仲間を探して
―奥アゼル地方 聖地 ミスラ聖殿への道―
キャンプ地であるネロの岩窟を出発したカイト、ヴィヴィアン、ルーシィの三人は、ミスラ聖殿遺跡を目指して歩み始めた。
突然姿を消してしまったティノとロゼッタを探すための唯一の手掛かりがそこにあるかもしれないのだ。
カイトはもらった地図とコンパスを片手に、一行の先頭に立って歩いた。
そのあとをヴィヴィアンとルーシィが続く。ルーシィの足元にはスプリーもいる。
今日の天気は昨日より霧が少なく、視界が開けていた。
聖地の広大な丘陵地帯はどこを見渡しても似通っている。起伏のある地形に遺跡群が点在し、それを包むように林が群生している。その特徴をつかんで地図の情報と照らし合わせていくしかない。
目的地のミスラ聖殿遺跡は、聖地のほぼ中心に位置しているようだ。
聖地は環状山脈に囲まれた丸い盆地だが、その中心に近づくにつれて大地が雨風の浸食によって削られたような、勾配が複雑な地形になっていった。
カイトはコース取りに気を配った。森林は迷うし魔獣が出るかもしれないので避ける。谷間も移動速度が落ちるので、少し遠回りでもなるべく見通しがきく高所を選んで歩くようにした。
「さっきのグリエンとか、奴の仲間がまた現れるかもしれないから、周囲には気をつけてね」
「ルーシィにも、いよいよ闘いのときが来ましたかね〜」
そういってルーシィはたいまつ棍棒をスゥと大上段に構える。
「ルーシィ戦えるの?」
カイトは訊いてみた。
「ビビちゃとスプリーさんを守るためなら……、ルーシィは鬼になります」
(そこは僕も守ってあげてほしい)
「大丈夫よ、みんなあたしが守ってあげる。さっきはブルっちゃったけど、もう負けないもん!」
先ほどは虚を突かれたヴィヴィアンだったが、敵の存在を知ればすぐにでも臨戦態勢の気構えだ。
「ビビもルーシィも頼りにしてるよ。でも僕だってもう戦える。あいつらの頭なんかフルスイングできるぞ」
カイトも負けじとたいまつ棍棒を素振りした。かなりの重量感がある。
これを頭にブチ当てたらさすがに無事では済まないかもしれない……。威勢のいいことを言ってはみたが、カイトはちょっと緊張した。
「でもさっきのグリエンの様子、明らかに変だったわよね。何があったのかしら」
「なにやら幻惑術だか操身術だかで操られている可能性があるんだってさ」
「ウーウーって、なんだかゾンビみたいだったのです〜」
「そうだったね、あれゾンビだよね」
「や、やめなさいよあんたらあたしがオバケ嫌いなの知ってるでしょ」
「なに言ってんのビビ、ゾンビはオバケじゃないよ。実在するんだよ?」
「ふーん!」
ヴィヴィアンは大上段に構えた杖でカイトの頭をポコポコ叩いた。
ポコポコポコポコ!
頭がいたい。
「乱暴やめてぇー。そんなんだからティノが居なくなっちゃうんだよ」
アッ、しまった。カイトは口をおさえる。後悔先に立たず、である。
「ほっほ〜う、どういう意味かなそれェ? 言うようになったじゃないのカイト」
今度は鞘から剣を抜き放つマネでビシビシ下段水平斬りだ。
ビシビシビシビシ!
足がいたい。
「ティノなんかどうとも思ってやしないわよ! あのバカ! さっさと妄想ドリーム彼女んとこ行って前のめりに死ねればよいのだわ!」
ルーシィはニコニコ顔でヴィヴィアンを眺めている。
(ビビちゃ、ティノちゃんのこと本当好きなのね〜)
「あんたこそどうなのよ、カイト? 昨日は可愛いロゼッタちゃんと手ェつないでイイ雰囲気だったじゃない。どうなのよ、えっ、あの娘は? 惚れた?」
カイトは嫌な汗が噴き出した。
いかん、いかんぞ〜。ヴィヴィアンのお姉ちゃんトークに巻き込まれつつある。
この路線に引き込まれると、蟻地獄的魔空間から脱出するまで延々と会話に付き合わされてしまう。
ここは調子を合わせて無難にやり過ごすのだ。事なかれだ。
「ロゼッタは、そのぅ。かわいいと思うよ。真面目な静かな優等生と思ったら、すごい明るくはしゃぐときもあって、不思議な魅力あるよね」
「ほぉ〜お? 惚れたか。惚れおったか。このカイトめ。カイトの分際で!」
人差しゆび脇腹連打でドドドと小突かれた。
ドドドドドド!
脇腹がいたい。
「やめてやめて指はやめてマジでコワイ!」
カイトは身をよじって嫌がった。
余談だが、魔導士が人差し指で人をさす行為は最大級の挑発もしくは脅迫行為とみなされており、同業者の間だとしばしば命のやり取りに発展することもある。
なぜならば魔導士の指、特に「人差し指」は、人体で最も魔力が放出される重要な器官であり、凶器そのものだからだ。これを人に向けるだけで宣戦布告と受け取られかねない、というわけだ。
ヴィヴィアンは相手が気心の知れたカイトだから冗談でやっているに過ぎないが、他人にこんなマネをしたら訴えられてもおかしくないので、読者の魔導士諸君は気をつけよう。
「いやいや、ていうかビビのほうこそ彼女のこと、どう思ってんのさ? 仲良くなれたの?」
会話のボールを無難に投げて返すカイト。流れに逆らわず、いなすような手綱捌きが肝要である。
「ん〜、そうね。最初すっごい距離置いてて、素っ気なくて無愛想な子だな〜って思ってたら、気がついたら急接近でアプローチしてくるのよね。それがもう距離感すごいの。極端なの。くっついたり離れたりの磁石みたい」
カイトは笑った。確かにそうだ。
昨日の朝からこれまでのロゼッタの変化そのものだったからだ。
「ビビ、急接近されてたよね」
「そうなのよ! あの子はね、ぜったい両刀よ、両刀! そんなニオイがするのだわ。あたしが言うのだから間違いない!」
「ビビちゃ、過激〜」
なんだよ両刀って……。意味不明でカイトは反応に困った。
「でも、残念なことにアッチの発育は哀れみしか感じないわ。このあたしより哀れなんだから! あれじゃロリッタちゃ」
「は〜いビビちゃ、それは言い過ぎ〜」
ルーシィたいまつ棍棒がヴィヴィアンの頰をなでる。
「と、とにかくカイト、言っておくわよ。あの子の妖しげな魅力には充分に注意することね。ボクっ娘妹キャラだと思って余裕ぶっこいてると、く、く、食われるわよっ」
「ハイハイ、気をつけますよ……」
「ハイは一回!」
「ハイ!」
「よろしい!」
二人のやりとりをルーシィはニコニコ顔で眺めている。
(ビビちゃ、ほんと欲張りさんよね〜)
カイトに対するヴィヴィアンのこうしたお姉ちゃん的指導は定期的に発生するのだった。
平原は続く。




