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MAGIN ―聖双の魔導士―  作者: カシミア
第一幕 聖山
20/78

結成! 聖地探検隊

―奥アゼル地方 ナユラ岳―



 ティノたち五人は他の修練生たちが居ないところに移動して、ヴィヴィアンがこれまでの経緯(いきさつ)を話しはじめた。


「――それじゃ君たちは聖地に行こうとしていたのか」

 ロゼッタの顔はやや呆れ気味だった。


「そういうこと」

「せいちって、なぁ〜に〜?」

「ルーシィ、そこからかー」

「どうして聖地に行こうと思ったんだ?」


(おっ?)


 真面目で正義感の強いロゼッタのことだからきっと怒られるに違いないとビクビクしていたティノだったが、予想外にも彼女は真剣に向き合ってくれた。この感触なら正直に話せば怒られずに済むかもしれない。


「ティノが見た変な夢の真実を確かめるためにね。その答えがあるんですってよ。聖地に。知らんけど」

 ヴィヴィアンは肩をすくめるが、ロゼッタは神妙に話を聞いている。


「変な夢……。謎の双子が出てくるという?」

「ヘンタイの夢なのよ」

「変態ではなーい!」ティノは鼻息をならしつつ、「ある。きっと聖地にある」と断言した。

「すごい自信だな。どうしてその夢で見た場所が聖地だと思うんだ? それが君の能力なのか?」

「いや、証拠はあるんだ」

 ティノは自分の荷物から例の本を取り出し、ページをめくった。

「その本は……?」


「ここだよ。ここに描かれてあることと夢の内容が同じなんだ」

 古本の開かれたページを覗き込むロゼッタとルーシィをみんなが囲んだ。

「……んっ? この絵、どこかで見たことあるような……」

 ロゼッタは意外な反応をみせた。

「マジで?」

「これは……! アゼルの書じゃないか?」


「アゼルの書?」

「ロゼッタ、この本知ってるの?」

「昔、実家の書斎で一度だけ見せてもらったことがあるんだ。この樹の図画……」

「ロゼッタのおうちにこの本あるんだ」

 彼女は貴族の家系だ。親族に骨董品収集家が一人くらい居てもおかしくない。


「ボクが見たのは、いくつかの紙切れの写しだった。"家宝だ"って父上から特別に見せてもらったんだ。その時のことはよく覚えてる」

「家宝って……」

 話のステージが一段上がった気がして、カイトとヴィヴィアンは当惑と期待が入り混じってテンションがあがってきた。

 なんとまぁアゼルの書ですって。伝説のアイテムか何かじゃないの。などと囁き合う。



「ちゃんとした本は初めて見た……。これはきっとオリジナルにちがいない」

「オリジナル?」

「本物ってことだ。ボクが知ってたのは写しだけど、アゼル魔導学院にはオリジナルが残されてるって父上はそう言ってた」


「アゼルの書って名前からすると、初代学院長アゼルが書いた本なのか?」

「それとも、このあたりの歴史や伝説を書いた郷土資料なのかな」

「その両方だと思う」

 ロゼッタは眼鏡を掛け直しながら食い入るように本を眺めている。

 ティノの変態的な妄想からはじまった話が、ロゼッタの意外な言葉で信憑性が補強されつつあった。



「君は一体どこでこれを手に入れたんだ?」

「学院の図書館だけど」

「パブリックライブラリーのフロアで? 嘘だ、これはとても貴重な資料だぞ。父上だって厳重に鍵をかけて隠してあったし……」

「そんなん言われてもなぁ、ふつうにあったし」

 正確には、いつの間にか手の中にあった、である。


「この際、本の出処(でどころ)はどうでもいいんだ。重要なのは俺が夢で見た世界がこの本に書かれた内容と繋がってる、ってことだ」

「その答えが聖地にあるってことか」

 ティノは確信をもってうなずいた。本の中の聖地を示す俯瞰図を指し示しながら。



「そんなわけで、あたしたちはこっそり聖地に行こうとしてたのよ」

「後で絶対怒られるだろうけどね」

「だから、ロゼッタ、ルーシィ。ここはひとつ、だまって見逃してくんねえか。俺どうしても聖地に行きてえんだ」

 そう言ってティノが先頭になって頭をさげた。ティノたちの決心は固いようだ。ロゼッタとルーシィに三人の必死な視線が集まる。

 その熱意にロゼッタはしばし圧倒されていたが、やがて根負けした。


「しょ、しょうがないな! 君たちの願いとあらば……さっきも世話になったし。……今回だけはだまっててあげる」

「ルーシィもいいよ〜、見逃してやらあ〜」

「ほ、ほんとかっ!?」

 三人の表情がぱっと明るくなった。ところが――


「あっ、でもっ! ひとつだけ、じょ、条件がある!」

「条件?」

 問うてはみるがティノはなんとなく察しがついていた。嫌な予感がする。


「ボクも連れてって!」


 やっぱり!


「ダメよロゼッタ、聖地はどういうところか分からないの。魔獣が出る危険な場所かもしれないのよ」

「オレたちは規則をやぶって行くんだ。あとで確実に罰を受ける。お前の経歴に泥を塗ることになっちまうぞ」

「僕たちのせいで君を巻き込みたくないんだ」

 ロゼッタを止めようと三人はあれこれ説得を試みる。


 だまって諫言(かんげん)を聞いていたロゼッタだったが、そのうち(うつむ)き加減になり、肩がぷるぷる震えて、頬がぷっくり膨らんできた。


「いーやーだ! ボクも行く!」

 ロゼッタはバクハツした。

「ボクも! 聖地に! 行きたい! 行きたいの! ボクもー! 連れてって! 連ーれーてーけー!」


 新しい反応だ。ロゼッタは駄々っ子のように泣いて暴れ出した。

 ぐるぐるパンチでポカポカ叩かれて、取り押さえる側の三人は困った。


「これっ、ロゼッタ! 声が大きい、静かに」

 カイトはバタバタ暴れるロゼッタの背後からホールドして口をふさいだ。

(んー! んむー! モガフゴ ふむー! うー! んうー!)


