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MAGIN ―聖双の魔導士―  作者: カシミア
第一幕 聖山
14/78

ヒーローと黒歴史

―奥アゼル地方 ナユラ岳―



 ナユラ山頂では、不良グループとガチムチ十頭身ブラザーズの死闘が続いていた。

「ここで決めるッ! タイゴ!」

「おうよっ! ライゴ!」


「「うおおォッ!! デュアル・弾丸・マッチョライガー・アタック!」」


 ライゴ・タイゴ兄弟の合体超必殺魔術が繰り出された。


「どうせ体当たりじゃろがい!」

 体当たりである。


 不良グループはその軌道を完全に見切った。素早いフットワークで左右に散り、ギリギリのところでタックルをかわす。

「おらあッ」

 そしてすれ違いざまにライゴ・タイゴ兄弟の脇腹にむかってケンカキックを見舞った。

「ぐふうッ」

 苦痛に呻き、片膝をつく兄弟。彼らにとって予定外のことが起こっていた。



「兄貴、どうもおかしい」

「ああ……、一体どういうことなんだ」

 兄弟は呼吸を荒げ、苦悶の表情を浮かべている。


「……俺たちの無敵の肉体魔術が効かなくなってきている……!」


 効かないというか当たってない。


「おどれらのワザはぜんぶ体当たりやろがい!」

「魔術でもなんでもないわい!」

「変態脳筋が!」


 不良たちは無慈悲にも真実を口にした。

 ライゴ・タイゴ兄弟にとっては苦しい展開となった。


 兄弟が無駄に繰り出す肉体魔術は、高所という厳しいコンディションも相まって、彼らのスタミナを確実に奪っていた。

 必殺の肉体魔術は次第にキレを失ってゆき、不良グループに容易に見切られるようになってしまったのだ。


「くッ、俺たちのキグルミ・マッスルスーツが……」

 彼らのパワーの源とされているキグルミも炎魔術によって焼き焦がされ、穴だらけですでにボロボロ。

 もはやスーツの効力は失われ、芯の部分(マッスル)だけの状態となってしまった。


「弱音を吐くな弟よ、俺たちはまだ《魂》を失ってはいない!」

 兄弟に唯一残された魂とは、獅子と虎のカブリモノ・マスクのことである。



「ガチブラー、がんばれー」

「あきらめないでー」

「タックル以外にないのかー」


 一般修練生たちの熱い声援が届いてくる。

 マッチョたるもの、守るべきものの期待に応えねばならない。


「行くぞタイゴ! 最終奥義だ!」

「応ッ! やるかッ、兄貴ッ!」

 ガチムチ十頭身ブラザーズは最後の気力を振り絞って己の肉体を奮い立たせた。


「「おおおおおおッ!! 情熱のスプラッシュフォルム!」」

 捨て身の最終奥義が放たれた。



 究極!!!!


