激突!
―奥アゼル地方 ナユラ岳―
ナユラ山頂に駆けつけたティノは、ついに不良グループと対峙することになった。
ティノが射掛けた弓矢はもう少しズレていたらグリエンの足の甲を貫通していた。それが彼らの凶行を止めたが、事態をさらにエスカレートさせる要因になった。
「なんじゃぁワレぇ〜?」
「やめろ。今のは脅しだ。二度目は外さん」
脅しとはいえ突き刺さった弓矢はそれ以上の意味が込められている。少なくとも不良側はそのように解釈していた。つまり、「宣戦布告」だ。
二の矢を構えるティノの隣にロゼッタも姿を現した。
「大人しくみんなに祠を明け渡せ! さもないと、ボクが貴様らを粛清する!」
「あぁ!? なんでお前がここに……」
ロゼッタはクラスの中で最強の攻勢魔導士と目されている。だからこそグリエンは先手必勝、不意打ちで彼女を排除しておいたのだ。
しかし、戦闘不能にしたはずのロゼッタが予想外にも早々に復活してこの場に姿を現した。その原因は明らかだ。
目の前の小賢しいガキがロゼッタを助け、生意気にも挑戦してきたのだ。それが不良たちの神経を逆なでした。
「クソが! やるんかオドレらぁ!」
グリエンが地面を蹴り、砂利が宙に舞う。それが戦闘開始の合図となった。
弟分のザッツとリーバーが動き出す。
「やっぱこうなるか」
ティノとロゼッタも反応した。脅しが効かない連中であることは想定済みだ。
「露津訓老留!」
土使いのザッツがティノ目掛けて踏み込み、石つぶてを放つ。
迎え撃つティノはすでに弓を足元に置き、山刀とナイフをそれぞれの手に持って構えていた。
肉厚の山刀で石の弾丸を捌きつつ、半身になって石つぶての雨をかわしていく。曲芸のような身のこなしだ。
「なにィ!?」
驚愕するザッツ。その横から炎使いリーバーが側面からの射撃を試みた。
「オラァ……がッ!?」
リーバーがティノに火炎を発射しかけた瞬間、彼の射程を上回る遠距離から逆に狙撃された。
「うおおッ!」
火球がリーバーの胸を直撃したかのように見えたが、寸前ですぐに霧散した。これは脅し玉だ。
リーバーが火球が飛んできた場所に目を向けると、杖を構えたヴィヴィアンが立っていた。
「撃たせないわよ!」
「んだとォ〜?」
グリエンは狼狽した。
ヴィヴィアンというさらなる新手の登場という予想外の事態に泡を食ったかたちだ。
焦ったグリエンが導き出した最善手は、すぐ近くに倒れているライゴ・タイゴ兄弟と、謎の男にトドメを刺すことだった。
現時点では人数的に互角だが、倒れている者たちに復活されてしまうと不良たちの手に負えなくなってしまう。
グリエンは威嚇に使っていた棍棒を手にとり、ライゴ・タイゴ兄弟のもとへ走りながら大きく振りかぶった。
兄弟の頭に狙いを定める! しかしグリエンの思いどおりにはならなかった。
不意に側面から来た斬撃がグリエンを襲ったのだ。
「んがッ!?」
空飛ぶ光刃が次々とグリエンに飛びかかった。
グリエンは持っていた棍棒でかろうじて防ぐ。一気に守勢に傾いた。
「戦えぬ者を襲うとは、この卑怯者! ボクはもう許さん!」
ロゼッタは手に持った小剣を前面に掲げて振り下ろした。魔力で創造された剣が次々とロゼッタの周囲から放たれる。彼女が得意とする攻勢魔術、幻影の剣だ。
宙を漂う陽炎のように誕生した剣は、幾何学的曲線を描いて次々と解き放たれ、青白い光を帯びて空を裂いてきた。飛翔する無数の剣筋は迷いのない一直線の軌道。すさまじい猛攻だ。
「うがあぁァッ」
ロゼッタの歩みに押されるように、グリエンは後退していく。
「おのれェ!」
グリエンは右手を引いて魔術を撃つ体勢に入る。
「覇利毛苑!」
「させないッ!」
グリエンの突き出す手を狙ってロゼッタの幻影剣が正確にヒットした。実際に手のひらを刺し貫かれたような痛みがグリエンを襲う。
「痛ッでエエェッ!」
グリエンはたまらず後ろに転げた。
