもろともヴィヴィアンを崖下に放り投げたのである。


「あっ……!」



 数瞬の出来事に、離れた場所にいたカイトとロゼッタはこの凶行を止められなかった。

 黒猫と小柄なヴィヴィアンの体はいとも簡単に宙に投げ出されてしまった。


「……!」


 空中でヴィヴィアンはとっさに手を伸ばした。かろうじて黒猫に手が届く。ヴィヴィアンは黒猫を抱きとった。

 しかし直下に地面はない。外縁区画の雑然とした構造物がはるか下に見えるだけだ。


 重力で体が下へと引っ張られる。奈落へと吸い込まれるように。

 落ちて、落ちて、落ちて、叩きつけられて、死ぬ。逃れようのない死がやってくる。


 実際、生命ってのは驚くほどあっけなく終わるものなんだろう。

 死ぬ間際に見るという走馬灯とやらが頭に思い浮かぶことはなかった。

 ただ、最期だという時に、奇妙にも時の流れがゆっくりに感じられる。

 きっと頭が熱くなっているせいの錯覚だ。



 ヴィヴィアンは歯を噛み締めた。後悔や嘆きといった感情はない。


 でも、せめて、ティノだけは。


 ヴィヴィアンは黒猫を胸に抱え込んだ。体が回転して仰向けになる。

 せめて死ぬときくらい、空を見て死んでいきたい。

 きれいな空を見て――



――どうしてなのか。


 目の前に、ソルフィスがいた。


 彼女は腕を必死にのばして、落ちゆくヴィヴィアンに救いの手を差し出す。

 ヴィヴィアンを追って崖から身を投げた彼女もまた落ちてゆくというのに。

 でもそれはまるで、光の羽根がはえた天使か女神のようであった。ヴィヴィアンの瞳にはそう映ったのだ。


(ソル――)