 ヴィヴィアンはひそひそとティノに耳打ちする。

(どうもこの子、よくわかんないわねぇ)

(うーん、しかしあの反応。本のことも知ってたし、他にもなにか知ってる気がするんだよな)

(だったら好都合じゃない。今は少しでも情報が欲しいんだから)

(この様子じゃ、連れてくしかないか。ここで面倒事はゴメンだ)

(じゃあ、当然ルーシィもよね?)

(……仕方ないな)

 ティノは根負けした。


「いいよ、ロゼッタ。一緒に連れて行ってもいい」

「もがもが、ほんほっ?」

 ティノは「うん」とうなずいた。

 ロゼッタの瞳がぱっと輝いた。大人しくなったのでロゼッタは羽交い締めから解放された。

「ただし、こちらからも条件がある」

「な、なんだ! 聞こう!」


 ティノはアゼルの書をかざした。

「この本について他にお前が知っていることを教えてもらう。それから――」

 さらにティノはロゼッタに詰め寄った。

「どうしてお前も聖地に行こうとするのか、その理由をしゃべってもらうぞ。いいか?」


 ロゼッタは虚をつかれたような顔をした。ティノとしてはロゼッタを信頼できる仲間と認める以上、お互いに隠し事は残しておきたくないのだ。


「……わかった。あとでちゃんと話す。ボクはこの場にいる皆に誓う!」

 よし、と三人はうなずいた。

「約束だぞ。じゃあロゼッタ、改めてよろしく」


「う、うんっ! ありがとう! やったぁ!」

「うぇ!?」

 ロゼッタは飛んで跳ねて隣にいたカイトに抱きついて大はしゃぎした。


 ティノはひそひそとヴィヴィアンに耳打ちする。

(あいつこんなキャラクターだったっけ?)

(う、うーん。よくわかんないわねぇ)



   * * *



 さて、次はルーシィだ。


「はぁい、じゃあ次のかたどうぞ。待たせちゃってゴメンな、ルーシィ」

 ティノはルーシィのいた場所に目をやる。

 居ない。


「あれ? ルーシィは? どこいった、ルーシィさん?」

「あれま。あの子さっきまでのほほ〜んと、ここに座ってたんだけど」

「ンモー、あなたルーシィの保護者でしょ? なにしてんのぉ」

「いつからあたしが保護者になったのよ!」

「ルームメイトはそれすなわちパートナーでしょ? 当然でしょ」

 四人はルーシィの姿を探した。



「みなのしゅう〜」

 ルーシィの呑気な声がした。

「皆の衆〜、ルーシィはここでぇ〜す」


「もーっ、一人で勝手に離れちゃダメじゃないの。どうしたの?」

「ネコさんがいました」

「猫ぉ?」

 かがみ込んだルーシィの手元で何やらモゾモゾと動いている。どこかで見たフサフサ毛玉だ。


「あらま。スプリーだわ」

「うそぉ?」

「うわ、ホントだ」

 ティノとカイトは目を丸くした。

 どこかで見たことあると思った毛玉は、なんと図書館ネコのスプリーだった。


「ネコさんは、スプリーさんなんですねぇ。ルーシィは、ルーシィです。よろしくおねがいします〜」

 にゃーん。

「ありがとうございます〜」

 なにやらルーシィと猫のスプリーは気が合うようだった。



「おいおい。この化け猫、なんでこんなトコロにいるんだ?」

「化け猫だからじゃないの?」

「無敵か、この猫」

 にゃーん。

「これからお家に帰るんだそうです〜」

「おうち?」

「てか、ルーシィなんで会話成立してるの」


 スプリーはルーシィの手を離れてトコトコ歩き出した。少し歩いて、ちらっとこちらを振り返る。


「おまいら〜俺サマのしっぽについてこ〜い、だそうで〜。ンフ、プフフフーッ」

 なにが可笑しいのか、ルーシィははしゃぎながら猫を追って歩き出してしまった。


「……おうちに案内してくれるようね」

「これは……。なんとなく奴についていった方がいい気がする」

「なぜそう思うんだ?」

 ロゼッタは(いぶか)しそうに訊ねた。


「あっちは聖地側の谷へと続いている。聖地方面へ下りるルートかもしれない」

 ティノはもうひとつ、と指を立てた。

「それについ先日も不思議なことがあった。あの猫ひょっとしたら、ひょっとするかもしれない」

 あてにならない霊感である。だがティノには奇妙な確信があった。


 スプリーがこの一帯のボス猫なのだとしたら付近の地理に詳しいかもしれない。聖地方面へ下りられるルートを知っているのかもしれない。楽観的すぎるが今は藁をも掴む思いだった。ここは是非とも猫の手を借りていきたい。

「ともかくアイツについて行ってみよう」


「スプリーさ〜ん、待ってください〜」

 ルーシィは先に旅立ってしまわれた。本人の承諾を取っていないが、なし崩し的にルーシィも強制参加だ。

 この瞬間、聖地探検隊は結成された。


「みんな、急いで出発しよう。さあ荷物まとめて! 行くぞーっ!」


 ティノは全員に出発の号令をだした。

 こうして正式に五人と一匹になった一行はいよいよ謎が渦巻く秘境、聖地に向けて出発したのだった。



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