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MAGIN ―聖双の魔導士―  作者: カシミア
第四幕 聖双の魔導士
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学院見学ツアー・学院区画

―アゼル魔導学院 学院区画―



 一行は学院区画に入った。講義棟や研究棟が建ち並ぶ一帯だ。修練生たちはこの場所で勉学に励むのである。

 中庭の噴水を囲むように廻廊があり、廊下に面して講義棟が建っていた。


 あたりは静かだが、建物の中では午前の授業真っ最中のハズだ。授業の邪魔にならないように中庭の噴水に移動して休憩することにした。

 カイトは再びガイド役をはじめる。


「この講義棟がね、幼年部から高等部までの教室になってるんだ」

「なぁにそれ?」

「僕たち修練生はね、年齢別に大きく4つのグループに分かれているんだ」



 カイトは年齢ごとの区分けについて説明した。

 修練生は歳の小さい順から年齢帯に応じて、幼年部、小等部、中等部、高等部という具合に、三年ごとに学部が分けられている。

 幼年部は6歳から始まり、12年間の期間を経て高等部を修了する頃には18歳を迎えるのだ。


 さらに、年ごとに区分けした《階生(レベル)》という段階があった。

 幼年部の初年を1階生とし、2階生、3階生と数える。高等部の最終年で12階生だ。



「ちなみに僕たちは小等部の三段階目で、6階生なんだ」

「ふぅーん」

「あたしたちは何階生になるの?」

 シャナトリアが訊ねる。

 本人たちは生年月日や年齢を思い出せないらしいが、文献の記録と医者の話によれば姉妹は推定14歳らしい。


「14歳だと、中等部の8階生かな」

「それってティノと別々になるの?」

 ソルフィスの質問に「そうだね」とカイトは応える。

「えーっ! それヤダ!」

 ソルフィスの声が構内に響く。


「し、しーっ! 静かに。今授業中だから、ね。静粛に、静粛に」

「この子と別々だなんて、ヤよ」

 シャナトリアも黒猫をぎゅっと抱きしめて抗議する。

「これ! おめらおちつけ、まったくもー!」


「ソルフィスさん、シャナトリアさん、聞き分けのないコト言っちゃダメですよ」


 半ギレ状態のヴィヴィアンが割り込んできた。

 タダでさえ黒猫ティノを私物化されている上にここまでワガママ言われちゃあ、いくら相手が聖双の魔導士とはいえガマンならぬのである。


「いいですか、お二人とも。入学されるんならちゃんとここの規則を守ってもらわないとね! あたしより年上なんだから、そこは年上者らしくですね……」


 ヴィヴィアンは指を立ててお説教モードだ。

 相手が年上でも修練生としてはこちらが先輩なのだ。先輩としての威厳をみせねばならない。

 大丈夫だ、まともに目を合わさなければコミュ障は回避できる。このテクニックで今日は朝から調子がいいのだ――


 ところがヴィヴィアンの眼前にぐぐーっとソルフィスの顔が近づいてきた。

「ねえっ!」

 ソルフィスが両手でヴィヴィアンの肩をつかんだ。視線の交錯が避けられない。

「う、うぇ!? うィ?」

「お願いがあるんだけど!」

「アッ……ハイ?」

 ヴィヴィアンはたちまちフリーズした。彼女の眼前でソルフィスは静かに息を吸い込む。


「よかったらわたしたちのこと、ソル、シャナで呼んでくれないかなぁ。ソルフィスさん、シャナトリアさんだと、ちょっと堅苦しいから」

「ぇっ……、ぁ、ぁゎ……」

 ソルフィスの瞳をガン見してしまったヴィヴィアンはたじたじになってしまう。


 姉妹の愛称については彼女たち自身がお互いのことを「ソル」「シャナ」で呼び合っていた。黒猫ティノも拙い発音だがそう呼んでいる。

 これにカイトはすぐ同意した。


「いいね。ソル、シャナ、か……。次からは僕もそう呼ばせてもらうよ」

「ありがとう、カイト!」

 ソルフィスは無邪気な笑顔だ。

「アッ……。そ、そうね……あ、あたしのこともビビと呼んでいただければ……」

「ビビ?」

「アッ……」


 吐息が聞こえそうなくらいにソルフィスが顔を寄せると、ヴィヴィアンの心臓はバッコンバッコンと猛烈にドラムした。

(なんなのコレなんなのコレ!? どうなってるのあたし!?)

 ここは山頂じゃないのに、また窒息しそう! どういうことなの!


「アッ……、で、でもあたし、年上の人を呼び捨てにするのは……」


「ビッビは、じぶんのししょーは呼び捨てにするクセにゃー」

「う、うるさい! あたしの師匠は……って、あ、あんなクソ男はどうでもいいのよ! 今は関係ないでしょ! あたしにだって、マイルールってもんがあるのよ!」

「男は呼び捨てかよぉ。ひどいなぁ」


 幼少期からティノとカイトと共に過ごしてきた影響のせいか、ヴィヴィアンは男性に対しては初対面でもフランクな接し方をするが、慣れてない女性に対してはひどくアガってしまい、人見知りになってしまう。

 とりわけヴィヴィアンにとって、ソルフィス・シャナトリア姉妹との邂逅はあまりにも衝撃的すぎたがゆえに、ヴィヴィアンはこれまでに経験したことのない原因不明の胸の苦しさを覚えるのだった。


(なっ、なんでこんなに胸が苦し……!?)


「ビビの好きなように呼んでくれたら、それでいいわ」

「はうゥ!」

 すぐ耳元で囁かれるシャナトリアの声にヴィヴィアンはドキーンとした。

 姉妹の声が自分に向けられていると意識しただけでもうダメだ。死ぬ。


「アッ、あのあのあ……じゃ、じゃあ……シャナ……さん」

「うん。これからもよろしくね、ビビ」

「アッ……」


 シャナトリアがヴィヴィアンに微笑みかける。女神のような美しい笑顔。これが致命傷となった。

 視線の集中が耐えられず、ヴィヴィアンは頬を朱色に染めてうつむく。

「よ、よろし、こ$%が」

 噛んだ。

「ぁゎゎゎゎ……」



 そんなヴィヴィアンの挙動不審な表情の変化をつぶさに見ていた黒猫ティノは、なんとなくの気付きを得ていた。

(ビッビめ、コイツまさかにゃ〜……)

 これ以上ヴィヴィアンを放置していたら幽体離脱して昇天するかもしれないので、空気を変えたほうがいいだろう。


「おい、おめら。次いくぞ次〜」

 黒猫は次の催促をした。もちろんこれはヴィヴィアンへの助け舟でもある。


「そうだね。次は僕たちが生活する場所だよ。ついてきてね」

「「はぁーい」」

「はっ、はわぁ」

 ヴィヴィアンは事なきを得た。

 一行は次の場所に向けて移動を開始した。



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