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MAGIN ―聖双の魔導士―  作者: カシミア
第三幕 幻想界
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魔法掛かりの大地

 平穏無事に合流を果たしたカイトたち四人と一匹は、不思議な世界を探索した。

 きっとこの異世界はティノが見た、夢の世界なんだという奇妙な確信があった。

 どちらに足を向けて歩いていけば良いのかは分かっている。さんざんティノに夢の話を聞かされたから。

 石畳を流れる清水を上流へと、さかのぼって行けばいいのだ。


「ここって本当に神秘的なところよね〜」

「ミスラ聖殿の造りに似てるような気もするけど、こっちのはもっともっと古い感じだわね」

「この異世界が、ティノの夢の世界なのか……?」

「僕らの世界と重ね合わせの、もうひとつの世界なんだろう。きっと」



 ネロ爺さんとの会話を思い出しながら、不足気味の情報で今の状況を解釈しようとした。

 この世界は普段現実の世界では感知することも干渉することもできない、隣り合わせの世界なのかもしれない。

 泡のように沸き立ついくつもの次元の中の、ふたつの世界がたまたま重なりあったことで境界がなくなり、道が通じた。

 カイトたちは偶然にもその扉をくぐってここまで来れたに違いない。


 崩れかけた石造りの遺跡には太い木の根が絡みつき、いたるところから冷たい清水が滴り落ちている。

 びっしりと苔むした石板には大昔の文明の装飾が彫られているが、どういう意味が込められているのかは分からない。

 あたりに生物の気配は全く感じられず、聞こえてくるのは水が石を叩く音と、時折聞こえる風の音だけだ。

 奇妙な静寂と安らぎに包まれた世界だった。



「見て、ここで遺跡が終わってる」


 開けた野外に出た。

 あたりは夕闇のように黄昏ているが、空は桃色に染まっている。どこに太陽があるのかすら分からない不思議な世界だ。

 行く先はなだらかな勾配が続いている。斜面には小さな花が咲き乱れ、風にそよいでいた。


「天国って〜、きっとこういうとこなんでしょうね〜」

「やめてよね、あたしらが死んだみたいに聞こえるじゃない」

「元の世界じゃきっと神隠しみたいなことになってるんだろうけどね……」


 カイトは貧血気味で坂道がつらそうだ。そんなカイトにロゼッタはぴったりと寄り添って歩く。

 そんな二人を尻目にヴィヴィアンは鼻息荒くして、ずんずん先を進んだ。



 そしてついに、目指していた終着点、大樹の立つ丘にやってきた。


「すっごぉぉぃ!」

「大っきいいぃ〜!」

 にゃーん!