 ヴィヴィアンの背中にソルフィスの腕がまわり、しっかと抱きしめられるとソルフィスは叫んだ。



飛翔彗(フレイア)!」


 次の瞬間、弾丸のように滑っ飛んできた物体をソルフィスの手ががっちりとつかんだ。

 その細い物体は、ソルフィスが異世界で入手した棒切れだった。あの巨大だった大樹が恐ろしく小さく縮んで姿を変えたものである。

 ソルフィスが手にした棒切れがまばゆく輝いたかと思うと、極楽鳥の尾羽のような幾本もの光の尾が滑り出てきた。

 そのとたん、ヴィヴィアンの体の落下が止まった。


「……え? ……え、えっ??」


 ソルフィスの胸に顔半分押し付けられてよく見えなかったが、自分の身に何が起きているのかは分かった。

 体が宙に浮いているのだ。


「もう大丈夫だよ。わたしがついてるからね」

「え……ええぇっ!?」


 宙に浮いた体が、今度は上へと引っ張られる。

 信じられないことだが、確かにヴィヴィアンは空を飛んでいた。

 宙ぶらりんのままの両足がとてつもなく怖いが、確実に身体は上へ上へと上昇している。驚きと恐怖と興奮とがないまぜになった感情がヴィヴィアンの頭のなかを駆けめぐった。



「にゃにゃにゃー!? 飛んでるぞ、しゅごいぞ〜!」

 黒猫がヴィヴィアンの心を代弁してくれたが、彼は単純にこの事態を楽しんでいるようだ。

「ティノ、大人しくしてなさい! しっかりつかまって!」

「……!」

 ヴィヴィアンは目をつぶってソルフィスにぎゅっと抱きついた。


 それがソルフィスの魔力なのだと分かった頃に、ようやく見えてきた大地に両足がついた。

 ソルフィスの体が離れ、視界が明らかになる。


「ティノちゃ〜ん! ビビちゃ〜!」

 ルーシィやロゼッタやカイトが駆け寄る姿が見える。元の場所に戻ってきたのだ。

 助かったのだという確信が安堵に変わると、遅れて恐怖がやってくる。

 ヴィヴィアンは震えが止まらず涙がでてきた。


「あぅ……ひぐぐっ……、ふわあああぁん!」

 緊張の糸が切れて堰が崩壊したように泣き出すヴィヴィアンをソルフィスは優しく抱きしめた。

「わあぁぁぁ、ソルお姉さまぁぁ! 怖かったよぉ!」

 ヴィヴィアンはソルフィスの胸のなかで泣きまくった。

「大丈夫。もう大丈夫だよ、ビビ」



「ビビちゃ〜! よかった〜!」

 駆けつけたルーシィもヴィヴィアンに抱きついて泣いた。

「ありがとう、ソルフィス。すごかったよ本当に。空も飛べちゃうんだ……」

「え?」

 ロゼッタの賞賛の声にソルフィスはぽかんとしていたが、今ごろになって自らが繰り出した魔術の力に気がついたようだ。

「……あ、はは。飛べた、みたい……。えへへ」

 ソルフィスは照れながらうなずいた。


 無我夢中で体が動いたソルフィスは、空飛ぶ魔力もまったく意識していなかった。そのような力など、記憶になかったからだ。

 ソルフィスが握りしめていた棒切れは、光が消えて元の状態に戻っていた。それをソルフィスは驚きをこめて見つめていた。


 ふーん! ヴィヴィアンの手の中から黒猫が飛び出した。


「まったくー! しぬとこだたぞ!」

「あっ、ティノ! 大丈夫だった?」

「おめらのおかげで、このとーりピンピンだぞ! ありがとにゃー」


 黒猫はテテテっと駆け出して、男に襲われた場所に走った。



 そこに、見たことないデカい氷塊が鎮座していた。

 氷漬けのオブジェと化したダルハラジムの変わり果てた姿である。

 男の凶行を見てブチ切れたシャナトリアが速攻で制裁を下した結果がこれだ。


 事の始終を間近で見ていたアリステリアとルミナは度肝を抜かれていた。

 シャナトリアの魔術は予備動作無しからの、ほとんどノーモーションだったのだ。パチンと指鳴らし一発で瞬間氷結という凄まじいものであった。

 そして先のソルフィスの動きもまさに神速の動きだった。黒猫の危機を察知するや否や、稲妻のようなスピードで飛び出した。そして見事にヴィヴィアンともに救助したのだ。


(ソルフィス様といい、シャナトリア様といい、とんでもない御方ですわ……)



 シャナトリアは怒り心頭だった。

 あたしの可愛いティノを殺そうとしたこの暴漢は絶対に許さない、ブチころす。のである。

「ねぇ、こいつどうやってブチころそうかしら?」

 ボソリと独り言のように言う。


(情け容赦のない御方ですわ!)



 黒猫がトテテとやってきて、シャナトリアの隣で「フーム」と氷像を見上げた。


「あらティノ、あなた無事だったの?」

 シャナトリアが涼しそうな顔で見下ろして言う。

「ちゃな! オレしゃま不死身なのぞ。よーおぼえとけよー!」

 ティノは拙いしゃべりで強がりを言う。


 無事な黒猫の姿を見て安堵したシャナトリアは、いつもの取り澄ましたような顔をつくろったが、噴出する怒りが隠しきれてない。

 黒猫はシャナトリアのコワイ横顔を見上げた。


「ちゃな、キレてる?」

「キレテルってなによ?」

「ちょ〜怒ってることを、キレてるいうのぞ。ちゃな、キレてる?」

「キレてないわよ」

 シャナトリアはキレている。


「こいつをこれからどうやって始末してやろうか考えてただけ」

 もう凍死寸前にしてしまっている。


(ちゃな、キレとる)