「「アルティメット・ギャラクティカ・デュアル・弾丸・マッチョライガー・アタック!!」」



 体当たりは避けられた。

 カウンターで不良グループの三位一体の魔術を浴びることになり、兄弟は無残にも崩れ落ちた。


「なぜだ……奴らだって俺たちと同じくらい魔術だって使っているのに……」

「あんなに連発して……、どうして平気で立っていられるんだ……」

 無念の呻きが虚しく響く。

 不良グループはあざけり笑っているだけだった。


 ガチムチ十頭身ブラザーズが敗れた。

 この悲劇的結末は、応援していた一般修練生たちに絶望を突きつけるかたちとなった。



「つーか取れや、こんなフザけたかぶりもん」

「かぶりもんなどない!」

「やめろ!」

 不良のリーダー、グリエンが兄弟の魂といえるカブリモノ・マスクに手をかけた。

「や、やめろ……それだけはやめてくれ!」


「やりすぎだー」

「やめてあげてー」

「空気を読めー」


 一般修練生たちの悲鳴のような声が届いてくる。

 しかし敗れたヒーローにもう戦う力は残されていなかった。


「おどれらほんまドアホか。自分で黒歴史ひろげくさりおって」

「やめろおおぉぉ!」

 オーディエンスの悲痛な叫びも虚しく、兄弟のマスクの下が白日のもとに晒されようとしていた。

 まさにそのときである。



「ククククク……フハハハハハハ……ハァーッハッハッハッハッハ!」



 高らかな哄笑(三段笑い)が響き渡った。

 声の出どころに皆の視線が集中する。そこに黒衣の男が立っていた。


「……誰だ?」

「さぁ?」

 修練生たちがざわめく中、謎の男はゆっくりとした動きで口上を述べる。


「闇の(とばり)が落ち……今宵の邪眼もまた闇に染まる……。死にまつろわぬ闇渡り……(からす)の一羽、参る!」


 キリリッとした掛け声とともに、男は石の上からぴょんと飛び降りた。

 修練生の集団の波がさっと引いたので、黒衣の男は不良グループのいる山頂までダダダと小走りにやってきた。


「誰やお前?」

「ククク……。闇の(からす)は名を持たぬ。なれど、さしずめ†朽ちせし邪眼の闇鴉†と申しておこう……」


「チッ。病人ばかり来よるのォ」

「ッたるいのぉ」

 不良グループは距離をおいて男を取り囲んだ。



 謎の男は片目をアイパッチで覆い、全身を覆う漆黒のフード付きコートに長剣を背負っていた。

 両手には指貫きグローブを装着。隠された片目が疼くらしく、左手でしきりに気にしている様子だ。

 空いた方の右手が背中の剣をつかみ、口元に不敵な笑みをうかべている。


 観衆のひとりが指さして言った。

「あいつ、カローシじゃね?」

「ほんとだ、カローシだ」

「なんであんなキツい格好してるんだろう」


 カローシという名前の修練生は、根暗でまったく目立たない少年だと周囲からは認識されていたのだが、

「ククク……。我はカローシという男ではない……」

 と、本人に否定された。


「いや、カローシだろ」

「我は、†朽ちせし邪眼の闇鴉†!! カローシという奴など知らぬ!」


 場は不穏な空気に包まれつつあった。


「誰でもええわ、早よかかってこい」

「ククク……。哀れな者どもよ、最初に言っておく。我が邪眼剣は闇属性だ。闇は最強にして無敵。覚悟しておくんだな」

「ほうか」


 謎の男は剣を頭上に掲げ、「参る!」と駆け出した。



「邪眼剣・壱之型 地獄斬」

 大上段斬りが炸裂。

 長剣が地面に叩きつけられたが、不良たちは距離をとってこれを回避。一人がすれ違いざまにローキックをくらわせた。

「ぐっ……!」

 謎の男は片膝をつくが、すぐに立ち上がった。



「邪眼剣・弐之型 星砕き」

 大上段斬りが炸裂。

 長剣が地面に叩きつけられたが、不良たちは距離をとってこれを回避。一人がすれ違いざまにローキックをくらわせた。

「ぐっ……!」

 謎の男は片膝をつくが、なんとか立ち上がった。



「邪眼剣・参之型 神殺し」

 大上段斬りが炸裂。

 長剣が地面に叩きつけられたが、不良たちは距離をとってこれを回避。一人がすれ違いざまにローキックをくらわせた。

「ぐっ……!」

 謎の男は片膝をつくが、よろけながら立ち上がった。



「邪眼け」

 謎の男は突風に吹き飛ばされて動かなくなった。

 失神したようだ。


「どんだけあるんやそれ。ふざけとるんか」

 不良のリーダー、グリエンは風魔術の構えを解いた。

「つうか剣もろくに振れてないやんけ。こけ脅しもたいがいにせえ」

「まぁ俺ら三人に挑んできた根性だけは認めてやろうぜ」

「ただの馬鹿じゃが」

「どうやら、こいつでもなかったようじゃのう」



 こいつは一体なんだったのだろうか――


 謎の男が謎のまま秒殺されてしまったので、修練生たちは静まり返ってしまった。

 牙をむいた野犬が徘徊するように、不良たちは修練生たちに睨みをきかす。


 謎の男は戦闘不能。ガチムチ兄弟もダメージが大きく依然として動けない。完全に存在感を消した金持ち少年は隅っこで小さくなっていた。

 今やナユラ山の頂上は、不良たちによって恐怖で支配されていた。


「ちぃと来るのが遅かったか? 残った奴らはゴミだらけじゃ」

「どうする? もう骨太な奴はおらんが」

 グリエンは恐怖で硬直する一般修練生の集団を眺め回した。

「金もねえ、やる気もねえ、知らねえ、関係ねえ、見てるだけ……。しゃくにさわるのう」

 バチンと手を叩き、グリエンは吐き捨てるように言った。


「もうええわ、つぶすか! こいつら!」

 不良たちが動き出す。

 あわれな修練生たちが悲鳴をあげたそのときであった。



 ガツッという岩を穿つ衝撃音。

「おあっ!?」

 グリエンの足元に一本の矢が突き刺さっていた。


「動くな」


 岩場の上に弓矢を構えたティノが立っていた。



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