 ヴィヴィアンとルーシィとスプリーはそこに向かって駆け出した。


 大きな水溜りの中に、山のように巨大な樹が立っている。

 これはアゼルの書に描かれてあった挿絵と完全に一致する光景だ。そしてティノが話していた夢の内容とも。

 まったく現実離れした光景だった。


 少し遅れてカイトとロゼッタが息を切らせてやってきた。

「本当にあの絵のとおりだ。ついに来たんだね……」

「ここに竜魂石が……?」


 二人の繋いだ手を見るヴィヴィアンのじっとりとした視線が険しい。

「さ、ティノを探すわよ」

「まわりに注意してね。例の幻術士もこの場所に来ているかもしれない」


 杖で底を突いて水深を測ってみる。池の中は思ったより浅い。水たまりといった感じだ。

 ヴィヴィアンはスカートの裾を手繰り寄せて膝上で縛り、水の中に足を入れた。

 ルーシィも同様にして、スプリーを抱えてそれに続く。

 カイトとロゼッタも水の中に入り、後から続いた。



「ひとまず、あの樹の下に行ってみましょう」


 四人は水たまりの中を進む。

 水没した大樹の太い根から這い上がれそうな場所を見つけ、そこから根伝いに大樹の幹へと進んだ。

 今更ながらこの樹の大きさに驚かされる。遺跡の中まで随所に張り巡らされた樹木の根は、元をたどればすべてこの樹のものだったのだ。


「ティノーっ! いるのー!? 返事してー!」

「ティノちゃ〜ん!」


 二人の少女の声がこだまする。

 果たして反応はなかった。



「ティノどこにいるのかしら……」

「あっ、でもビビ、あそこ見て」


 カイトが指差す方向に光るものがあった。

 アゼルの書に描かれていた絵の通りであるならば、大樹の根元で眠っているはずだ。


「聖双の魔導士……いよいよご対面か……」


 ついに見つけた。伝説の魔導士が眠る場所を。

 大樹の根元に半ば食い込むようにして、大きな水晶体がしっかりと抱かれていた。


「すごい。本当にあった……」

「うわぁ! どうしようどうしよう! あたし緊張してきちゃったわ!」


 球状の水晶体は二人の魔導士を呑み込むほどに十分な大きさだ。

 手前側に半球部分が露出していたが、表面にびっしりと霜のような水滴が付着しているせいで中を覗き見ることはできない。

 水晶体直下の根茎に若干のスペースがあったが、そこに辿り着くまでに渋滞した。


「ビビちゃ〜、ルーシィも見た〜い」

 にゃーん。

「ちょ、ちょっとまちなさい! いま水玉を払うわ」

 ヴィヴィアンが杖の先に灯明を燈し、水気を払っていく。少しずつ中身が露わになっていった。



「ふわぁ……」


 誰もが感嘆の声をあげ、しばし無言で佇んでしまった。

 聖双の魔導士。水晶の中に封印された双子の姉妹。ティノが夢に見たという――


 それはひとつの天啓を得た宗教画のような静謐をたたえていた。ただただ、そこには息をのむ美が存在した。

 二人の少女は白いトーガのような薄布を身に纏うだけで、それはまさに聖女か天使の姿そのものだった。


「綺麗……」


 目の前でヴィヴィアンは稲妻で胸を射抜かれたような、これまでにない強烈な衝撃を覚えた。

 全身を駆け巡る一目惚れにも似た熱い衝動がヴィヴィアンを戸惑わせる。


「ティノちゃんが魅かれちゃうのもわかるわ〜。まるで天使みたいね〜」


 ルーシィの言葉はまったくその通りなのだが、ヴィヴィアンはもうそれどころではない。

 ティノのことよりも、ヴィヴィアン自身がこの姉妹に激しく魅かれつつあることを自覚しはじめていた。


(でもでもっ、この人だってティノを誘惑したドロボー猫なのよ! あたしたちをこんなとこまで巻き込んだ迷惑の張本人なのよ!)


 ヴィヴィアンはひとつの事実だけを思い起こして雑念を払おうとする。

 短い間に二人の幼馴染が自分の手の中から離れていく経験をしたヴィヴィアンの心は複雑に揺れ動いた。


(でも、でも……なんて綺麗なの……)


 ここにきてヴィヴィアンは姉妹から目が離せなくなってしまった。



「ハァ〜、すっごい可愛い……」

 ぽや〜んと見惚れていたカイトの腕をロゼッタがつねった。

 アイィ。


「ティノはこの場所を目指していたハズだ。なのに影も形もない。いったいどこへ行ったんだろう」

「ティノちゃん探しましょ〜」

「そ、そうね。ひとまず周辺から……」


 ヴィヴィアンの声が止まった。

 彼女が緊張の目で見つめるその先に、あの男が立っていた。



「――これが、竜の秘奥かね?」


 四人の背後から現れたのは、あの幻術士の男、ダルハラジムだった。

「お前は!」

 ロゼッタが前に出てカイトを守るように身構えた。


「ほう? お前に掛けた術が消えているな……。一体どうやったのだ?」

 ロゼッタは沈黙で応える。その瞳は怒りに燃えていた。


 そんなロゼッタを無視して、ダルハラジムはその先の水晶体に目をやった。あの中に伝説の竜の秘奥が眠っているわけだ。ようやく手が届くに至ったのだ。

 修練生たちは全員、武器を構えて戦闘態勢に入ったようだ。


「手向かうか……。ふむ、まあいい」

 ダルハラジムがさっと指を立てて奇妙な弧を描くと、ロゼッタの手足が突然しびれたように動かなくなった。

「あぐっ!? な、なに……体が……!」


「名残惜しいが、君達にはもう用はない。今まで案内ご苦労だったな」

 見るとカイトやルーシィ、ヴィヴィアンも動けなくなっていた。


「なん……で……動けないっ……!?」

「うぐぐっ……!」


「安心しろ、一人ずつ痛みなく送ってやる。誰も知らぬ異界の地で果てるがいい」

 ダルハラジムはコートの影から異国の曲がった短刀を抜き放った。



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