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MAGIN ―聖双の魔導士―  作者: カシミア
第一幕 聖山
10/78

小さなクラスメート

―奥アゼル地方 カリス岳―



 正午前にカリス山頂に到着した。

 先行して到着した数人のクラスメートたちが順番に祈りと刻印の儀式を済ませている。ティノたちもそこに並んで儀式を済ませた。


「やれやれ、何事もなくここまで来れたなぁ」

 山頂の祠から少し離れた見晴らしの良いところにティノは腰をおろした。


「彼らもヤツらとすれ違ったみたいだよ」

 カイトがその場にいたクラスメートと情報交換してきたようだ。

「あの不良たちが後ろから騒ぎ立てて追い上げてきたから、道を避けてやり過ごしたらしい」


「ふーん。いつごろの話だ?」

「クラートを出てすぐって言ってたから、かなり前だね」

「すんごいスタミナだな……。奴らはそんなに飛ばしてどうしようってんだ?」


 三つ目のナユラ山でチェックを入れたら、あとは折り返し、来た道を戻るだけだ。

 ということは、もう一度あの不良たちと遭遇するかもしれない。そのときに備えて注意が必要だ。


「ティノ、そろそろ太陽が真上だ。お昼にしない?」

「そうだな」

 最後のナユラ山を目指す前に、この場所で昼食休憩をとることにした。



 ルーシィが仲間に加わって、一行はさらに賑やかになった。

「あそこ〜、日陰になってるよ〜。あそこで休も〜」

「そうね、みんな行きましょ」


 樹木が生えていない岩だらけの山では、日陰になる場所は貴重だ。

 皆考えることは一緒のようで、涼しい場所に何人かで集まって、昼食の休憩をとりつつ談笑していた。

 四人はブーツを脱ぎ、裸足をのばしてくつろぎながら、途中見てきた様子について振り返った。


 ティノは声をひそませて話しかける。

「聖地の方へ降りられそうなルートあった?」

「いや、急な崖ばっかであっち側に降りるのはムリっぽいね」

「大人になったら皆あそこに行くんだ。どこかに道があるはずなんだが……」

 ティノはなかなか喉を通らない固形食をもごもご頬張りながらしゃべる。


「でもさ、別にあせんなくてもいいじゃない。この場所にはまた来れるんだし、今日じゃなくて別の日でもよくない?」

「それもそうだけど、もうあんまり日がないよ。悠長にしてるとあっという間に雪が降ってきちまう」


「なんの話〜?」

「大人の話なのよ。ルーシィも大人になったら話したげる」

「ビビは子供だよ〜。ルーシィといっしょ」

 ルーシィはヴィヴィアンによく懐いていた。というか、ヴィヴィアンがルーシィの手懐け方を心得ているようだ。



「ルーシィはさ、たしか技能魔導士を目指してるんだったよね。どんな術つかえるの?」

 カイトはなんとなく質問してみたが、ルーシィの受け応えは独特だった。

「ん〜?」


「あー……。えと、ルーシィの得意な魔術……ってなにかな?」

「ルーシィがいつもお部屋でやってること言えばいいのよ」

「んとね〜、ルーシィはお裁縫(さいほう)ができるよ」

「へー、お裁縫」


「この子が着てる服、自分で作ったのよ」

「えっ、そりゃすごい」

「そういえばそのスカート、ビビのに似てるな」

 その言葉を待ってました、と言わんばかりにヴィヴィアンはルーシィの肩を抱き寄せた。


「あたしの服ね、ルーシィにデザイン手伝ってもらったのよ。そしたら"ルーシィもこれほしい〜!"って」

「それで自分用に作っちゃったのか」


 にぱ〜っと笑顔になってルーシィはうなずいた。

「ルーシィはね、ビビちゃと()()()にしたかったの。それでマネしてつくりました」


「すげぇ……」

「マネってレベルじゃねぇ……」


 カイトとティノは感嘆の吐息をもらす。

 よく見ると、ルーシィの装束はヴィヴィアンのものと寸分違わぬ作りだ。これで熟練と素人の作品、と言われても一般人には比較できない。

 違うといえば生地の色くらいだ。ルーシィのスカートは新緑のような緑色をしていた。


