聖地でキャンプ
―奥アゼル地方 聖地―
ティノたち一行は、奥アゼル地方の核心といえる地域、いわゆるアゼルの聖地と呼ばれる領域に入った。
視界は霧で包まれており見通しがきかない。こんなところで仲間とはぐれたら確実に遭難するだろう。このような状況で移動するのは悪手なのだが、今はスプリーがずんずん進んでいくので後を付いていくしかなかった。
ティノたちはお互いが離れ離れにならないように工夫をこらした。先頭でスプリーを追うルーシィの腰にロープを結びつけ、ヴィヴィアン、ロゼッタと間隔をあけて数珠繋ぎにした。そしてヴィヴィアンとティノ、ロゼッタとカイトのペアで手を握って、お互いが離れないようにした。
「スプリーさ〜ん、待ってくださ〜い。ゆっくりでおねがいしま〜す」
「ルーシィ気をつけなさいよ〜。下ばかり見てると枝に頭ごっつんこするわよ〜」
相変わらず元気いっぱいのルーシィはマイペースで進んで行く。ヴィヴィアンも緊張のかけらも見せずピクニック気分で上機嫌だ。そんな二人に注意を配りながら、ティノは周囲の警戒を緩めずに進んだ。
「ロゼッタも足元気をつけてね」
「う、うん。カイトもボクの手を離すなよ」
しんがりを行くカイトはロゼッタの手を引いて一緒に進む。出会った頃は硬い印象だったロゼッタも今ではずいぶんと打ち解けた気がした。
この少し前、山腹の水場で休憩していたときに、女子たちが口々に寒い寒いと言い出したので、ティノは急遽出発することにした。
高所は気温が低い上に、日が落ちてくると凍死するほどに寒くなるため、さっさと下ることにしたのだ。
霧のたちこめる領域まで下りてくると、岩と低木だけの世界から樹木が茂る古い森へと様変わりした。苔むした岩や倒木が転がり、空気は冷たい湿り気を帯びている。そこには古い時代からの森がそのまま残っていた。
「寒くはなくなったけど、なんていうかイヤンな感じがする場所だわね。湿っぽいというか、陰鬱っていうか」
「空気が澱んでるんだとよ。師匠が言ってた」
「かなり古い森だ。こんなの魔導学院の周辺にはないよ」
一行は耳をそばだてるようにして注意深く歩みを進めている。
見通しの悪い視界から突如として石のオブジェが姿を現わす。大昔の城砦や聖堂と思わしき遺構だ。
「あそこ見て。遺跡がそのまま残ってる……」
「大昔はここに人が住んでたのかな?」
「そうなの? 家っぽいのは見当たらないけど」
「デカくて丈夫な建物だけ残ったんだろう。それでも半分は土かぶっちまってるみたいだけど」
「この土地は、古い時代のままそっくり置いていかれたような場所だな」
ロゼッタの感想にみんな無言でうなずく。
厳かな意匠が彫り込まれた石造りの壁や柱といった古王朝時代と思わしき建築はとうの昔に苔と木の根で覆われて崩壊し、今では空虚と物悲しさを漂わせていた。
しかしティノはこれらの光景にどこか懐かしさも感じていた。夢で見た世界とどこか重なるのだ。
「あっ。見て、あれ」
ロゼッタが指さす方向に、小さな祠や石塔がたたずんでいる。山で見かけたものと同じだ。
「これは明らかに後から建てられたモノっぽいよな……。こういうのがぽつぽつあるってことは」
「わりと人の往来があるってことだよね」
「そうかもな」
談笑しながら進む一行だが、ティノは常に周囲から誰かに見られているような気配を感じていた。聖地という独特の雰囲気がそう感じさせるのかもしれない。ご先祖様の霊が草葉の陰でこちらをずっと見ているのだろうか。
「みんな油断するなよ、出るかもしんないからな」
「ちょっとぉ、ティノそういうのやめてくんない。あたし幽霊ダメなんだからね」
ティノが注意を呼びかけた直後、そばの茂みで小さな音がした。
「ヒんッ」
「静かに」
様子をうかがうティノの目つきがすぐに変わった。今夜の晩ごはんが出現したのである。
「オホッ」
ティノは流れるような弓矢の素早い二連射でヤマシギ2羽を正確に射抜いた。神業である。
「やったぜ、今夜は優勝だ」
「さっすが〜、ティノ」
「きゃ〜、ティノやるじゃ〜ん!」
「ティノちゃんすご〜い」
「見事だぞ、ティノ」