 賢明なら当分の間シャナトリアは刺激しないほうがいい。



 黒猫ティノは再びダルハラジムの氷像を見上げた。

 男の体表面からうっすらと黒い翳りが滲み出しているのが見える。

 それは、この世界でティノだけが知覚できる怪異。この男にしつこく縋り憑いていた悪霊の残滓だ。

 処分しておかねばこの男は永遠に救われず、衝動に突き動かされ、ティノを、姉妹を、そして世界を呪い続けるだろう。



《やれやれ》


 黒猫の瞳が金色に輝いたかと思うと、その影が動いたのはほんの一瞬だった。


 黒猫の影が伸びて変形し、暴竜の大口をあけてバクリと男の上半身に喰らいついた。

 そして男に憑いた悪霊を丸呑みにたいらげてしまった。

 油染みた汚れがこそげ落ちるように、黒い翳りは消えてなくなった。


《今はこれが精一杯だな……》


 竜の影は何事もなかったかのように黒猫のもとに戻る。

 周囲の人間が決して気づくことができない、極めて微細な時間だった。



「……ティノ、あんた今なにかした?」

 目ざといシャナトリアが敏感にも何か感じ取ったようだ。

「にゃ? オレしゃま、なにもしとりゃせんが」


「……ほんとに?」

「にゃ、にゃ、にゃ」

 半目で睨んでくるシャナトリアに黒猫はキレた。


「なんぞーっ! オレしゃま、ナニもしとりゃせんぞーっ」

「なんでそんなに怒るのよ。まあいいわ。ティノ、こっちきて」

「にゃ」

 シャナトリアが手を差しのべて"おねだり"するのだが、黒猫は動じない。


「なんでじっとしてるの。こっちいらっしゃいってば」

「やだぞ、ちゃなコワイぞ」

「誰がコワイですって!」

「にゃー!」

 シャナトリアは黒猫をさっと捕獲した。

「おたしゅけーっ」



 その後、ダルハラジムの身柄は急いで駆けつけてきた守衛隊の魔導士に引き渡された。

 どうやら男を護送していたところを隙を突かれて逃げられたらしい。なんともお粗末な警備に怒ったアリステリアが先頭にたってクレームを申し入れたところ、守衛隊からも話が聞けて事情が明らかになってきた。


 被疑者の身柄を移送していたところ、突然凄まじい轟音が鳴り響いた。これに驚き騒然とした警備の隙をついて逃走されてしまったそうだ。

 そして男は迷うことなく崖をよじ登って、一直線にこの場所を目指した。まるで何かに憑かれたような剣幕で、制止の声もまったく届かなかったそうだ。


 アリステリアの後ろで一緒に怒っていたシャナトリアはとたんに歯切れが悪くなってうつむいた。

「ま、まったくもう……、今度からはちゃんと見張っててよね!」


 シャナトリアがパチンと指を弾くと、氷塊が粉微塵になって中の男が転がり出てきた。

 これにも皆が驚いて、衛士たちは皆一様に感嘆の声をあげていた。


 こうしてダルハラジムは再びお縄となり、然るべき場所へと連行されていった。



   * * *



 トラブルはあったが、ソルフィスとシャナトリアの学院見学はこうして終幕した。

 ロゼッタの姉たち、エルダー会のアリステリアとルミナに好印象で目をつけられ、認められたのは予想外の収穫だった。

 この調子ならきっと二人は魔導学院でうまくやっていけるだろう。


 シャナトリアの腕の中で「やれやれひと安心」と黒猫ティノは一息ついた。


(ま、今のところは、だけどな……)