 ルーシィはヴィヴィアンのスカートの(すそ)に手をのばして、うらやましそうにもみゅもみゅした。

「でもやっぱり、仕立て屋マシューさんの作品は〜、ものすごくものすごいのですね〜、はぁ〜リスペクトです」

 ワインレッドの光沢に手をすりすりさせて、ルーシィはため息をついた。


「でも、ルーシィの服よくできてるよ。将来有望じゃないの」

 カイトがお世辞の言葉を投げかけたが、ルーシィはぽゃ〜んとしていた。

 ヴィヴィアンがちょんちょんとつつく。

「褒められてんのよ、ルーシィ」

「いやぁ〜、へっへっへ〜。ありがたや〜」



 修練生の半分以上はルーシィのような、産業活動を主とする技能魔導士を目指している。

 その中で研究職や芸術職を除いては、ほとんどは物作りの分野だ。ルーシィのように手先がとても器用な人は多い。

 特定の分野に突出していて変人も多いが、その道の腕は確かだ。というのが、おおまかにティノが感じている印象だ。

 いわゆる文科系の修練生といえば、このような類の修練生をさしている。



「そうだなルーシィ、そのスカートよく似合ってる。かわいいぞ」

 会話の流れでティノもお世辞の言葉をおくった。会話のリレーでヴィヴィアンがルーシィに伝える。

「ルーシィは可愛いってさ」


「い〜やぁ〜↑ だーもぉ↓ ビ〜ビ〜ちゃルーシィか〜↑わ〜↑い〜↑い〜↑て〜。やなす〜、あへ#$」

 ルーシィは芋虫みたいな動きの反応を示した。

 ティノは困惑した。


 ヴィヴィアンはそのやりとりを涼しい顔で流していたが、内心では嫉妬の炎が燃え盛っていた。

(かわいい! かわいいだと!)

(貴様! あたしにはそんなこと!)

(言ってなかった! 言わなかった!)

(許さん! ころす!!)

 心の中で拳を振り上げる。杖握りしめる手に力みなぎる。



 そんなとき、偶然にも強い風が吹いてヴィヴィアンの帽子を吹き飛ばした。

「ああっ!?」

 三角帽子が岩の狭間に転がっていく。

「んにゃーっ!! あたしのぼうしーっ」


 やれやれ面倒くせえ、とティノが重い腰を上げて帽子を取りに向かった。

「気をつけて!」

「ま〜か〜せ〜ろ〜」

 誰かのモノマネらしい。


 帽子はすぐに見つかった。ティノが岩場の下に落ちた帽子を拾おうとした時であった。

 かすかに誰かのうめき声が聞こえた。


「ん? 誰かいるのか?」


 ティノは帽子を拾い上げ、声のする方向へとさらに岩場を降りていく。そこに一人の修練生が倒れていた。

 またこのパターンかよ! ティノは驚きつつも、冷静に応援を呼ぶ。


「みんな来てくれー、誰か倒れてるー! おい、大丈夫か!」


 女の子だ。

 修練生の意識は正常だが、苦悶の表情を浮かべている。どこかで見た顔だ、とティノは思った。

 なんとその少女は、今朝出発前に会ったばかりの、ロゼッタだった。


 ロゼッタを抱き起こし、日陰の岩にもたれさせる。そのとき痛みが走ったようだ。

「あうっ……」

「ごめん、どこか怪我してるのか?」

 ティノはロゼッタの体の様子を見る。

 彼女の短いスカートからのびた太ももが(まぶ)しすぎて目のやり場に大変困った。


「……背中を……うったみたいだ」


「背中か。アザになってるかもしれないな」

「なるほど、背中ときたか」

「背中ね……」

「ふーむ、オホン」

「……あー、ビビー? ヴィヴィアンさーん!?」


 頭上から声がした。


「ここよ。あとはあたしとルーシィでやるから。カイト、お薬だして」

「りょうかい、少々お待ちを」

 カイトは応急キットから次々に薬を出す。消毒薬、膏薬(こうやく)湿布(しっぷ)包帯(ほうたい)。それから飲料水。

「お前ホントなんでも持ってきてんのな、スゴイぞ。さすが困ったときのカイトさま」

「いやぁ〜、こんなこともあろうかとね」

「さ、男子はあっちいってて」

「「ハイ」」

 ティノとカイトはフェードアウトした。



 ヴィヴィアンとルーシィは、ロゼッタの介抱をはじめた。

 彼女の上着をゆっくりと脱がし、肌着をめくる。

(グワーッ、すんげえ綺麗な肌!)