にゃーん。
「ふふっふ、オレさまの腕前をみたか」
称賛の嵐でテレテレになるティノ。今夜は鳥肉料理決定である。狩人の面目躍如といったところだ。
* * *
夕刻になった。
西日で陰濃くなってきており、いいかげん今夜のキャンプの設営をしなければならない時間だ。そんなときに前を行くルーシィが停止した。
「と〜ちゃ〜く〜、だそ〜です」
「おおっ、着いた?」
「あぁー、やっと着いたか」
一同はほっと胸をなでおろした。
「ここがスプリーのおうちなの?」
「なんもないところねぇ。あんた野ざらしで寝泊まりしてんの?」
にゃーん。
ルーシィにだっこされたスプリーは一仕事終えたような満足気な顔をしていた。
カイトも周囲を見回して安堵のため息をもらした。
「とりあえず、今日のキャンプ地が決まったのでヨシとするよ」
ロゼッタとヴィヴィアンは周辺の様子を見て回る。
あたりは岩がゴロゴロしているだけの、森の中に少しだけひらけた草っ原だった。
「よーし、ここからはキャンプ隊長のカイトの指示に従って行動してくれ」
「みんな協力よろしく。ここに荷物おろして、遠くへは行かないようにね」
「はーい」「はぁ〜い」「うんっ」
一行は荷物をおろして一息つく。
ティノとカイトはさっそくキャンプ設営の準備にかかった。その場に鎮座していた巨岩をキャンプの中心的な目印とし、近くの空いた空間に焚火の炉を作ることにした。
キャンプ隊長のカイトは、女子三人組に焚き木を拾いに行かせることにした。ところが三人ともキャンプどころか野外にも慣れていないらしく、独特な反応を示した。
一人目。
「焚き火は〜、ヤなのです〜。たいせつな服に〜ニオイついちゃう〜」
「そうだね〜」
二人目。
「タ・キ・ギ、って……??」
「そこからかー」
三人目。
「……。ちょっと……アレよ。わかるでしょ、アレ。馬鹿ァ、レディがアレちゅーたらアレに決まってんしょ!?」
「あーはいはい。お花摘み行きたいのね」
キャンプ隊長は困った。
「ティノ、すまないけどルーシィとロゼッタだけ連れて、焚き木拾いお願いできるかな」
「了解」
もじもじと顔を赤らめた内股のヴィヴィアンがその場に残った。
「……それでビビは、ちっちゃいの? おっきいの?」
「それ聞くぅ!?」
「わかったわかった、聞かないよ、どっちでもいいよ」
「どっちでもいいのぉ!?」
「ほらスコップ貸すから、これで穴掘って、狙いさだめて、ポンして」
「ポン!?」
「一人でできる?」
「できるわよそれくらい! しつれいしちゃうわねぇ!」
ヴィヴィアンは一人でぷりぷりどこかへ行ってしまった。
彼女が紙を忘れたことに気づいたのは、それから少し後のことだ。
カイトはキャンプ設営計画の図面を頭の中に思い浮かべた。
元々三人で使うために持ってきた大きめのタープは女子用のシェルターに使う。ティノが持ってきたタープは男二人で使おう。
シェルターの骨組みは枝を切ってその場で自作する。寝床も枝葉を集めれば夜露をしのげるベッドとなる。自然の素材を有効活用するのだ。
巨岩の壁を背に、焚火で暖がとれるような配置を考えて――
「……完璧だ」
キャンプ隊長の脳裏に鮮明な優勝映像が浮かび、彼は満足気な笑みを浮かべた。あとはこの手でそれを形にするだけだ。
んんんん〜。いよぉ〜っし! カイトは胸をおどらせて作業にとりかかった。
「いよいよ僕の華麗なセッティングスキルを発動するときがきましたよ〜!」
さぁ、ここからは男一匹。
創造と思考の高みの世界へとダイブまっしぐら、なのである。
『んんながぐわああああー! かぁぁあぁぁーみぃぃぃいぃー!』
ヴィヴィアンの大絶叫でキャンプ隊長は現実世界へと引っ張り戻された。
便利だから予約投稿機能使ってたんだけど、これ同時刻に更新殺到して大手マンモス作品の荒波に飲まれちゃうから超絶NGムーブなんですって。
少しでも読者様の目に留まりたきゃ手動でやりなさいよ、ということですわ。
というわけで次から手動で投稿いたします。
(更新時刻ピシーッと並んで綺麗だったんだけどなぁ)
目安は午前8、9時帯で頑張るがんばれ。