ロゼッタの幻影剣は射程こそ短いが、出の速さと狙いの正確さは群を抜いていた。
見事にグリエンの術の出掛かりを封じたわけだが、相手の動きを見る眼力と素早い判断、反射神経があってこそだ。ロゼッタは凄腕の接近戦エキスパートだった。
グリエンを援護するためにリーバーが動いた。
リーバーは対面のヴィヴィアンから離れて標的をロゼッタに切り替えようとしたが、それをだまって見過ごすヴィヴィアンではない。
ヴィヴィアンが普段使うような指一本で投射できる火炎魔術は、サイズも小さく威力はたかがしれている。しかし今日の彼女は魔導士の杖を持っているのだ。
ヴィヴィアンの両手から充填された高濃度火炎魔術が、杖の芯を通ってドカンと放たれる。精度の高いロングレンジ射撃だ。火炎弾は咆哮をあげて一直線にかっとび、リーバーの突き出した腕に直撃、炸裂した。
「ぐッがあああッ!」
魔力と魔力の衝突。
リーバーの身体強化魔術でコーティングされていた皮膚膜障壁が剥がれてゆく。魔力の侵食作用によって、ヴィヴィアンの攻勢魔術がリーバーの防衛魔術を破壊したのだ。
リーバーは腕を押さえて悶絶した。火傷被害はかろうじて免れたが、リーバーの最低限の防壁は失われた。
土使いのザッツはというと、ティノによって釘付けにされている。
「くそがあぁぁ、てめェなに避けとんじゃぁ!」
ティノは石つぶての攻撃を山刀で捌きながらすべて避けていた。
ザッツにとって攻撃が避けられるという事実は、彼に対する挑発と侮辱であり、彼のメンツに泥をぬるような行為だった。
どうも不良たちの間には互いの攻撃を受け合って痩せガマンしながら力比べをする文化があるのかもしれないが、ティノたちにとってはそんなもの知ったことではない。
ザッツは恨みがましい怒りに捕らえられていた。
仲間を援護するために前に踏み込んだものの、石つぶての魔術がティノに通用しない。
目の前にいるチビは、いわゆる素っぴん。魔力ゼロの素人なのだ。ザッツにとって虫ケラ以下の存在でしかない。その虫がこちらの動きを封殺し、あろうことか噛み付いてこようとしている。許されないことだ。
「殺す!」
ザッツは怒鳴り散らすが、他の仲間が押されている以上、どうしようもなく下がるしかない。
乱入者の思いもよらぬ攻勢に、不良グループの連携は崩れていた。
(いける!)
ティノは山刀の峰で石つぶての軌道を逸らし、捌ききっていた。
事前のカイトが知らせてくれた情報どおりザッツの石つぶては密度も精度も粗い。一定の距離を保ちさえすれば剣でいなせる。
そしてザッツの呼吸の間隙を見逃さず、瞬時に踏み込んだ。虚をつかれたザッツはとっさに身を屈めるが間に合わない。華麗に跳躍したティノの飛び蹴りが不良の胸元に突き刺さった。
「ぐはっ!」
ザッツの大柄な体が後ろに吹っ飛ぶ。
「カイト、今だ!」
「うん!」
ティノの呼びかけで身を潜めていたカイトが現れて前に走った。
カイトは倒れているガチムチ十頭身ブラザーズに駆け寄り、肩を貸して一人ずつ安全な場所へ運ぶ。
「クッソ、あんのガキャ……」
グリエンの見ている前でカイトは黙々と兄弟の救出作業をすすめる。
ティノたちの猛攻に追い詰められている不良たちはとても手が出せなかった。
「こっちだよ」
「ありがとう、カイト君……。ナイスワークだ」
「君はいいマッチョを持っているな……」
カイトはガチムチ兄弟を岩陰の安全な場所に退避させた。
兄弟を楽な姿勢にさせ、いつものように手際よく応急キットを取り出す。
「カイト君、あいつも助けてやってほしい」
ライゴが指さす先には、謎の黒衣の男が倒れている。
カイトは「うん、わかった」と小走りに作業に移った。
ガチムチ兄弟のすぐそばで、石のように丸くなっている女の子がいた。
「ヘイ、君もどこか怪我をしているのか?」
「ルーシィは、まるまってます」
「……」
「……」
この学院、変な奴が多いなぁ。ガチムチ兄弟はそう思った。




