作戦会議
―アゼル地方 カリス岳―
ナユラ山の山頂を目指すティノのグループに、新たにロゼッタも加わって、五人の集まりとなった。
ロゼッタは、魔力・体力・知力の三拍子そろった優等生だ。エリート攻勢魔導士の卵として周囲から将来を有望視されている。
不良グループ撃退にむけてティノたちは頼もしい味方を得たわけだ。
そしてロゼッタは、ティノの想像以上にしっかりしていた。
「ティノ、今更な質問だが、このグループでは君がリーダーでいいんだな?」
「ああ、そうだけど。なにか?」
「確認しておきたいことがある。君たちはみんな攻勢魔導士には見えないが、不良どもを相手に戦えるのか?」
「もっともな質問だな……」
ティノは振り返って仲間を見渡した。
「まず、オレとヴィヴィアンは、こう見えても一応戦闘訓練を受けてる。どちらも師匠が攻勢魔導士なんだ。だから戦い方はわかる」
ロゼッタはうなずく。
「カイトとルーシィは完全に文科系だから、戦闘はしない」
「わかった。そこはボクも承知している。でもヴィヴィアンはともかく、ティノ。失礼ながら君の魔力適正はクラス内最下位だ。君自身の勝算はあるのか?」
「んー」
やはりそこ来るよねぇ、とティノは思った。
「その点なら、あたしが保証するわ」
ヴィヴィアンが横からフォローした。
「こいつの師匠は、あの一級魔導士のエース、アイシャさんなのよ。彼女の指導で、ティノの剣術と弓矢の技術はもちろんだし、体術ならトップクラスよ。だから魔術がなくても、生身の戦闘力だけでかなりスゴイのよ」
「戦闘力て、あのなぁ。まぁ、狩りぐらいにしか役に立たねーけどな」
「爆轟魔術のアイシャ殿か、もちろん存じ上げている。なるほど……彼女の指導なら安心できるな」
それでロゼッタはあっさり納得してしまった。
(師匠ってそんなにスゴイのか?)
他人からの直接の評価をほとんど聞いたことがないティノは驚いていた。
「あのさ、いきなりチーム戦ってのも不安だから、作戦会議やっておこうぜ」
「賛成賛成、やりましょ」
「賛成だ。戦いに備えての情報共有をしておこう」
ティノの呼びかけで一行は道端に集まって座り込んだ。
「改めて確認しておくぞ。相手は、風のグリエン、土のザッツ、炎のリーバー、この三人だ。おそらくリーダーのグリエンを中心に動いてくる」
情報を出し合って意見を交換し、戦い方をイメージしてみることにした。
「風の魔術は危険だ。なんつってもここは足元がアブなすぎる。午前中のカイトみたいに、崖っぷちで吹っ飛ばされたらヤバい」
「そ、そうよね。打ちどころが悪くてもアウトだわ……」
「グリエンの風の魔術はボクの体を吹っ飛ばすくらいの威力がある。足運びと姿勢には注意すること」
ティノはその場にある石ころを拾い上げた。
「土使いはたぶん、こういう石をフルに使ってくると思う」
「石ころなら無数に落ちてるから、弾丸には苦労しないわよね」
「問題は石のサイズなんだよなぁ。あまり大きいと剣で捌ききれなくなる」
「炎使いはどうだ? ヴィヴィアン、同じ炎使いとして意見は?」
ロゼッタが訊ねる。
「きっと、炎使いの射程距離が一番長いと思うわ。たぶん他の二人を援護しながら、遠くから牽制してくると思うの。あたしならそーする」
「射程はとても気になる」
ヴィヴィアンの話に耳を傾けていたロゼッタが手を挙げた。
「どんな魔術にも射程がある。射程が長いほどその力は減衰し、短いほどその力は増す……」
「魔導戦術論の講義で習ったわね」
魔力の射程は、攻勢魔術の基本だ。
射程は投入する魔力量と魔術のスタイルで決まり、威力とはトレードオフになる関係だ。
よほど強力な魔力の持ち主でない限り、平均的な魔導士の射程と威力の幅はだいたい見積もることができる。
彼我の有効射程を把握し適切に対処できれば、それだけ戦いの選択肢が増える。それによって戦闘を有利に導くのが魔導戦術論の教えだ。
「だから、できれば射程は知っておきたい。敵を誘って術を吐かせて、早めに有効範囲を知っておきたいんだ」
基本をおろそかにしない。ロゼッタはしっかりした性格だった。
「それじゃ、ここはオレが囮役になって……」
「それなら僕が知ってるよ」
それまでずっと黙っていたカイトが手を挙げた。
「え? カイト、あんたが?」
カイトはうなずく。
それからカイトは不良グループが使う魔術のかなり詳細な内容を、淡々としゃべった。
「すごいな、まるで見てきたかのように言う」
驚くロゼッタにカイトはぎこちなく微笑んだ。
「あいつらに、何回か絡まれたことがあってね……」
みんな押し黙ってしまった。
カイトの言葉が何を意味しているのか、理解できるからだ。
ティノはすぐに察しがついた。カイトはよく一人で森に入る。おそらくそのときの出来事なんだろう。
「ご、ごめん。今まで黙ってたことなんだけど……、隠しておきたかったわけじゃないんだ」
カイトはトラブルが起きても一人で抱え込むタイプだ。おそらく話すことで仲間に迷惑が掛かると思ったのだろう。
ティノはカイトの気持ちを察した。ヴィヴィアンもカイトの気持ちをよくわかっていた。
「カイト」
ティノとヴィヴィアンはカイトの肩に手をおいた。
「仇はとってやるぜ」
「あたしがぶっとばしてやるわ!」
「あ、ありがとう……」
三人の姿を見て、胸にせまる熱いモノを感じたロゼッタは自然と歩み寄っていた。
「あの……、ティノ、カイト。ボクは今まで君たちを、その、誤解していた」
ロゼッタは突然、改まった態度になった。
「今までボクは君たちを……侮辱していたんだ。ボクの無礼な態度を、どうか……ご、ごめんなさいっ」
そう言って深々と頭を下げる。ティノとカイトはびっくりして向き直った。
「そ、それを言うならこっちだって!」
「ロゼッタのことをさんざん……、勝手に悪く思ってた。ゆるしてくれ」
ティノとカイトも頭を下げた。
ヴィヴィアンはなんだか感極まって、全員の手を取って重ね合わせた。
「はい! んじゃ、お互い分かり合えたところで、気合い入れてきましょ!」
「お、おう」
「ティノ! リーダーのあんたがそんな小っさい声じゃダメでしょ。これからチームで行くんだからさぁ。ねっ、ルーシィ?」
「お〜〜〜っ!」
ルーシィはいつもどおり元気いっぱいだ。
「でもルーシィは、どうしたらいいの〜?」
ヴィヴィアンはそこらへんに転がっている岩を指差した。
「ルーシィはね、こーいうおっきい岩みつけて、石っころみたいに体まぁーるくして、隠れとき!」
「ふんっ」
ルーシィはどーんと胸をたたいて拳を振り上げた。
「ま〜↑か〜↑せ〜↑ろ〜↑!!」