 未遂とはいえ、さっそく悪霊からの攻撃を受けるハメになった。竜の警告は本当だったということだ。

 今後のことを考えて、なんらかの対策を整えておかなければならない。



 ティノはソルフィスの様子を見た。今はヴィヴィアンに絡まれて大変なことになっているようだ。


「お姉さま! これからは正式に、"ソルお姉さま"と呼ばせてください!」

「ぬぬ? どしたのビビ?」

「あたしを……、このビビめをどうか、ソルお姉さまの妹分として扱ってやってください! お願いします!」


 ヴィヴィアンはソルフィスの目の前でこうべを垂れて跪く。

 以前から胸に秘めていたソルフィスへの熱い想いが一気にブチまけられた。

 ソルフィスに命を救われたことが彼女の決定的な後押しとなったようだ。そうしてヴィヴィアンは考えるより先に行動にでた。


「ビビは、わたしの妹じゃないよ?」

「義理の妹でやす! どうか! どうか! ソルお姉さまっ!」

「むむむ……」

 義理の妹。そうきたか。ソルフィスは顎に手をやってうなった。


「パシリでも添い寝でもなんでもしますからっ」

 身勝手なことをいうヴィヴィアン。

 困った。


 あらまぁ、とシャナトリアが歩み寄る。

「それじゃあたしは、"シャナお姉さま"になるのかしら、ビビ?」

「シャナさんはシャナさんです! 私と同じ"妹"なんだから!」

 ヴィヴィアンはソルフィスにぴたりと抱きついて、ベロを出した。

「まぁっ!」

 ヴィヴィアンの唐突なライバル宣言といったところだろうか。

 シャナトリアは涼しい顔をしているが、目の奥では「いい度胸ね」と凄んでいる。


「お姉さまっ、シャナさんが怖いっ」

「ちょ、ちょっと二人とも」

 そんな二人に挟まれてソルフィスは困ってしまった。

「なんでもいいけど、ケンカしたらだめだよ?」

「そ、それじゃあ認めてくれるのねっ? ソルお姉さまっ! 嬉しいっ!」


 ヴィヴィアンはソルフィスに飛びついて歓喜した。シャナトリアは何も言わずに呆れている。

 このときのソルフィスとシャナトリアは軽く受け流していたが、ヴィヴィアンの熱意はいつだって全力で本気だということをまだ知らない。


「ビビ、マジなのか……」

「義理の妹か。麗しい絆だな」

「ルーシィは応援するよ〜」

 衝撃をうけて絶句するカイトの横でロゼッタとルーシィは好意的な感触だ。


 ヴィヴィアンはシャナトリアにビビってはいるが、その瞳はなにか吹っ切れたような、清々しい輝きを放っていた。

 きっとヴィヴィアンは何かをつかんだのだ。ソルフィスを通して自分を新たなステージへと羽ばたかせる何かを。

 こうして周囲の仲間が立会人となり、ソルフィス公認(?)の妹分が爆誕した。



 黒猫ティノはヴィヴィアンの相変わらずの体当たり精神に呆気にとられていたが、おかげでひとつの思いつきを得ていた。

 それは自分たちの今後についてだ。


 竜の警告にあったとおり、どうやら自分は悪霊に襲われる立場に置かれてしまったようだ。そして実際に襲われた。

 これが現実のものとなった以上、ティノは自分やソルフィス、シャナトリア、そして仲間たちを守る手段を考えなければならない。


 どうやって?


 その答えが決まった。

 ティノは自分を取り巻く光景をあらためて俯瞰する。


 ソルフィスとシャナトリアはもちろんのこと、カイト、ヴィヴィアン、ルーシィ、ロゼッタ。それにアリステリアとルミナも――


 こいつらだ。こいつらの可能性である。



 こいつらを叩き上げる。

 絆のもとに信頼できる仲間を集め、ソルフィス・シャナトリアに並び超えるほどの人材に育て上げる。その方法を模索するのだ。

 肝心の自分がこんな無力な姿である以上、姉妹とともに平穏無事に生き延びていくには多くの仲間の助けがいるからだ。


《ほう? 己ではなく、他人の力に頼るのか》

 意識の背後から同居人の竜が意外そうな反応を示す。

(ああ、オレはオレのやり方でいくぜ)

《フン、面白いな。果たしてどうなることやら――興味深く拝見させていただくよしよう》


 上等だ。


「悪霊でもなんでも、どんときやがれ」


 ティノの静かなる戦略が決定したのだった。



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