 ヴィヴィアンは少なからぬ衝撃を受けた。


 陶磁器(とうじき)のように白い肌の背中だけが赤く腫れ上がっている。

 患部を消毒し、膏薬をぬり、湿布して胴体ごと包帯で巻いていく。


 ヴィヴィアンはチラッチラッとロゼッタの体に視線を這わせた。

 胸の発育状況ではヴィヴィアンの勝利である。

(っしゃ!)

 心の中でガッツポーズするヴィヴィアン。


「うぅっ」

 ロゼッタが痛みにうめいた。

「我慢よ、ガマン。骨が折れてないのは幸いだったわね」

 ロゼッタは唇を噛んで、傷が痛むのを堪えていた。


 よく見るとロゼッタの頰が赤い。ぼんやりと薄眼を開けて、視線はうつろだ。

 ヴィヴィアンはロゼッタの頰に手をあて、自分の額にも手をあてる。

「んー?」

 つづけて自分の額をロゼッタの額にくっつけた。

「きゃっ」

 ロゼッタは小さく悲鳴をあげて反射的に身を引いた。

「んー? 打ち身で熱が出たのかしら。うーん、そうでもない?」

「あ、あの、熱は……」


 すぐ近くでルーシィが二人の様子をニコニコ顔で眺めていた。

「お水飲んで〜、楽にしてね〜」

「……ありがとう」

 差し出された水筒を受け取り、ロゼッタは少しずつ飲んだ。ルーシィはロゼッタの火照った顔を三角帽子で扇いであげた。


 ロゼッタに服を着せながら、ヴィヴィアンはしつこくロゼッタの体を眺めまわしていた。

 しとやかな(たたず)まいが上流階級の風格を思わせる。

(こ、こんな破廉恥(ハレンチ)な格好なのに何故……!)

 そのときヴィヴィアンは、ロゼッタの妙にぼんやりとした目を見て、ようやく重要なことに気がついた。


「あれ? あなた、眼鏡は?」



「男子ぃ、もういいわよー」

 ロゼッタが落ち着いたところで、ヴィヴィアンは男子二人を呼んだ。

「「ハイ」」

 ティノとカイトがフェードインした。


 男子二人はヴィヴィアンの指示でロゼッタのなくした眼鏡を探すことになった。


「メガネ、メガネ……」

「あったよ、これだろう」

 カイトがすぐに見つけて持ってきた。


「壊れてないみたいだよ、よかったね。……あれ? でもこの眼鏡、度が入ってない?」

「か、返して!」

 ロゼッタはカイトが差し出した眼鏡をひったくるようにして取り、身につけた。

 目をぱちぱちと開閉させ、ロゼッタは眼鏡の具合を確かめているようだ。


「それ、ダテメガネ? 君、面白いね」

 ティノがカイトの脇腹をつつく。

「カイト、ロゼッタに失礼だぞ。だとしたら、それは女子の(たしな)みってやつだ。ファッションだ」

「そ、そうか。ごめん、ロゼッタ」

 もう一言だけ、カイトは付け加えた。


「でも、君のその眼鏡とても似合ってるよ。かわいいね」

 ロゼッタは、ぽかんとした表情でカイトを見つめている。


 ヴィヴィアンは状況を涼しい顔で流せなくなりつつあった。嫉妬の炎が燃え盛る。

(かわいい! かわいいだと!)

(カイト貴様! 貴様まで!!)

(二回目! 本日二回目!!!!)

(許さん! ころす!!)

 心の中で拳を振り上げる。杖握りしめる手に力みなぎる。


「ビビちゃ、まって。ロゼッちゃんに、何があったのか聞こう?」


 ヴィヴィアンの凶行はルーシィの絶妙なインタラプトによってかろうじて回避された。

 それから一行はロゼッタを介抱を続けながら、彼女に事情を聞くことになった。



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