始まリ
「――――ッ!!」
「――――――ッ!!」
朝から響く大声で私は目を覚ます。
いつものことながら最悪の目覚め。
不機嫌な顔をしたまま、のろのろと私は通学かばんの中身を確認する。
うん、大丈夫。
確認した後、部屋の外の状況を想像し思わずため息をつく。
階下での怒鳴りあいは未だに続いているようだ。
本当は近づきたくないのだが、そういうわけにもいかない。
リビングに下りると、何が楽しいのかまだ怒鳴りあいは続いていた。
……この嫌にやかましい二人が私の両親だ。
また些細なことで喧嘩を始めたのだろう。迷惑なことだ。
二人とも顔に大きなしわを寄せて互いをけなしあっている。
それを横目で見ている私は、多分死んだ魚のような目をしているだろう。
二人に気付かれないまま、私は食事を用意する。
私の小さな声の「いただきます。」も、その十数分後の「ごちそうさま。」もどうやら届いていないようだ。
だからこのあとに言う「いってきます。」もどうせ届くことは無いのだろう。
反応されないほうがむしろ助かる。矛先がこちらに向いてしまってはかなわない。
照りつける朝日。静かに大気を揺らす風。
雲は静かに流れ、とても気持ちのいい日と言えるだろう。
もっとも私の気持ちは晴れないが。
ふと軽く周りを見ると、私のように徒歩で通学する生徒がそこそこ見える。
仲間と談笑しながら、それは毎日が楽しいのだといった風に。
……私とは大違いだ。
「なぁ、聞いた?」
「何をさ。」
「転校生の話さ。女らしいぜ。」
「マジで? 俺、ワンチャンあっかな?」
「鏡見ろよ馬~鹿!」
他愛の無い、本当に他愛の無い話だ。
今の会話で何を笑うところがあるのかわからないのだが、それでも笑いながら話していた。
そういえば笑顔の作り方がわからないな。
……何年、私は笑っていないのだろう。
響くリノリウムの床。無機質な廊下。
校舎に入りため息を一つ、階をあがるにつれ更にため息を一つ。
教室に近づくたびに私の気は重くなる。
私には友達がいない。
いや、それだけならまだいいのだが。
ガラリと私は教室の扉を開けた。
それで中にいたクラスメートたちは一斉に私に注目するが、次の瞬間にはまたもとの作業に戻る。
……いや、何人かは私から目を離さずニヤニヤと笑みを浮かべている。
それを見るだけで吐きそうだ。何が面白いのか。どうせろくでもないことだ。
私は自分の席へと向かう。
自分の机を見て、ニヤニヤとこちらを見ていた理由がわかった。
ずたずたに彫刻刀か何かで机は切り裂かれ、マジックで大量の誹謗中傷が書かれている。
そして極め付けに水の入った花瓶が置かれているのだ。もちろん中には菊の花。
「ぐ……」
小さく呻いて、でも私が何を言っても何も変わらないことは知っていて。
何も無かったかのように、私は花瓶をどけて席に座る。
これが私。
嘉村かすみの。
とてもすばらしいくそったれの日常だった。
付け加えておくと机の中には腐った食パンが何枚か入っていた。