結成! 不良討伐隊
―奥アゼル地方 カリス岳―
ロゼッタは、徐々に元気を取り戻しつつあった。
岩場の日陰で休息をとったおかげで火照った体も冷え、フラフラと鈍かった身体反応も回復しつつある。
「三人の不良連中に襲われたのか?」
ロゼッタはだまってうなずいた。
「不意打ちを受けた」
詳細を聞いてみると、ロゼッタが三つ目の山、ナユラ岳に向かおうとしたところの隘路で背後から襲撃されたそうだ。
彼女はとっさに応戦したものの、風の魔術で岩壁に叩きつけられ、そこで気を失ってしまったそうだ。
カイトやルーシィも途中で被害に遭っている。
一同はお互いの情報を交換しながら、「卑怯な奴らだ」と怒りを新たにした。
「そもそもあたし、あいつらのことよく知らないのよね」
ヴィヴィアンがつぶやく。
「三人とも、今年入ってきた新入りでしょう? いつも授業サボってるし、ほとんど顔も見たことないのよね」
「あの三人はこの春に編入してきた新入りだ。炎使いのリーバー、土使いのザッツ、そしてリーダー格の風使いグリエン。わかりやすい元素霊魔術使いだ」
ロゼッタが級長らしい知識を披露する。
「奴らは兄弟なの?」
「いや。でも、三人は街住みの頃からの不良仲間で、地元では有名な悪童だったらしい」
「さすが級長。同級生の情報はすべておさえてるんだね」
「すべてってわけじゃない」
「その悪童がどういうわけか魔力の素養を見込まれて、うちの学院に放り込まれたってわけか」
「あいつらひどいわ。学院側もどうしてあんな奴らを受け入れたのかしら」
「そのあたりの事情はわからない」
ロゼッタは続ける。
「あの三人は、どう見ても年上だ。ティノやカイトより、ふた回りくらい体格が大きい」
「実際、年上なんだろう。規則の抜け穴なんてガバガバだしなぁ」
「ガバガバの規則……うちの学院ぽいよね……」
毒づくティノに皮肉めいた苦笑いをするカイトだった。
実際、魔導学院の入学条件は勧誘してきた魔導士の采配によるところが大きく、年齢制限や才能条件などの審査も線引きが曖昧なところがある。言ってしまえばコネさえあれば入学できてしまうのだ。
これは杜撰といえるし寛容ともいえるが、魔導学院という世間から隔絶された特殊な環境であるため、合わない者はとことん合わず早々に淘汰されてゆく。最終的には適応された人材だけに自然と収束していくようだ。
アゼル魔導学院の理念として、自然観における「混沌」を尊重しているので、「来る者拒まず、行く者追わず」「人の坩堝で何が起こるか見てみよう」といった、無邪気さと好奇心が哲学的な下地に内在している。この性格が運営実態にも滲み出ているのだ。
「それよりも、あの不良どもはあんなに道を急いで、何を狙っているのかしらね?」
ヴィヴィアンの問いに、しばしの沈黙のあと、ぽつりとカイトがつぶやいた。
「もしかして、エルダーの称号とか?」
「それはないわー」
「エルダー狙ってるのは、どっちかってえと、ここにいるロゼッタだろ。なあ?」
「……」
注目を浴びるロゼッタだったが、返ってきた回答はそっけないものだった。
「ボクはそんなもの、どうでもいい」
「? あれ……、ロゼッタの姉ちゃん、エルダーなんだろ? お前も狙ってるんじゃないの? 姉ちゃんみたいに」
「ボクは、ボクだ。姉上とは違う。そんなことより、今重要なのは――」
ロゼッタは立ち上がろうとしたが、痛みが走ったのか尻餅をついた。
「痛つっ」
「あっ、まだ動かないほうがいいよ」
カイトの制止を聞かず、ロゼッタは再び立ち上がろうとする。
「今重要なのは、奴らが悪人で、何か企んでるってことだ。野放しにはしておけない。ボクが奴らを止めなきゃ……」
「お前、あいつらとやりあう気なのかよ」
ティノは驚いた。ロゼッタは歯を食いしばり、不覚をとった屈辱に懸命に堪えているかのようだ。
級長らしい大人しくて生真面目で、優等生の見本みたいな奴だと思っていたのに、今ではその瞳の奥に炎のような闘志を燃やしている。
(こいつ、こんなに熱い奴だったっけ?)
「ダメよ、ロゼっちゃん!」
ルーシィまでもが今までにないくらい力強い声でロゼッタを引き止めた。
「ひとりじゃ、勝てないのよ〜!」
「そ、そうよ。せめて痛みが引くまで、じっとしてなさいよ」
ロゼッタはよろけながら立ち上がった。
「……大丈夫だ、もう歩ける。君たちには世話になった。礼を言う」
ふらふらと歩みを進めるロゼッタの背中にティノは声をかけた。
「おい、マジで奴らとやりあう気か?」
ロゼッタは無言で振り返らずに歩みを進める。
純粋な正義感にあふれているが、危なっかしい奴だ。ティノはそう思った。
貴族が生まれ持つという矜持というやつだろうか。単に意地っ張りなだけにも見えるが。
ティノはなんとも複雑な気持ちに襲われた。こいつをこのまま放っておくと、ケガでは済まなくなるかもしれない。
とはいえルーシィに加えてロゼッタまで同行させると、当初の計画が破綻してしまう恐れが――
などと逡巡しているうちに、ヴィヴィアンとルーシィがすっ飛んでいった。
「待って〜、ロゼっちゃん!」
「待ちなさいよ! 今のあんたを放っておけないわ!」
(ヲォン……)
ティノは目を覆った。やはりこうなるのか。
女子二人はロゼッタの手をとって離さない。
ロゼッタは戸惑いつつも、不思議そうにヴィヴィアンとルーシィを見ている。
「ロゼッタも連れてくわよ! いいわね?」
「どうすんの、ティノ?」
カイトが一応の確認を入れてくるが、もう決まってしまったようなもんである。
ティノは困り果てたように頭の後ろを掻いた。
「ビビ、おめェいつの間にか、コミュ障治っちまったようだな」
ヴィヴィアンは今頃気づいたように目をぱちぱち瞬いて、「そうね」カラリと笑う。
ティノは降参したように両腕をひろげた。
「仕方ねェ」
「ィ良し!」
リーダーの許可が降りたなら、あとはトントン拍子である。
「力を貸すわよ、ロゼッタ。あんたと、あたしらとで、不良どもをボコすわよ!」
ロゼッタの顔がぱあっと明るくなった。
「あ、ありがとう……」
さっと姿勢を正して片手を胸にあてる。魔導士の礼だ。
「感謝する!」
ヴィヴィアンと男子二人もあわてて答礼した。
「おお〜〜〜っ!」
ルーシィだけが拳を振り上げて、ぴょんとジャンプした。みんなが笑う。
ロゼッタも、はじめてそこで笑った。




